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ケモ耳でも悪くはない  作者: ルーシャ
6/7

最高で最悪な一日

ここが俺の仕事場か……。

ガレージの中にバイクをしまい、「事務所があるのは1階だけど、皆がいるのは2階だから早めに上がってきてね~」と言い残し、自分はさっさと行ってしまった菫たちの後を追う。

1階の事務所の中に入ると(本当に誰もいないなぁ……)

あたりは雑然としているが、誰もいない。並べられている机の上には、書類が散らばっており、さっきまで仕事をしていたかのようだ。(ええと、二階に上がる階段はと……お、あった!)

机の脇を通り抜け、2階へ上がろうと1段目に足をかけた瞬間

「あの……って平気なんですか?その……」

「サプライズって……」「忍、記憶がないって言ってたけど大丈夫?」

何人かの声が聞こえてきた。

「大丈夫よ今回はうまくいったわ。それよりもうちょっと声の音量下げて、あいつ耳が良いんだから聞こえちゃうでしょ」

いや、もう十分に聞こえているぞ。

(サプライズってなんだ?……何を企んでいるのかは分からないが、何か俺にしようとしているのはわかった。何かあった時のために身構えておこうか……いや、さすがにそれは失礼だな…ここは普通に自然体でいくか…)

そして、そのまま2階へと続く階段を上がっていく。

カン、カン、カン……

(おっ来たぞ……ガサゴソ……)

2階へ上がる足音を聞き、上から話し声は聞こえなくなったものの、ガサゴソと何かをしている音が聞こえる。

カン、カン、カン……――ガチャッ 扉を開ける。


「おっかえり~!忍!」

パン、パンとクラッカーの破裂音が鳴り響く。大きな音に驚いて尻餅をついてしまったが、気を取り直して部屋に入るとさらに驚いた。部屋の中は華やかに彩られていて、中央には「忍、退院おめでとう!!」と書かれた看板が飾ってあった。部屋にはおそらく全員がそろっていて、皆の手にはクラッカーが握られていた。

俺のためにこんな事までしてくれたのか……?

「忍、どう?すごいでしょ~」

「あの…ありがとうございます…」

「いいのいいの~、お礼なんて言わないで!君がここにまた来てくれたことのお祝いなんだから~!」

(か、歓迎されてる……)

内心とてもうれしくて感動していたが、それをあからさまに言うのもなんだか恥ずかしく、いかにも「別に興味ありませんけど」みたいな態度をとっていた。

が、そんな態度をとっていたにもかかわらず、「そんな、喜ぶなって」とか「も~本当に忍ってわかりやすいんだから~」とか、「忍、料理も作ってあるから食べなよ…そんなに嬉しいの…?」——以下略

などと変なことを言っている。確かに心底嬉しかったのだが、納得がいかない。

(ちなみに、それは忍の尻に下がっている尻尾が本人の意思とは逆に動いているからであり、尻尾の方はというと、尻からもげるのではないか思うほどに暴れている)

「じゃあ忍、改めましてだけど、ここで働く皆の事を紹介するね!君の仕事仲間なんだからちゃんと覚えておいてね」

「は、はい」

「じゃあ私からいくわね。私は透海菫(とうかい すみれ)、菫って呼んで。ここの事務所のリーダーやってるから何かあったら遠慮なく聞いてね!…ふふっ、忍なのにいつもの忍と違くて面白いわね…、これからまたよろしくね」

「よろしくお願いします……」

「次は……あ、じゃあ甚兵衛(じんべえ)ね」

甚兵衛と呼ばれた男は身長が2メートルは確実にあるだろう大男だった。

「おう、俺の事呼んだか?ハハッ、忍。お前が俺たちの記憶をなくしちまってるって聞いてよ、馬鹿馬鹿しい嘘かと思ってたんだがまさか本当の事だとは思ってもみなかったぜ。世の中色んなことがあるもんだな」

大男は威勢よくガハハと笑った後、自己紹介を始めた。

「俺は甚兵衛だ。よろしくな!甚兵衛って呼んでくれて構わねえぜ、まあ一応お前の上司だがな。あ、また仕事をするのはいいが、いつもみたいに変な事やらかさないでくれよ?しょっちゅう尻拭いをさせられるのは勘弁だからな。まあこれからも頑張っていこうな」

「はい、よろしくお願いします」

変な事ってなんだ?そんなに俺は何かをやらかしていたのか?……まあいいや、聞かなかったことにしておこう。

「じゃあ次は涼巳(りょうみ)ね」

涼巳と呼ばれこちらに来たのは小柄な少女?だった。

「私は涼巳といいます。悟りの族の生まれですのでたまに意図したわけではないのですが、心を読んでしまうことがあります。……そんなギョッとした顔をしないでください。大丈夫です、今は読んでいないので」

心が読めるのか……あんまり近づかないほうがいいかな。

「あ、でもあなたの場合はわざわざ心を読む必要もないですけどね」

おい……どういう意味だよそれ!

「次は、悠李ね。悠李とはさっき会ったから顔はわかるでしょう?」

「はい」

「それならよかった。悠李、次はあなたの番よ」

悠李という男は呼びかけに軽く頷くとこっちにやって来た。

「俺は悠李だ。お前とは同僚の関係だな……。以後よろしく」

素っ気ない自己紹介をし終え、悠李はすぐに戻ってしまった。戻るといっても静かに一人で佇んでいる。どうやら一人でいるのが好きらしい。俺の状態にはなんにも突っ込まれなかったので、逆に気が抜けてしまった。

「悠李…さん…はいつもあんな感じなんですか?」

「うん、まあいつもあんな感じかな。後、悠李さんじゃなくて普通に悠李でいいと思うよ」

「はい……」

「そういえば、さっき悠李の能力について説明するって言ってたわよね?」

「あ、そういえばそんなこと言ってましたね」

「ふふっ、この際だから悠李に直接聞いたらどう?」

「え、」

「いいじゃない、ほら、いったいった」

仕方なく、とても近づきがたいオーラを放っている悠李の元に行った。


「なあ、あの……」

「なんだ?」

「さっきの事を聞きに来たんだが…その…お前の能力?のこと」

「ああ、説明してなかったな……。聞きたいのか?」

「え、あ、うん」

「そうか……わかった」

悠李は神妙な顔つきで俺を見て言った。

「俺がさっき使った能力は瞬間移動(テレポート)という力で、この能力は空間と空間の間で物を自由に移動させることのできるゲートを開くんだ。さっきはこことお前がいたあの場所をリンクさせた。簡単に言えば、場所と場所を繋げて物を行き来させる事が俺にはできるということだ。どうだ分かったか?」

「ええとまあ、なんとなくは……、あっ、でもそれってどんな場所でも繋げられるの?」

「制限はある。例えば深い湖の底とか、燃え盛る火の中とか、物が送れる条件を満たしていないと瞬間移動は使えない」

「条件?」

「さっきはお前をここに連れてきたが、お前は…そうだな…空気のない場所では生きていけないだろ?」

「うん」

「つまり、お前を瞬間移動させるには空気のある場所にしか送れないという条件が付く。空気のない場所に送ったらお前は死ぬ、そうするとお前という価値がなくなるだろ?つまりはそういうことだ」

「あー…なんとなくはわかった…」

「それならいい。……逆に聞くがお前は本当に記憶がないんだな……、何があったんだ?」

そっか、さっきっから複雑な表情でこっちを見ているからどうしたんだろうと思っていたが、俺の事を一応は気にはなっていたんだな。

「えーと、まあ色々あって、かくかくしかじか――……」

自分の身に起きたことを軽く説明し、今に至ることを伝えた。

「そうか……それじゃあ、お前との関係も1からってことだな……」

「まあ、そういうことだね。これからよろしく」

それからふと疑問に思ったことを聞いてみた。

「なあ、ここにいるので仕事仲間(メンバー)は全員なのか?」

「そうだ」

それじゃあ菫、甚兵衛、涼巳、悠李、そして俺を含めると5人……このメンバーで暁宅配便の仕事をするのか。ていうか、宅配便ってこんなに人手が少なくて成り立つものなのか?

「まあ、裏の仕事があるからな……」

「裏の仕事……?ってなんだ?」

「それは――」

「は~~い!みんな注目!」

突然、話を遮ったのは菫の声だった。何かを運んできている。

「じゃじゃーーん!来たよ~皆さんお待ちかねのスペシャルゴールデンパーフェクトケーキが!」

そんな謎の長ったらしい名前と共に出てきたのは、巨大で不思議な色をしたケーキ……のようなものだった。

すると隣にいた悠李の顔が真っ青になり嫌そうに歪んだ。周りを見回してみると皆悠李と同じような顔をしていた。

「とうとう来たか……」

「え、どうしたの?」

「どうしたもなにも……」

「さあ、今日は忍の退院祝いでパーティ開いているんだから、忍からどうぞ!」

どうぞって……?

「えーとこれは?」

「だ・か・ら、スペシャルゴールデンパーフェクトケーキだって!私が作ったの!もう、しょうがないわね、自分で食べないならアーンしてあげるわ」

いや待て待て、アーンはまずいだろ…その…色々と。とりあえずそのフォークを持つ手を下げてくれ。

「わ、分かった……食べますよ……」

恐る恐るその不可思議な色をしたケーキを口に運ぶ。だが、口に入れる勇気がないのでフォークに刺さったままのケーキは口の前で一時停止した。変なにおいが鼻孔をくすぐる。

「全くもうどうしたの、ほらさっさと食べちゃいなさい!」

そう言うと菫は無理やりそれを俺の口内へと押しやった。

「…………!?!?」

口の中で化け物が暴れている!なんだこれは!?舌が千切れそうだ!こんな恐ろしいものを生み出すなんて菫はとんでもないヤツだ!

「!!!!」

そんなこと考えてる暇はない、水はどこだ!水、水!

「……!」

慌てて涼巳が俺に水を渡してくれた、あぁ一瞬彼女が女神にみえた。

一気に水を飲み干したが口の中にはまだ味がこびりついている、もっと水をくれ~!

それから俺は何杯水をおかわりしたのか覚えていない。

その後はもう散々だった。皆アレを食べさせられたらしく顔を真っ青にしながらトイレに駆け込んでいった。俺も水を飲みすぎてトイレにも何回行ったのか覚えていない。

うぅ……今日は最高で最悪な一日だ。








さぁてと、ようやく皆出てきた……。まあバシバシ頑張っていきやすか。

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