いざ、目的地へ
というわけで今に至るんだが、さっきからかけている電話が繋がらない。
「ああ、次で13回目だぞ、出ろよ……!」
「…プルルル…プルルル……プル、はい!!もしもし!こちら菫です!」
おっ!!ようやく出たーっ!!
「あの、今大丈夫ですか?」
「ん、どうしたの?」
「何回かけてもつながらなかったんで……」
「あら!そうだったの?!ごめん~。ちょっと涼巳と話がはずんじゃって電話なってる事に気づかなかったのよ~、本当にごめんなさい」
……今、俺の気持ちがわかるか?話し込んでたの、それで?理由ソレダケ?
……何回かけたと思ってんだよォォッ!!
確かに、今までの俺は普段通りに仕事があったわけだから何も不安はなかったが、今の俺は記憶をなくしててものすっごくわけわかんなくて情緒不安定になってるの!!わかる⁉
「あ、ああ、そうですか……。……それでなんですが――」
(くっ……!)それでも自分の感情を何とか押し殺しながら、今の状況を説明した。
「あら、そうなの?それは困ったわね……。あ、それなら今すぐそっちに迎えに行くからからちょっとだけ待ってて、すぐ着くから」
迎えに来るのか……それはありがたいな、ちょうど道があってるか不安になりか……ん、すぐ着く?こんな渋滞なのにか?
「え、えと…めっちゃ混んでますけど…」
「あら、大丈夫、大丈夫、待っててね、――…プープー…」
あ、切れた。一体どうやってすぐに来るつもりだ?羅針門の姿は見えるが、道にあふれている人影は、中々先に進んでいない。羅針門の先に行きたいわけではないのだが、この道を通らないと着かないはずだ。
「まったく、そんなすぐ着くわけ――」
「あ、忍いた!さっきはごめんね~」
いつの間にか、目の前に知った顔がみえる。
ていうか早っ⁉早すぎるわっ!ちょっと待って、3秒前くらいに電話切ったんだけど……!
「あら、どうしてそんなに驚いた顔しているの?悠李の瞬間移動を使えばすぐ来れること知っているじゃない…………あっ、そうか、忍って今記憶がなかったんだっけ……すっかり忘れてた」
そういえば、菫と呼ばれていた女の隣に知らない男が立っている。
「え、ええと……」
知らないヤツがいきなり現れたことに警戒して尻尾がボワッと膨らむ。
「まあ、とりあえず行くよ~ここにいると邪魔になるからね~…忍…?ああ、そっか、悠李のこと忘れてるんだっけ……なんか変な感じだな……。でもまあ、悠李の事は後で説明するから、もちろんほかのみんなの事もね!だから今は君と君のその愛車を連れて事務所に行くよ!」
戸惑いの表情を浮かべる俺を見ながらそう言い切ると、菫が悠李と呼んでいた男に何かを伝えた。すると悠李という奴がこっちに向かってきたが、ん?、いや違うな。正確には俺の乗って来た愛車に向かっている。(ちなみに、さっきから言っている愛車というのはツアラーと呼ばれる種類の黒い大きなバイクだ)
悠李という男はバイクの上に手をかざしてなにかをしてい……!!バイクが消えた!?俺のバイクはどこに行ったんだ!?
「よし、次は忍の番ね」
(はっ!?えっ!俺の番って……、俺もあのバイクみたいに消されるのか!?)
「じゃあ悠李、ちゃっちゃとやっちゃって」
(だから何をちゃっちゃとやろうとしてんの!えっ、ちょっと、なな何!?こっち向かなくていいから!)
悠李という奴が徐々にこっちに近づいてくる。
(ええと、俺どうされるの……!)
とうとう、目の前にやってきて立ち止まり、そして手の平をこちらに向けた。
何が起こるんだろう――尻尾を逆立てながら、ギュッと目をつぶった。
――真っ暗で何も見えない……まあ、目をつぶっているから当たり前の事なのだけれども、警戒心が強い(内心恐くてびくついている)から、どのタイミングで目を開けていいのか分からない。
ん……?辺りが静かになった?それに、心なしか匂いが変わったような……?
鼻をひくつかせ、辺りの匂いを嗅いでみる……やはり、何か違う。
恐る恐る、目を開けてみた。
「わっ!……って、あれ?これは俺のバイクじゃないか……何でここにあるんだ?」
驚いて辺りを見回した、周りの景色はさっきとは打って変わって静かな場所だ。
「はぁ、着いた!さあ、忍……あれ?、どうしたの?そんな驚いた顔して……あっそうか、瞬間移動したの記憶飛んでってから初めてだもんね、まあ、そのうち慣れるよ」
「あの…ここはどこですか…?」
「ここ?ふふっ、この建物には見覚えない?」
「建物……?」
目の前にはガレージ付きの二階建ての建物がある。
「いえ、まったくないです」
「ホントに覚えてないんだ……まあいっか、これから頑張っていこう!でも今から会う仲間とも初対面ってことになるから紹介しなきゃだよね!じゃあ、ついてきて」
「えっと、……で、ここは?」
「ここはね、君の目指していた目的地……つまり君の仕事場、暁宅配便で~す!!」
のんびり行こうと思っておりますゆえ、温かく見守ってくれるとありがたいです……(見てくれる人がいればだけど……)