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ケモ耳でも悪くはない  作者: ルーシャ
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ここから始まる道

しばらくのの間、鏡にくっつくくらいまじまじと自分の姿を見ていたが、トイレにやって来る男性陣に不審な目を向けられるのでいたたまれなくなって出てきた。

(なるほど、このケモ耳と尻尾は獣人族とやらの特徴なのか、しかしこの尻尾と耳は何の役に立つんだ?こんなもの、ついているだけ邪魔なのではないか――)

そんなことを考えながら自分の入院する部屋に戻っていると、

「忍~!忍~!」

俺の名を大声で呼ぶ声が聞こえた。驚いて尻尾が逆立った。

「忍~!あ、いた!」

おい、病院で大声を出すな、みんなが見ているだろう。

「忍、もう大丈夫なの?あれ?気のせいだったのかな」

俺の事を大声で呼んでいたのはこの美人のお姉さんか。とりあえずうるさい、病院では静かにするという暗黙のルールを知らんのか。

「忍、おーい忍?聞いてる?」

はいはい、聞いてますよ。

「あの……どちら様ですか?」

「え…どちら様って…えええええぇぇ!!忍⁉本当に忍⁉」

耳元で大声で叫ばないでくれ、耳がぶっ飛んでしまいそうだ。俺だって、知らない人(あんた)に声かけられて内心どうしていいのか分からないんだ。

「とりあえず、俺は忍で間違いありません」

「し、し、忍……。電話に出た時、忍の声で別人が成り代わって話していたのかと思ったけど…まさか本人だったなんて…。し、しかも忍、私の事覚えてないの?ホントに?」

もの凄く動揺しているな……。そしてこの前電話してきたのはあんただったのか。電話越しでも確かにすごくうるさかった記憶があるな、…するとこの人は俺の仕事仲間ってことになるのか…全く分からなかった。

「あの、もしかして俺の仕事仲間の人ですか?」

「そうだけど……ど、どうしたの?一体何があったの?」

仕事仲間ってことはちゃんと自分に何が起こったかを説明しといたほうがいいか。……面倒くさいな。

「そのことについて話すとなると、少し時間をいただくことになりますがそれでもいいですか?」

「え、ええ、分かったわ…なんか、調子がずれるわね…」

仕方ないだろ、あんたの部分の記憶がないからどう接していいのか分からないんだ。

「じゃあ、部屋の方で話しましょう」

そういうことで、今入院している部屋に移動することとなった。



「――ということなんですが、分かりましたか?」

部屋に着き、最初から説明するのはとても面倒だった。度々合いの手を入れてきて、いちいち答えを返すのにも骨が折れた。とりあえず大体は説明したから、なんとなくでもわかってくれたとは思う。

「ええ、なんとなくは分かった。要するにあなたは今、一部の記憶障害に陥っていて丁度私たち…いえ、自分の事、それに仕事の事に関しても記憶を失っているのね…」

「そういうことになりますね」

「そう……」

話を聞いてから彼女の様子が少しずつ変わっていった。最初のうちは相槌を打ちながら話を聞いていたが、話を終えたとたん黙り込んで何かを考えているようだった。


「ねえ、あのさ」

ふと、顔を上げた。

「ハイ?」

さっきとは打って変わって真剣な表情でこっちを見ている。

「あなた、これからどうするの?」

「これから……」

俺は無意識に尻尾をゆっくりと揺らしながら言われたことを聞いていた。

これから……正直、ものすごく考えていた。…自分がここを退院した時どうすればいいのか、記憶が一部欠落していることについてもこれからの生活に支障をきたさないか…とか。だが答えは中々見つからなかった。

「考えはしたけど……よくわからない。自分がこれからどうすればいいのか、も」

「そう……」

少し間があって彼女は口を開いた。

「じゃあ、もう一度こっちに来ない?」

「え……」

「あ、無理にじゃなくてもいいのよ別に…あなたは前の、私の知っているあなたじゃないんだし…、…ただ他に行くところがないっていうのならこっちに来るのはどうかなって思って…」

こっち……というのは俺がその記憶を失う前にやっていた仕事の事か。

「……考えてみます」

「そう……、私たちはいつでも歓迎しているわよ!行く当てがなくて迷ったらここにきてね」

そういって、彼女は名刺の裏に電話番号を書き残して帰っていった。



一週間後、検査をしても記憶が少し削れている以外で異常は見当たらなかったから俺は退院した。その時、先生にこう言われた。

「君が失っている記憶は一部だけだし、もしかしたらなんだが、何か強い思い入れがあるかもしれない所や、君の失った記憶に影響するものの近くにいれば衝動的に思い出すことがあるかもしれないよ。まあ、行動あるのみってところかな」

そうか、希望はまだあるのか……。

そして、考え悩んだ結果、名刺の裏に書かれた番号に電話をかけることにした。

「…もしもし、(あかつき)宅配便ですが…」

出たのは女性の声だったが、聞き覚えのない声だった。

「あの、俺近藤忍って言います…」

そのあと、俺は名刺に書かれていた名前を読み上げた。

透海(とうかい)(すみれ)さんはいないでしょうか」

「え、今忍って言いました?!え、嘘⁉菫って、…と、とりあえず姉さん呼ばなきゃ…、…おーい…菫姉さんおよびだって…!」

しばらく待ったのち電話越しに、

「え、誰から?」

「し、忍だって……!」

「えっ、え~!忍から⁉」

「ガガッ……忍⁉忍なの⁉」

電話の向こうから、色々な雑音が聞こえてくる。

「はい、忍です、今忙しかったですか?忙しいのならまたかけなおしますが……」

「いやいや、ぜんっ、ぜん大丈夫だから!それよりも電話をかけてきてくれたってことはうちでまた働いてくれるってこと!?」

「え、ええ、まあ……。行く当てと言っても特にないし、それに元々勤めていたところでもう一度働けば、何か思い出すかもしれないかなあと思って」


「わかったわ!じゃあ明日までは体を休めておいて、明後日から来て!仕事用の電話番号も教えるわ、場所と日時は――」


という流れとなり俺はどっちみち行くところがないので記憶をなくす以前の仕事を改めてやることにした。

この仕事とやらは俺がこんな事故を起こしていなければ普通に出勤していたはずなのだから、やめるというほうがおかしい気がする。とっとと記憶を取り戻して元の生活に戻れる希望があるかもしれないなら、それに縋りつくまでだ。

俺は、さっさと体を休めるため自宅へと帰途についた。(自分の家の場所は覚えていた。帰宅本能ってやつかな?)後ろでは尻尾が楽しそうに踊っていた。



やばい、設定がすでに見えなくなってきている…だとォォ…!ポンコツ頭ァァ!しっかりしろォォッ!

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