日常編4
「た、ただいまでござるー……」
「おかえりー」
かばん持ちという過酷なダイエットから見事生還したわたしは、洗面所にいって手洗いうがいをする。
ガラガラガラガラッ、ぺっ。
それから、鏡で自分の姿をチェックしてみた。
「……ふむ、見事なまでに変わってないですな」
帰り際、ユウちゃんから「おつかれ、お前すこしやせたように見えるぜ」と言われたからついつい嬉しくなったのだが……。
ぜんぜん、やせてへんやんけ。
ま、まあ一回ダイエットしたくらいでやせるわけないもんね?
よ、よし、明日もみんなでかばん持ちしようじゃないか!
いや、決してリベンジとかそういうわけじゃないからね……?
はあっと深い息を吐いてから洗面所をでたわたしは、自分の部屋へと直行した。
ガチャッと部屋のドアを開けると、
「おっ、彩子おかえりー」
「ただいまーって、お兄ちゃん早いね」
「おうよ。今日は午前の授業だけだ!」
わたしよりも先に帰っていたお兄ちゃんがペラペラとマンガを読んでいた。
相変わらず、友達とも遊ばずニートしてますなー。
こうはなりたくないものですな。
「って、それよりもアーニメっと」
わたしはリモコンを手にし、DVDプレイヤーを操作した。
「ふふんふーん♪ 今週の遊技王はー……あれっ?」
カチカチとボタンをクリックしていくうちに、違和感を覚えた。
それは確信に変わっていく。
ーー録画していたはずのアニメが……ない……っ!!
あたふたと焦りながら、もう一度録画した番組の一覧に目を通していく。
だが、しかし。
そこにはなかった。
「……お、お兄ちゃんやい」
「ん? どうした?」
「録画してた遊技王、もしかして……消した?」
「おう。だってあれ見たやつだろ? NEWっていう表示も出てなかったし」
「こぉんの、くそタッレえええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」
「えっ!? スーパーサイヤ神!!!?」
わかった、わかったぞ!! こんのバカたれがやりやがったんだ!!
たしかにあのアニメは昨日オープニングだけ見たからNEWの表示は消えてるはずし、こいつもドラマ録るからとか言ってた!!
つじつまは合うんだ!!
「……ううっ」
「お、おい彩子……?」
「ううっ、うえええええええええんっ! うえええええええええんっ!!」
「ちょ、おまっ、泣くなよ!」
だって、だって。あんまり……あんまりじゃないか!!
今日というハードな一日を乗り越え、鬼畜ゲーのようなあのかばん持ちという試練も突破した、のに……のに。
「あああああああんまりだあああああああああああああ!!」
「お、おい!?」
「せっかく楽しみにしてたのにいいい! お兄のバカあああ! バカあああ!(ポカポカポカッ)」
「わ、わるい! 悪かったって!」
必死になってお兄ちゃんは謝ってくるが、なおも泣き止まないわたし。
だって今回は超重要な回だったんだよ!? あの場之内が死んじゃうかもしれないんだよ!? それなのに……。
いつまでたっても泣き止まないわたしに、お兄ちゃんはやれやれといった感じでこう提案してきた。
「ほんとに悪かったよ彩子。お詫びに影川フィギュア買ってやるから、許してくれねえか?」
「……なんですと?(ピタッ)」
「お、お前、ぴたっと泣き止んだな……」
そんなことはどうでもいい!
今こやつめはなんと申した……?
「影川を……トビ雄を買ってくれるというのか……?」
「お、おう。それでお前が許してくれるならな」
「よかよかよ! 気にしないでくれたもう。いいんだよ、アニメなんて」
「ほ、ほんとか……?」
「うん! だって場之内死すって次回予告で出てたんだから。見なくてもわかるよ」
「お、お前なああああああ!?」
「じゃあトビ雄は頼んだよ、お兄ちゃんっ?」
最高の笑顔をお兄ちゃんにむける、わたし。
それを見てどう思ったのか、お兄ちゃんはそっぽをむいて呟く。
「ったく、しかたないやつだな……」
あっ、ユウちゃんと同じようなこと言ってる!
やっぱり似てるなあ。
ーーそして翌日。
わたしは幸福と喜びの渦中にいた。
どうしてかって……?
まずひとつ、お兄ちゃんが買ってくれたトビ雄フィギュアが手元に来たからさ。
「ふへっ、へへへっ。やっぱり二人が並ぶと様になりますなあ~」
陽射とトビ雄、二人で一人。
完璧やで、まったくよ。
あっ、それともう一つ。
実はインターネットで調べたら『場之内 死す』回がふつーにアップされてて、見ることができたのです。
いやあ、この感動は一度ダメだと絶望した先にしかないもんだよねえ。
なんだかんだ、こうなって良かったかも。
お兄ちゃんが録画を消してくれたおかげでプレミアムフィギュアをゲットできたし、見たかったアニメも別の感動を覚えながら視聴できたからね♪
あっ、これこそ『一石二鳥』ってやつだね!
うん、きっとそう!
「さっちゃーん、夜も遅いからもう寝なさーい!」
「ママーン、待って! わたしまだこのフィギュアを眺めてたいの! この二人で一人の感じがまたなんとーー」
「殺すわよ」
「……ママン……」
何度もいうけど、こうなったマミーにはひとことも言い返せません。
わたしはおとなしく歯磨きをしてから、布団にもぐりこんだ。
はあ、今日も楽しかったなあ。
明日はどんなことがあるんだろうな。
……ふへっ、へへへっ。
じゃあみんな、おやすみなさい。
ーーまた明日。