表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

日常編3

そんなこんなで、下校タイム。

三十路みそじちゃんの言いつけをすっぽかしたわたしは、いつものようにユウちゃんと一緒に帰っていた。


「それでねー、昨日見るつもりだったアニメが見られなかったのよ。ママン、ひどいと思わないかい?」

「んー、といってもオレたちまだ小学四年生だぜ? みんなその時間帯には寝てるよ」

「マジっすか……? わたし、だけが特別じゃ……なかったんだ……うはっ」

「なんでそんな中二病っぽい言い回しするんだよ」

「とにかく、はやく帰ってアニメ見なきゃなの!」

「へいへい」


 ほんと、この殿方はわかってらっしゃるのかね。

 それからしばらく歩いたところで、後ろから二人の男女の声がきこえてきた。


「おーいー!」

「ちょっと待ってくれやーい!」

「おっあれは、チコちゃんにオンドゥル氏ではありませんか!」

「あいつらか」


 横並びになって歩いていたわたしとユウちゃんが振り返ると、そこにはわたしたちの友達がいた。いわゆるイツメンってやつさ、……ふっ。

 どこから走ってきたのかはわからないが、二人ともハアハアと息を荒げている。


「チ、チコちゃんやい、大丈夫?」

「はあっ、はあっ、う、うん。も、もう、だいじょうぶだよっ」


 この身体の弱そうな女の子はわたしの親友、唯一無二のマブダチ、篠原しのはらちこちゃんさ!

 さらさらしたまぁるい髪の毛がすっごいきれいなんだよねえ。

 んはっ、フローラルの香りが……っ!


「それにしても、オンドゥル氏のほうは全然平気そうですな!」

「おうよ! オレっちはムキムキだからな!」


 こっちの、いかにも元気があり余ってますよ感を出している男の子は、オンドゥル氏。

 もちろん、本名ではござらんよ。じゃあ、どうしてオンドゥルかって?


「ひ・み・てゅ☆」

「お前、誰に言ってんの?」


 やっべ、ついつい口に出してしもうた。まっ、ユウちゃんだからいいよね。

 ともかく、二人の友達と合流したわたしたちは、他愛のない会話を楽しみながら歩き出した。


 夕焼けに染まった空のもと、たくさんの赤とんぼがあっちこっちで舞っている。

 同じ場所をいったりきたりするそれらが、まるでデパートで迷子になったこどもみたいで、おかしかった。

 ママンどこー、ママンどこなのーってね。


 家に着くまで残り100mくらいだ。ちなみに、この四人の中ではわたしの家が一番近いのだ。いいでしょー?

 そんなことを考えていると、オンドゥル氏がなにかを思いついたようで、わたしたちの目の前にでてきた。


「なあ、せっかくだしさ。今からかばん持ちやらね?」


 自分のしょってる青いランドセルを親指でゆびさし、にかっと笑う。

 か、かばん持ちかあ……。

 わたしには早急に帰ってアニメを見るという使命があるんだ。ここは場之内じょうのうちくんのためにも断らなくちゃ……死ぬなよ、場之内じょうのうちくん!


「すまぬ! わたしには帰らなくちゃいけない場所が……あるから」

「なんでそんな意味深な感じでいうんだよ。オレはやるぜー」

「あ、あたしもしようかな……」


 ん……だと……っ!?

 内気なチコちゃんならやめとくだろうと思ったのに……。

 これじゃあ、わたしだけ仲間はずれじゃん!


「うっし、んじゃサイコ以外でやるか! またな、サイコ!」

「またね、さっちゃん!」

「ちょちょちょ、ちょっと待ちゃあ! やっぱりわたしもやる!」

「用事あるんじゃねえの?」

「いいのいいの! はやく帰ればいいんだし!」

「んーでも、なんか申し訳ねえなあ」


 んもう! そんなこといいの! わたしを仲間はずれにしないでよ!

 と、そこで頭のいいユウちゃんがいいアイデアをひらめいたようで提案してきた。


「それじゃあこういうのはどうだ?」

「ん?」

「ここからだともうすぐで彩子さいこの家だろ? だったらさ、特別なルールをつくったらどうだ?」

「特別なルール……?」


 その場にいる全員が首をかしげた。

 ユウちゃんは続けて言う。


「今からするじゃんけんで彩子さいこが勝てば、ランドセル置いて家に帰ってもいいぞ? オレたちがあとで持って行ってやるから」

「おお! それじゃあつばさが生えたように、軽い足取りで家に直行できるわけですな!」

「そうそう」


 なんと、それではいち早くアニメが見られるではありませんか!

 こいつはいいぜ!


「……ただし」

「ただ……し? 二組の佐藤正ただしくんがどうかしたの? もしかして好きなの? ん? どうなんだい?」

「えっ!? 有馬ありまくん、佐藤さとうくんのことが好きだったの!? そんな! 不純だよ!」

「お前らはなにを勘違いしてんだ! さっきの『ただし』は『でも』っていう意味だよ!」

「ひどいわゆうくん……。オレっちというものがありながら……ううっ」

剣崎けんざき、お前は黙ってろ!!」


 ナイスボケだよ、オンドゥル氏!

 あっ、剣崎けんざきってオンドゥル氏の本名ね。


「ったく……。んで、もしお前が負けたらだけど……お前、自分の家の前までみんなのランドセル持ってけよ?」

「……バカな。貴様、わたしは女の子だぞ……?」

「だいじょうぶだ。これ、いいダイエットになると思ーー」

「ーーおまいら、じゃんけんの用意はできたかよ?」

「……切り替えはぇな……」


 ユウちゃん、わたしのウイークポイントをよくご存知で……。

 さすが幼なじみといったところかしら。

 ふふっ、よく考えてみればこのゲーム、わたしに都合のいいことばかりだわ。

 勝てばその瞬間に帰って場之内じょうのうちきゅんの最期を見ることができる。

 負けたとしてもダイエットになるし、帰る時間が遅くなってもアニメは見られるもんね。


 これが今日習った『一石二鳥』というやつね。

 ……いや、違うか。

 よし、ここはひとつ面白いことをしてやろう。


「おまいら、わたしはパーを出すぜよ?」

「おっ、心理戦か。上等じゃんか!」

「いやちがう。わたしはあくまで、みんなとの信頼を確認しようとしているだけなのだよ」

「……つまり?」

「わたしはパーを出すからみんなチョキを出しなよ。簡単なことだろう?」

「それが嘘だったら、オレたち全員負けるじゃねえか」

「ノンノンノン。わたしが嘘をついたことがあったかしら?」

「あるな」

「あるある」

「……あるね」


 みんな即座にうんうんっと首を縦にふった。

 くうううっ! 確かにうそはつくけどさ、そこはつかないねって言うところでしょ!


「と、とにかく……っ! わたしのことが信じられるんだったら、みんなチョキを出したらいいの! じゃあいくよ?」

「ったく、しかたねえな」

「だな。いっちょやってやるか!」

「うん……」

「せーの!」


 わたしの掛け声とともに、みんなが腕を大振りに動かす。

 こういうときのじゃんけんって、なぜか力が入って腕をふっちゃうよねー。


「「「さいしょはグー! じゃんけんーー」」」

「「「ぽいっ!!」」」


 グー、←わたし

 パー、←冷たい視線をむけてくるみんな


「あはん……」


 さーて、ダイエットでもしよっかなあ……っと。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ