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リヴィノイドの取扱説明書  作者: 青柳蒼
4/10

説明書 リヴィノイドとお出掛け

 私が初めて組み上げたリヴィノイド、霜は、とても良く出来た子だった。

 掃除をやらせればカビや埃一つ見逃さない完璧さでこなし、洗濯をさせればアイロンがけまでキチンとやってくれて、料理の腕もレストラン並み。

 これまで、掃除は虫が怖いから頑張ってやってたけど、洗濯は適当だし、料理なんてドンブリ一杯の何かが出来上がればそれでいいやって感じだった。

 今や自分でやらずとも、どこもかしこもピッカピカ、丁寧に畳まれた良い匂いの服を着れて、一汁三菜レベルの健康的で美味しいご飯が食べられる。

 素敵だ。実に快適な暮らしが、たった二十万そこそこで手に入ってしまった。文明の進化、万歳!



「霜、買出しに行くよ」

 霜はきょとんとした顔で首を傾げた。

「どちらへお出かけになるんです?」

「霜も行くんだよ。霜の服とか靴を買いに行くの」

「僕の……」

 途端に霜の表情がパァっと明るく華やぐ。

「服は顔を見て選ぼうって思ってたからまだ無いんだ。今着てるのは兄貴のお下がりなんだよね。靴だって、仮で用意したサンダルだし。ちゃんとしたのが必要でしょ」

 霜に着せているのは、私には大きすぎて着れないTシャツとジーンズだ。持ち服の少なかった私は、実家を出る際に兄が着なくなった服を適当に引っ張って持ってきたのだ。奴はそんな服を山と買い与えられているから気付くことは絶対に無い。部屋着にでもなればと思っていたけれど、こんなところで役に立つとは思わなかった。

「聡里さんにはお兄様がいらっしゃるんですね」

「まあね。あんまり仲良くはないけど。ほら、行くよ」

「はい!」

 まるで尻尾を振る犬のようにいそいそとお出かけの支度をした霜を連れて、新京極の方へ向かった。寺町通りと新京極を行き来しつつ、お店を漁る。勇んで来たけど、いっぱいありすぎてどれがいいか迷う。

「霜、どんなのがいいかな?」

「僕が決めてもよろしいのですか?」

「そりゃもちろん、着るのは霜だから。気に入ったのがあったら言ってね」

「聡里さんの好みはどんな感じですか?」

 周囲を見回して、とある店のディスプレイに目が行った。

「あんな感じの、いいね。ちゃらくなくて、シックなのがいいな」

 気に入ったのがあったら……なんて言いつつ、色々な服を霜にあててみるとどれも似合うから、私好みの服をついあれもこれもと霜の身体に当てていく。

「凄いな。どれも似合うね。霜、どれがいい?どれにしようか?」

 それを聞いた霜は、ぷっと吹き出した。

「聡里さん、楽しそうですね」

「うん、何か楽しいぞ。何でも似合うから自分の選ぶより楽しい」

 自分のなんて、選べるのが少ないから迷う事もそんなに無い。

「楽しんで頂けて何よりです。聡里さん、隣のお店も似た系統のようですよ。あちらも見てみませんか?」

「うん、行ってみよう」


 その後も数軒見て回り、財布と相談しつつ服一式を二揃え購入した。

「服を選ばせて頂けるとは思いませんでした。マスターが選んで買ってくるのが一般的だとネットにあったので」

 今着ている買ったばかりの服と買い物袋を交互に見て、霜は目元を綻ばせる。

 選ばせるの、変かな?でも、私の服のセンスはイマイチだからなぁ。リヴィノイドならば客観的に自分に合う服を選べるんじゃないかと思ったんだよね。

「ヨソはヨソ、ウチはウチ。高い物は無理だけど、それでもなるべく着たいものを着てて欲しいんだよ」

「僕は、幸せなリヴィノイドですね。僕を尊重して大切にして下さる優しいマスターに出会えて、本当に嬉しいです。聡里さん、僕を作って下さって、ありがとうございます」

 私の手を握って、泣きそうな笑顔で霜が言う。涙が出る機能があったら本当に泣いてそうだ。

「お……大ゲサだな。服選ばせたくらいで。家事全部やってもらってて、こっちの方がお世話になってるんだから……。ありがとうを言わなきゃいけないのは私の方だよ」

「そんな……、僕は聡里さんのお役に立つ為に存在しているのですから、感謝なんて……」

 ふと回りを見ると、ジロジロ見られている。霜自身が目立つ容姿なのも手伝っているんだろう。

 ヤバい。恥ずかし過ぎる。

「霜、わかったから、とっとと帰ろう」

 霜を引きずって逃げるように新京極から出て、家路を急いだ。


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