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リヴィノイドの取扱説明書  作者: 青柳蒼
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説明書 リヴィノイドとお別れのしかた

 熱を出したあの日以来、霜が辛そうな表情をする回数が増えた。私に見られないようにしているけれど、気付いていた。

 何気なく私に触れようとした時や、嬉しくなって抱きつこうとした時、躊躇って手を引っ込めて、けれども不自然だと気付いて結局軽く頭を撫でて、後で目を離した時に起こる。霜が気にしないようにと私は気付かないフリをして、以前と同じように接している。急に態度を変えたりしたらきっと、霜は混乱して壊れると思ったから。


 原因が起動プログラムにあると気付いてから、私はプログラミングの勉強を始めた。

 本来であれば、販売会社へクレームを付けて無償修理をさせるのが当然なのだが、購入時の但し書きに初期不良以外のサポートは一切無しと明記されていたから、それは不可能だった。初期不良対応期間は商品到着後から二週間以内。自分でどうにかするしかない。


 霜が『私が霜に恋愛感情を持っている』と誤認してしまったのは、私の接し方に問題があったからなのだろう。

 素人初心者のくせに気合いを入れてとにかく人間に近い外見に造って、実際に出来上がった霜は人間と間違われる程の出来栄えだ。そのせいか、私は霜をただの家電として接することに抵抗を覚えていた。だから人間と接するように霜と接していた。そこが間違いの元だったのだと思う。

 私はあくまでも霜をリヴィノイドとして扱っているつもりでいたけれど、やはり行き過ぎて人間扱いに等しいことをしてた。

 普通生活してて、炊飯器に『美味しいご飯を炊いてくれてありがとう』なんて言わないし、冷蔵庫に『いつもありがとう』なんて感謝の言葉を口にしたりはしない。

 顔や声、動作や表情があるだけで、霜だって炊飯器や冷蔵庫と同じ家電製品なのに……。

 リヴィノイドに親近感から出る親切と、恋愛感情から来る優しさなんて判別できるはずが無い。ただ優しくしてくれるから気に入られている、だから恋愛感情を持ってくれていると認識する。単純な図式だ。

 一度誤認させてしまったことを正すのは難しい。プログラムによって既に霜は私を恋人として認識してしまっている。プログラムを修正しない限り、恋人じゃないという私の命令とプログラムからの恋人であるという指令の狭間で混乱し続けることになる。

 今の所、霜はちゃんと動いてくれている。壊れてしまう前にプログラムの修正が出来るようにならなきゃ……。


 状況はどうあれ、日は昇るし夜は来る。時間が経てばお腹も減る。朝が来れば平日は学校へ行かなきゃならない。騙し騙しの状態で、私は状況を打破する為に勉強するしかなかった。

 そんなある日の水曜日、学校が終わった後に恒例の買出しへ出掛けた。スーパーの前には既に待機していた霜がいて、私の姿を見つけると、笑顔で手を振ってくれた。私はそんな霜の姿に、安堵した。

 高野川沿いにあるこのスーパーは、家から歩いて大体10分ほどの所にあり、ちょっとしたショッピングモールのような所なので重宝している。

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