説明書 まえがき
「先生、新たなアクセスがありました」
先生と呼ばれた人物が顔を上げてこちらを見る。
「どこの誰かな?」
これまで何度もアクセスはあった。けれど、今のところ先生の気を惹くような人物からのアクセスが無かった為か、先生の声は事務的だ。
「これは……、すみません、少し時間を下さい」
「君のマシンパワーを以ってして時間をかけさせるとは……。これは楽しみだね」
今までに無い状況に、先生の期待が高まっているようだ。
「解析が終了しました。アクセスはリヴィノイドからではなく、旧式のマシンです。MOO社製デスクトップ型、2050年に製造されたものです」
「ほう。旧世紀の遺物がまだ残っていたとは、驚いたね。しかもそれを扱えるとは大したものだ。どんな人物か楽しみだ」
「使用者は五条聡里、18歳。F大学の文学部国文学科一回生。京都府左京区、元田中駅付近の学生専用マンションに一人暮らし。出身は東京都」
「どれどれ、……ああ、名前を書けば入れるような大学じゃないか。見込みがあると思ったが、そうでもないようだね。……いや、引き続きモニタリングをしてくれたまえ。次にアクセスがあるようなら値段を下げなさい」
先生は彼女に決めたようだ。この釣りを始めて早二カ月。ようやく先生の計画が、実行に移される時が来たらしい。
「わかりました」
俺には拒否権はない。ただ従い、受け入れるしかない。それが俺の存在理由だから。