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シャウのお願い2

 「シャウ……か……この忙しい時に!」

 リュウはイラつきながら青年をシャウと呼んだ。彼は加茂別雷神かもわけいかづちのかみ、有名な雷神である。


 「リュウが後輩の、しかも女の子をいじめているんだナ!いい証拠写真なんだナ!シャウ!」


 「ばっ!いじめてねぇよ!こいつが勝手に泣き始めて俺様が笑顔に戻そうと必死だったんじゃねぇか!」

 シャウにリュウは怒鳴った。


 「いじめる男は皆同じことを言うんだナ!正義のためにシャウがこの写真をメールに添付してオーナーに送るんだナ!シャアウ!」


 「うわー!やめろぉ!お前が動くと話がややこしくなるだろうが!ていうか、お前なんでオーナーのメルアド知ってんだよ!」

 リュウはシャウのアンドロイド機械を奪おうと動き回るがシャウは軽く避けた。


 「シャウは雷神なんだナ!電気だからサクッとハッキングなんだナ!シャウ!」

 「おーい……誰かこいつを捕まえてくれー!この能天気野郎!」


 「シャアウ!」

 リュウは必死にシャウを追うがシャウはとても楽しそうだった。


 「お前、何の用でまた竜宮に来たんだよ!」


 「リュウがタニちゃんとCM撮影するって聞いたからシャウも出させてもらおうと思ったんだナ!シャウ!」


 「どこで漏れたんだ?その情報……。」

 ニコニコ笑っているシャウをリュウは蒼白の顔で見つめた。


 そんな二神を窺いながらタニがそっと口を開いた。


 「あ……シャウさんもCMに出るんですか?あ、シャウさんはお客さんなのでちょうどいいですね。これでオーナーからお仕置きされなくて済みますよ。」


 「おまっ……俺様を信用してなかったな?コラァ!」

 リュウが怖い顔でタニを睨んだ。タニはプルプル震えると再び目に涙を浮かべた。


 「ごめんなしゃい……。」


 「ああっと……わりぃわりぃ。頼むから笑ってくれー……。こっちは去年の事もあってわりとガチなんだよー……。」

 リュウは慌ててタニをなだめる。


 「かわいそうなんだナ!こんなかわいい女の子に『コルァ!』はないんだナ。リュウは顔も怖いから余計に泣かせちゃうんだナ。タニちゃん、おいでおいでなんだナ!シャウがよしよししてあげるんだナ!シャウ!」


 シャウはまるで猫でも撫でるかのようにタニを可愛がり始めた。

 タニは徐々に顔がほころんできてほんわかした顔に戻った。


 「お!」

 リュウがタニとシャウの様子を見、これだ!と写真を撮り始めた。


 ほんわかとした少女を優しく包み込む青年。バックはきれいな海。


 「おお……実に楽しそうだぜ!これはサイトのトップ画面に……。タニ!いい笑顔だ!その調子!」

 「……っ!」

 リュウが盛り上がり始めた刹那、タニの雰囲気が焦りに変わった。


 「ん?おーい、どうした?」

 「あっ……あの!顔が元に戻りません!あ、あれ?笑顔のままなんですけど!」

 「はあ?馬鹿言ってないでもっといい笑顔を見せろ!」

 タニは必死に声を上げているが必死そうに見えない。顔はニコニコと楽しそうに笑っている。


 「笑顔が一番なんだナ!シャアアウ!」

 「あああ!頬がぴくぴくします!助けて!元に戻らない!怖いぃぃ!」


 タニは必死に泣き叫び、リュウは慌ててタニを救出した。


 シャウから……。


 「ひぃいいいん。顔が元に戻らないよぉ!怖いよぉ!」

 タニは泣きながらリュウに抱き着いていた。


 「はあ……シャウ、てめぇ……微弱の電流をタニに流して筋肉をつり上げただろ?」


 「ちょっとだけなんだナ!女の子は笑顔が一番なんだナ!スマイルスマイルなんだナ!シャアウ!」

 「……馬鹿野郎!てめぇのが悪魔だろ……。」

 楽しそうなシャウにリュウは呆れながら深くため息をついた。


 「……ん?タニ……おい!大丈夫か?」

 リュウはしがみついたままのタニに声をかけた。しかし、反応がない。


 「おい!タニ!……って気絶してやがる……。」

 タニはリュウにしがみつきながら気を失っていた。


 「元はと言えばリュウがあんな怖い顔をしているからいけないんだナ!タニちゃん、かわいそうなんだナ!シャウ!」

 シャウはリュウに対し、怒っていた。


 「い、いや、これはお前だからな……。はあ……神格が低い女神ってどう接したらいいかわかんねぇなあ……。よっと。」

 リュウは固まっているタニを優しく抱き上げた。


 「ん?撮影は終わるんだナ?シャウ?」


 「このままじゃあタニのメンタルがぶっ壊れちまうだろうが。少し休ませてから今度はジェットコースターのCM撮影だ。これは写真じゃなくてムービーだぜ。」


 「シャウもやるんだナ!シャウ!」

 元気に返事をしたシャウにリュウはまたも深くため息をついた。


 「ああ、そうだなあ。本当は断りてぇが、お前しかいないし。お前と……やっぱり女の子がほしいんだよ。タニとふたりで乗ってもらって『きゃー』っていうのが撮りたいぜ。」


 「よし、じゃあ、さっそく彼女を優しく起こすんだナ!シャウ!」

 シャウが細やかな電流をピリピリ出し始めたのでリュウは慌ててシャウを遠ざけた。


 「馬鹿野郎!お前、話聞いてたか?こいつは少し休ませる。それと、『優しく起こす』じゃなくてお前の場合、『優しい電流で起こす』なんだろ?やめろっつーの。」


 リュウはタニを片腕に抱きながら持っていた柄杓でシャウの頭をぽかんと叩いた。


 「おお、リュウがなんだか優しいんだナ!シャウは知っているんだナ!リュウは実は後輩ができてうれしいんだナ!シャアウ!」


 「馬鹿野郎!うっせーよ!黙れっつーの。」

 茶化すシャウにリュウは顔を赤くすると柄杓でまたもシャウの頭をぽかんと叩いた。



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