タニとリュウ3
しばらく歩いて日本家屋が固まっている場所に出た。辺りは山で道もあまり舗装されていないが明らかに村といった感じで家々が密集していた。
おそらく人がちゃんと住んでいる所はここだけだろう。
家々を眺めながら歩いていると日本家屋の一つからヤモリが出てきた。
「おう、地味子!お前はオーナーから何を命令されたんだ?」
リュウは意地悪な笑みを浮かべながらヤモリを呼んだ。
「あ、リュウとタニちゃんとオーナー。」
ヤモリは足早にこちらに近づいてきた。リュウの質問を無視したヤモリはオーナーに何かを報告し始めた。
「オーナー、この辺の村人さん達にそろそろ雨が降る事を言っておきました。ちょっと異常な気象になる事もタマリュウが元気になる事も言っておきました!そしてオーナーが言っといてくれって言った事も全部。」
「そうか。それでいい。」
ヤモリの報告をオーナーは頷いて答えた。
「って、お前、けっこう地味な仕事与えられたんだなー……。」
「うるさい!人には普通神が見えないけど私はなぜか人の目に映るの!だからこの大役を私が……。」
リュウの発言にむきになったヤモリをオーナーが素早く止める。
「君の仕事は立派だ。助かった。ありがとう。そこで待機していなさい。」
「はい!オーナー!」
ヤモリはオーナーの言葉に心底喜び、ピシッと背筋を伸ばして返事をした。
「……あー、オーナーはさすがだぜ……。」
「リュウ、とりあえずさっさと雨を降らせろ。時期に加茂が来る。」
「へーい。」
リュウはてきとうに返事をするとシャウを待った。
やがてシャウの雷雲らしい音が聞こえてきた。辺りはとたんに暗くなり、谷村の上空には怪しげな雲が広がった。
「シャウ!シャシャシャシャーウ!ゴロゴロなんだナ!雷なんだナ!シャウ!」
大きな雷雲の中かをシャウが飛んでいるのが見えた。シャウはなんだかとても楽しそうだ。
「シャウ!」
シャウが掛け声を上げると雲が動き出し、稲妻が光った。
「うおっ!やっぱりあいつはあぶねー奴だ……。俺様がちゃんと雨の量を調節してやらねぇと……。」
リュウは頭につけている高天原最新機器であるシュノーケルを目にかけた。しばらくするとリュウのシュノーケル部分から緑の電子数字が流れはじめた。
「待ってろよ。タニ。いい感じの雨を降らせてやるぜ!」
「リュウ先輩!頑張ってください!」
タニは青い顔でゴロゴロ鳴っている雷雲を見上げた。
「任せろぃ!」
「おい、ちょっとあたしを忘れてねぇか?」
ふと飛龍の声がタニ達の後ろから聞こえた。タニとリュウは突然後ろから声がかかったので飛び上がって驚いた。ついでに横にいたヤモリも驚いていた。
「飛龍、状況はどうだ?」
しかしオーナーは飛龍に驚くことなく、平然と尋ねた。
「さっきから後ろで気配消して立ってたけどオーナーには気づかれてたみてぇだなァ……。さすがオーナー!」
「そんなことはいい。状況を教えろ。」
うっとりした顔の飛龍にため息をつきつつ、オーナーはもう一度飛龍に尋ねた。
「こう見えてもけっこう器用なんだ!あたしの温度管理は完璧。ちょっと春っぽいいい感じの温かさになるよ。」
飛龍がタニ達にガッツポーズをしてほほ笑んだ。
そしてヤモリを見ると軽くウィンクした。
「うう……。どうせ私は伝達だけだもん。神っぽくないし、地味だもん……。」
ヤモリはなんだか傷つき、がっくりとうなだれた。
「んじゃあ、まあ、あたしの仕事は終わったし、地味子!一緒に飲みに行こうぜ!女子会だ!」
飛龍は乱暴にヤモリの肩を抱くと豊満な胸を揺らしながら歩き出した。ヤモリはすこぶる不機嫌な顔で拒否したが飛龍の力には抗えなかった。
「私はやだよ!なんであんたみたいな野蛮な龍神と……。」
「いいじゃねぇか!な!」
「やだって言ってるでしょ!あんたと仲いいって思われたくないし。」
ヤモリと飛龍はリュウの近くで押し問答をしていた。
「うるせぇな。仕事終わったならはやくどっか行ってくれ。俺様、集中できねぇだろ!」
リュウは眉をぴくぴく動かしながら二神に怒鳴った。
「わーったよ。そうカリカリするんじゃねぇよ。じゃ、行こうか地味子。人間の居酒屋がいいな。お前のおごりでな!あたし、人間に見えないし、よろ!」
「うう……最悪。で?何、今日はまた恋バナするわけ?」
飛龍とヤモリは勝手に話を進め、肩を組んで去って行った。
「ああ?あいつら仲いいんだがなんだかわからねぇな。」
さっさと去って行く飛龍とヤモリを眺めながらリュウはため息をついた。
「リュウ、雨はまだか。」
オーナーは二神が去って行った事を気にもとめていないのか平然としたまま、雷雲を眺めていた。
上空ではシャウが楽しそうに雲に乗って遊んでいるのが見えた。
「ああ、オーナー、あの電気男がまったく俺様に合わせようとしねぇんだよ……。調節が難しいぜ。」
リュウは楽しそうにしているシャウを鋭く睨みつけながら雨量を調節し小雨を降らせた。
「よし!できた!おら!どうだ!」
「やればできるではないか。」
「オーナーはいつも俺様の苦労をわかってくれねぇよなあ……。俺様、ちょっと寂しいぜ。」
オーナーのそっけない言葉にリュウはがっくりと頭を下げた。遠くの方でシャウの「楽しいんだナ!シャアウ!」という元気な声が響いた。
「とりあえず、これで一通りの事はできた。後は谷龍地、自分の神社に戻り、タマリュウを元気にするだけだ。行け。」
「え?あ、は、はい!」
流れるように状態が変わり、頭がついて行っていなかったタニはとりあえず、返事をした。
「……なんだか不安だな。よし、私も行こう。リュウも来い。」
「俺様も!?俺様は今大役を終えたばかりで……。」
ぐちゃぐちゃ言っているリュウを引っ張り、半ば強引にリュウを連れて歩き出した。
タニは動転した頭のまま自分の神社へと足を進めた。




