タニとリュウ1
最終話です!!
最後までテンションの高い彼らをご覧ください笑
タニは半泣きの状態のままリュウと共にオーナーに従って竜宮内アトラクションへ続く廊下を歩いていた。
「おい、めそめそしてんなよ……。オーナーが動く事なんてほとんどねぇんだぞ。」
リュウはタニを慰めながら前を歩くオーナーの背中を見つめていた。
「リュウ、飛龍と加茂と家守龍を呼んで来てくれ。」
オーナーがちらりと振り返ってリュウに言った。
「うぇい!?えーと……飛龍と……加茂ってのは……シャウか……と家守龍って誰だ?」
リュウはぽかんとした顔でオーナーを見つめた。
「家守龍神だ。この大変な時にとぼけるな。」
「と、とぼけてねぇよ!誰なんだよ。そいつ。」
「ちょこちょこ手伝いに入る龍神だ。お前もよく話していただろう。」
呆れた顔のオーナーをしばらく眺めていたリュウは閃いた表情をした。
「地味子か!」
「地味子じゃない!ヤモリ!」
リュウが叫んだ刹那、後ろから怒ったヤモリの声が響いた。
麦わら帽子に黒い髪、ピンクのシャツにオレンジのスカート。格好はやはり少し地味目で龍神にしては目立たない少女だ。
そのヤモリが後ろからリュウの肩を掴み後ろへ引っ張った。
「うげっ……現れやがった。いきなり後ろから来るなよな。」
「君ね、私の名前知らなかったでしょ!後ろでずっと聞いてたのよ。」
ヤモリは目をつり上げてリュウを睨みつけていた。
「相変わらず陰湿な事してんじゃねぇよ……。名前はまあ、地味子のが覚えやすいしなあ……。ああ、悪かったよ。」
リュウはヤモリを刺激しないように慌ててあやまった。夏ごろの記憶が脳裏をかすめたからだ。
「オーナー、お呼びですか?」
ヤモリはリュウを鼻であしらうとオーナーに向き直った。
「ああ、少し頼みたい事があるのだ。」
「……はい。」
「その前にリュウと谷龍地は先程どこかへ行った加茂と飛龍を呼んで来い。」
オーナーはヤモリに目を向けつつ、タニとリュウに顎で合図をした。
「は、はい!」
「っち、仕方ねぇな。」
タニとリュウは刑事にでもなったかのように素早く走り出した。
*****
タニとリュウはシャウと飛龍を探して歩いた。飛龍はけっこう簡単に見つかった。
「よう!また戦って行くか?新しい催しを考えたんだ!」
飛龍は楽観的にリュウ達に話しかけてきた。
「今はお前に付き合っている暇はねぇんだが、お前が必要だ。」
「何言ってんだよ?禅の問答じゃあるまいし。」
飛龍は説得するのがけっこう大変な女神である。ああいえばこういう。
急いでいるし面倒くさいのでリュウは大嘘をつくことにした。
「ああ、えーと、オーナーがお前を呼んでいるぞ。客に対して粗相をしたお前を叱りたいそうだ。今回ばかりはひっぱたいてやる!って言ってんぜ。」
「……?あたし、そんなやべぇ事してねぇと思うんだけど。ま、オーナーから叩かれるんなら喜んで行くわ。お前、嘘だったらぶっ飛ばすからな。」
飛龍はうっとりした顔になるとリュウの肩をポンポン叩いた。
……ドМってこええ……。オーナーだけにドМとか……。ぶっ飛ばすとか言われてんけど俺様どうしよう!?
リュウは後の事を考えながら飛龍を連れて歩き出した。横でタニが青い顔で歩いている。飛龍にもかなりトラウマを植え付けられたからだろうがそれだけではなさそうだ。
しばらく歩き、今度はシャウを探した。
しかし……
「いねえ!なんで探している時にいねぇんだよ!あいつは!」
シャウはどこを探しても見つからなかった。
竜宮内をかなり歩き、シャウを探したが結局見つからず、飛龍の目が疑惑の念を抱き始めていたのでとりあえず、飛龍だけをオーナーの元へ連れていくことにした。
先程の廊下部分へたどり着くとヤモリはおらず、オーナーだけが腕を組んで立っていた。
「オーナー!シャウがいねぇんで飛龍だけ連れてきた。」
リュウはうっとりしている飛龍をオーナーへ突き出した。
「ちょっとオーナー……やってほしいことがあるのだが……」
そのままリュウはオーナーの手を引くと耳元で小さくささやいた。
「なんだ?」
「飛龍を一発殴ってくれないか?」
リュウの発言にオーナーは驚いて咳込んだ。
「……ごほっ……。お前……正気か?なんの理由であれ殴りたくはない。」
「殴ってくれ!頼む!俺様が殺されちまうぅ!」
リュウは必死にオーナーに掴みかかる。
「相手は女だぞ。おかしくなったのか?リュウ。」
「じ、実は……オーナーが飛龍を殴るという事を前提に飛龍を連れてきた。オーナーが殴らなければ俺様をぶっ飛ばすと言っている……。」
「どういう交渉の仕方だ……。意味が分からん。」
オーナーがため息をついていると近くで電撃が走った。
「ん?」
「うはーっ!面白かったんだナ!シャウシャーウ!」
「シャウ!」
リュウ達の前にシャウが突然現れた。シャウはひとりで楽しそうに笑っていた。
「てめぇ!どこ行ってやがったんだよ!ずっと探してたんだぜ!」
リュウが怒鳴るがシャウはきょとんとした顔をしていた。
「ん?ずっとリュウ達の後ろを歩いてたんだナ?シャウ!」
「電撃のままだとわからねぇだろうが!ちゃんと出てきやがれよ!」
楽しそうなシャウをリュウは鋭く睨みつけた。
「とにかく!これから飛龍と加茂は現世に行って今から私がいう事をやってもらう。」
収集のつかない会話をオーナーがスッパリと斬った。
「で?」
飛龍がオーナーに先を促す。
「家守龍はもう現世に行かせた。……こほん。飛龍、私はお前を殴るつもりだったがこの仕事をしてくれたら免除する。私はお前を殴りたくはない。わかってくれるな?私は飛龍を必要としているのだ。」
オーナーはリュウの話にうまく合わせた。
オーナーの言葉に飛龍が頬を赤く染める。そして小さく「いいよ。」とつぶやいた。
……すげぇ……。
オーナーの巧みな話術でリュウは目を見開いて驚いた。
「で?シャウは何をするんだナ?シャーウ!」
シャウの言葉にオーナーは一つ頷くと続きを話し始めた。
「シャウは現世の谷村という場所に行って雷雲を呼んでくれ。そして飛龍は同じく谷村で温度管理だ。お前はあたたかい母性を秘めた女神だからな。温度を保てるだろう。谷村の場所は家守龍に言ってある。連絡を取って向かってくれ。」
「んじゃあ、向かうんだナ!雷ゴロゴロ~!シャアウ!」
シャウはオーナーの言葉を最後まで聞かない内に走り出して消えてしまった。
「母性を秘めたあたたかい女神……。温度を保てばいいんだな?ま、任せろー!」
飛龍は若干顔を赤くするとテンション高く去って行った。
「あいつら……思ったよりもはるかに単純だな。」
リュウはあっという間にいなくなってしまった二神を茫然と見つめていた。




