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たにぐち3

 「タニ様、わたくし達カメは竜宮へ行くための乗り物もやっておりますし、おもてなしの踊りも担当しております……えーとそれから……龍神様達のお世話もしております。えーと……それで……従業員用の扉の開き方を教えてあげるさね。」


 カメはたどたどしく敬語を使うがリュウに一喝された。


 「言葉遣いがなってねぇなあ……。龍神に丁寧語が使えなきゃあお客に接する事なんてできねぇぞ。」


 「……リュウ様だって同じさね!龍神様は気性が荒いから丁寧に接する事ができないさね。リュウ様が一番たどたどしいさね!」


 カメも負けじと声を上げるがリュウが持っていた柄杓でぽかんと頭を叩かれていた。


 「うっせーな。おら、生意気なんだよ。そもそも俺様にだってお前は敬語を使わなきゃなんねぇんだぞ。」


 「ひぃ……ごめんなさいさね……。」

 リュウに睨まれてカメは小さく縮こまった。実際はとても臆病で弱いらしい。


 「あ、あのぉ……。」

 タニは状況についていけず、まごまごとその場をうろうろとしていた。


 「おら、カメ、タニが困ってんだろうが。さっさと教えてやれ。」

 リュウはカメを小突くとカメはビシッとまた立ち直った。


 「はい。ではまず竜宮に案内するさね!」

 「……だから敬語を……。」

 元に戻ったカメにリュウはため息をついたがもう何も言わなかった。いつもの事らしい。


 「ではレッツゴーさね!」

 カメはタニの手をそっと取るとそのまま突然走り出し、海へとダイブした。


 「ええ!?」


 急に海に飛び込んでいったカメになんだかわからずタニも叫びながら海に連れ込まれていった。


 「ちょっ……お前な……。ちゃんと説明してからやれよ。」

 ふと隣でリュウの声が聞こえた。


 タニはいつの間にか瞑っていたらしい目を開いた。


 「あ、あれ?」

 タニは海の中にいた。しかし、泳いでいるというよりかは空を浮いている感覚に近かった。


 カメに手を引かれ、知らぬ間にタニは優雅に海の中を下降していた。


 「あ、ごめんね。びっくりした?こういうのは体験してもらうのが一番いいと思ったさね。」


 海の中には明かりが灯っており、明かりは街灯のように等間隔で配置されていた。まるで道のようだ。カメはタニを連れてその明かりの道をスイスイと進んでいく。


 その横にリュウがいた。


 「お前……ただ説明できなかっただけだろ……。」


 リュウは呆れた声を上げながらカメの横を優雅に泳いでいた。不思議と息は苦しくない。一体どういう仕組みの海なのかタニにはよくわからなかった。


 しばらく進むと赤い鳥居が物理の法則などを丸無視した形で佇んでいた。重りもないのにまるで地面に建っているかのように微動だにしなかった。海底はまだ見えない。この海がどこまで深いのかよくわからないが明かりのおかげで暗くはない。しかし、下の方はまるでわからない。


 「は、はーい、ここさね!この鳥居に名前と役柄を言うさね!さあ!」

 カメは突然タニにやり方を振った。


 「え……ええ?あ、あの……説明をしてください!」

 タニは助けを求める顔でカメを見つめた。


 「だから、名前と役柄を……。」


 「アホ。お前はどんだけ口下手なんだよ。ああ、役柄はタニの場合は新神でいい。後は自分の名前をこの鳥居の前で言う。それだけだぜ。」

 リュウがカメを再び小突くとタニにため息交じりに説明した。


 「え……は、はいぃ!」

 タニはなんだか緊張していた。とりあえず、鳥居の前で謎の返事をした。


 「なにガチガチになってんだよ……。普通に言やあいいんだよ。普通にな。」

 「は、はい……。」

 リュウに言われ、タニは深呼吸をするとビシッと言い放った。


 「新神の谷龍地神たにりゅうちのかみです!よろしくお願いします!」

 タニは律儀にお辞儀をすると棒のようにピンと体を伸ばした。


 少し時間が経った。


 「……ん?」

 しばらくしてリュウが声を上げた。


 「あれ?竜宮に飛べないさね?」

 カメも反応しない鳥居を不思議そうに眺めた。


 「え……?反応しないってどういう事ですか?私、本当は採用されていないんですか?」

 タニは戸惑いと焦りで目に涙を浮かべしくしくと泣き始めた。


 「うわっ!おい、泣くなってば……。あれ……おっかしいな……。これで反応して竜宮に飛ぶはずなのに……あ……。」

 リュウはタニの頭を優しく撫でながらある事に気が付いた。


 「ん?リュウ様どうしたさね?ああ、タニ様……泣かないで……。」

 リュウを気にしつつカメは心配そうにタニの手を握った。


 「ああ、思い出した!俺様、こいつを谷口たにぐちで登録したんだった。オーナーにも谷口って言っちまったわ。あははは!」

 リュウは突然、爆笑しはじめた。


 「だから谷口じゃないです!谷龍地です!」

 タニはしくしく泣きながら叫んだ。


 「リュウ様……ひどいさね……。管理がてきとうさね!これは天津様オーナーに報告するさね!」

 カメはタニを優しく撫でながらリュウを睨みつけ、厳しく言い放った。


 「う……。わ、悪かった。オーナーの罰則だけは受けたくねぇ……。後でハッキングして直しておくぜ。」

 リュウはカメの言葉にしゅんと肩を落とした。


 「影で直そうとしないでちゃんとオーナーにミスの報告をするさね!リュウ様はちょっとガサツすぎるさね!」


 「お前、ちょっと言い過ぎだぜ……。色々とタニの手続きに追われててミスっちまっただけだろうが。……はあ、ああ、とにかく、今は谷口って言っておいてくれ。」

 リュウはカメの頬をみょんと伸ばしながらタニに言った。


 「たにぐち……。そんなあ……。……新神、谷口です……。」

 タニは少し落ち込みながらあやまった名前を口にした。


 すると、鳥居が白く光りだし、タニは鳥居に吸い込まれていった。

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