太陽の乙女3
「サキ様!」
宴会席のロビーで待っていたサキにタニは叫んだ。
連れてこられたリュウはどこかそわそわと落ち着きなく辺りを見回している。
「おお、甘いマスクの男を連れてきたのかい!?」
サキはホクホクした顔でタニを見た後、隣にいたリュウを視界に入れた。
「わ、私は……つ、ツアーコンダクターの……りゅ……流河龍神と申します。」
リュウは緊張しながらカミカミで自己紹介をした。
「ふーん……リュウさんでいいよね?荒々しくて強そうだから、なんかちょっと甘いマスクって感じじゃないね……。」
サキは眉を寄せながら唸った。
「で……ですよねー。」
リュウは顔を引きつらせながら答えた。
……実は強くもないんだぜー……。
リュウは心でそう思いながら困った顔で笑った。
「……ちょっと違いましたか……。」
タニはリュウを眺めながら首を傾げていた。
「あ、でも、ちょうどいいからあたしが思い描くアトラクションを彼にレクチャーするよ!」
サキはにっこりと笑うとなぜか気合を入れていた。
「な、なんか嫌な予感が……。」
「リュウ先輩、今回私は嫌な予感しません!」
「お前は傍観してんからな!」
リュウとタニがいつもしている会話とは逆の会話が今回されていた。
「はいはい、じゃあ、まずは……右腕をこう……。」
サキは二神の会話を流し、リュウの右腕をとった。
「……?」
そのままサキは壁に移動し背中を預ける。その後、リュウの右手をサキの顔横に置いた。
「あーっ!これ知っています!壁ドンですね!」
なぜかテンションが上がったタニにサキもニコニコと笑いながら頷いた。
「んで、セリフを……えーと……じゃあ『俺から逃げられると思っているのか?今夜は逃がさねぇ。』にしよう。はい、じゃあリュウさんよろ!」
「……え?」
サキが元気よくリュウにセリフのリクエストをしたがリュウは戸惑いが大きくなっていくばかりだった。
「リュウ先輩!今のセリフを甘い大人な男性風にサキ様に言ってください!」
タニは何か変なスイッチが入ったようだった。鼻息荒くリュウにセリフを急かした。
「お前な……こんな恥ずかしいセリフ言えるかよ!」
「演技だと思えばいけるよ。」
真っ赤になっているリュウにサキは笑顔で答えた。
「さ、サキさん……おたわむれを……。ああ、仕方ねぇ。やる。」
リュウの言葉を聞いてサキとタニは目を輝かせて手を叩いた。
……公開処刑かよ!やるしかねぇ!はやく終わらせよう。
リュウは周りの目を気にしながら咳ばらいをしてセリフに集中した。
「俺から逃げられると思っているのか?今夜は逃がさねぇ……。」
リュウはなるべく雰囲気が出るように演技をした。
「フぅー!フぅー!かっくいいー!」
タニとサキはリュウの名演技に拍手をして喜んだ。拍手と同時にこそこそ話がリュウの耳に入ってきた。
「ちょっと待って……あれみて……。」
「え……?リュウがサキ様をくどいてる?」
「え?リュウがサキ様を?」
「ていうか、あれ何?ちょっとヤバくない?」
リュウの迫真の演技により周りの龍神達はかなり不審な目でリュウを見ていた。
場が若干ざわついた。
「ち、ちげえ!ちげえから!ちげぇの!これは演技なの!」
リュウは顔を真っ赤にしながら大声で否定した。
「リュウさん、あんた、才能あるよ!じゃあ、次はあたしを床に寝かせて、リュウさんはあたしの上に四つん這いで両手をあたしの顔付近に置いて『今夜は逃がさない。俺にすべてをゆだねろ。』だね!」
「できるかァ!あんたもよくこの状況でそんな破廉恥な事を言えるな!さっきから『逃がさない』セリフが多いが俺様が逃げたいわっ!」
サキにリュウは仕事を忘れて叫んだ。
そんな会話をしているとまたギャラリーがざわざわしてきた。
「……え?リュウがサキ様を押し倒した!?」
「大胆なこと……。」
「ていうか、それ、ヤバくない?」
遠くを歩く龍神達がひそひそと会話をしている。リュウは乱暴に頭をかきながら叫んだ。
「押し倒してねぇよ!勘違いすんな!ていうか、さっきからうっせぇんだよ!どっか行きやがれ!」
リュウが叫ぶと少し遠くを歩いていた龍神達はそそくさと去って行った。
「……おお……こわっ……。」
「くわばら、くわばら……。」
「ていうか、あれ、ヤバくない?」
声がだんだんと小さくなっていく。リュウは頭を抱えてうなだれた。
「あの、リュウ先輩、サキ様のアトラクションのご相談、なかなかいいと思うんですけど、竜宮でやりませんか?」
先程から火が付きっぱなしのタニは興奮気味にリュウに提案をしてきた。
「……やらねぇよ!これはアトラクションじゃなくてなんか違う世界に入っちまう!」
リュウは必死な顔で拒否をした。
「宴会、秋の催しとかでやったら最高に盛り上がると思いますけど。」
「ざけんな!」
「ああ、それいいね!あたし、今日は太陽に帰らないでここに泊まるんだよ。従者の太陽神達と使いのサル達をけっこう連れて来ているからみんなで盛り上がりたいし。」
タニの意見にサキはハイテンションで大賛成をした。
「ええ……。」
リュウは顔面蒼白でサキの言葉を聞いていた。
「女の子だけじゃなくて男子もけっこう連れて来ているから男用に女の子のシチュエーションも用意してさ。あ、ここにいる超強い女龍神の飛龍に優しく壁ドンされたら最高じゃないかい?ん?でもこれは逆か。飛龍に男子が壁ドンできるとか!」
「あー……盛り上がっているとこ悪いんすけど……飛龍はやるにしろ、やられるにしろ……壁を壊すか太陽神を壊すか……になると思いますがね。」
盛り上がるサキにリュウは顔を引きつらせながら答えた。
「まあ、とにかく女子の龍神も男子の龍神も集めてシチュエーション萌えの演目を宴会で入れようじゃないかい!……じゃあ、あたし準備してくるよ!」
サキは楽しそうにそう言うと鼻歌を歌いながら宴会場へと入って行った。
「うぉい!ちょっとまてー……。」
リュウが事を大事にさせないように小さく制止したがサキはもう見えなくなっていた。
「リュウ先輩、これは太陽の姫君様に竜宮を気に入っていただくチャンスだと思います!」
タニが何かに燃えながらリュウにガッツポーズをした。
「この馬鹿!この能天気女め!気に入るいらないの問題以前に健全なテーマパークに何てことしてくれてんだよ!」
「や、やっぱりまずかったですかね?」
リュウの青い顔にタニも苦笑いをした。
「もう仕方ねぇ、今夜限りでやるぞ。タニ、お前、後でたっぷり説教だかんな!」
「は、はいぃ!え?説教?」
リュウはタニを引っ張り宴会場へと入って行った。




