たにぐち2
タニはなぜだか竜宮の面接に合格した。リュウに感謝の念を抱きつつ、夏も近づく竜宮城にやってきた。ここは竜宮のリゾート地のビーチ前である。まだ時期は早いので目の前の美しい海に入って遊んでいる客はいない。
タニはこの美しい海辺でなぜか待たされていた。
「あー、わりぃな。時間ぎりぎりになっちまったぜ。ああ、俺様の事、覚えてるか?」
タニがぼうっと待っているとリュウが慌てて走ってきた。
「あ、リュウ先輩ですね!この間はありがとうございました!」
「りゅ……リュウ先輩だと?」
タニの深いお辞儀をリュウは戸惑いながら見ていた。
「無事に合格できました!今日は竜宮で働く初日なのですがこの海辺で待つようにとの指示で……」
「ああ、そりゃあ、俺様を待てっていう指示だぜ。これから俺様が竜宮へ行く門を開く。ちなみに竜宮はこの海の中だぜ。そんでお前には従業員用の入り口の開け方を教えてやる。後、一、二か月もすりゃあ、ここは観光客で一杯。繁盛繁盛の地獄が始まるわけだ。従業員用の入り口の開け方がわからなきゃあ、一生竜宮には入れねぇよ。」
「りゅ、竜宮って海の中にあるんですね……。」
タニの発言にリュウが盛大にため息をついた。
「はあ……お前、そんなことも知らずに面接受けに来たのか?正確に言えばこの海の下だ。まあ、行ってみりゃあわかるぜ。」
「は……はいぃ!お、お願いします!」
タニが背筋をピンと伸ばしてリュウに言うとリュウはケラケラと笑っていた。
「ははは!あんた、かてぇな。ガチガチだ。緊張してんのか?」
「は、はぃい!た、谷村の信仰心のため全力で頑張りますっ!」
タニの生真面目な返答にリュウはさらに笑い出した。
「はははは!ダメだ、なんかツボに入った……。ひひひ……。『は、はいいっ』って……はははは!」
リュウがデカい声で笑っていると横から突然女性の声が聞こえた。
「もし……リュウ様……。……と、タニ様?」
「ん?」
リュウとタニが声の聞こえた方を向くとそこにはきれいな女性が立っていた。女性は京都の舞子さんのような恰好をしており、眉毛をマロ眉にしている可愛らしい方だった。
背中には緑の大きな甲羅をしょっている……。
「……甲羅……ああ、亀さん!カメさんですね!」
タニは龍神の使いの亀だと雰囲気で読み取った。ちなみに神々の使いは皆、動物で人型をとっていないものを漢字で人型をとっているものをカタカナで表記する。
この亀は「亀」ではなく「カメ」である。
「ああ、やっぱりわかっちゃったさね?そう、わちきはカメです。龍神の使いさね。」
カメはサバサバ、オドオドどっちともとれる感じで自己紹介をしてきた。
「よ、よろしくお願いします……。」
タニが深々とお辞儀をする横でリュウはなぜかニヤニヤしていた。
「おう、カメ!ずいぶんと偉そうじゃねぇか。新神に対するあれか?」
「りゅ、リュウ様……もういじわる。」
カメは戸惑いながらリュウを睨んだ。
「ほら、カメ、タニに説明してやれ。さっさとしろよ。俺様がオーナーに大目玉くらうからな。」
リュウはカメに鋭く言い放った。カメはビシッと背筋を伸ばすとタニに説明を始めた。