思兼神の無茶ぶり1
今回は長編で大活躍?のあの女神が登場!
本当は男だけどTOKIの世界では女の子。
その理由は長編に書いてありますよー。
神々が住まう所、高天原南にある超有名なテーマパーク竜宮で神力を高めるために働き始めた龍神、ちびっ子少女のタニは同じく目の前にいるちっこい少女に手を焼いていた。
ここは竜宮外の遊園地ではなく竜宮内の宴会席近くのロビーである。
時刻は昼だ。
宴会席を開けるにはまだだいぶん時間が早い。
「私は今とっても暇なんだYO……。何とかならんもんかYO?」
少女は奇抜な格好でタニに指を突き出した。どうやらどこかのDJあたりを真似しているようだ。その少女はカラフルな帽子から赤い髪が触角のように伸びており羽織袴だ。そんな恰好でなぜか二等辺三角形のようなサングラスをしていた。
サングラスの奥の目は見えない。
その少女は『お客様相談センター』の机に半分だけ顔を出しながらタニを見ていた。
タニは現在『お客様相談センター』で道案内などをして働いていた。
「暇とおっしゃられても……あ、アトラクションとかどうですか?今人気のバーチャルアトラクション、本物のドラゴンと戦えますよ!」
タニは頭を抱えながら必死に言葉を探す。サングラスの少女は深いため息をついた。
「あーあー……あの飛龍のアトラクションの事かYO?バーチャルなのになんで本物の龍と戦わないといけないんだYO!あんなガチな戦闘アトラクション、危なくて遊べないYO。」
「そ、そうですか……それではえーと……。」
タニは少女の機嫌が悪くなっていく事に焦りを感じた。この少女は『お客様相談センター』に『暇だから何とかしてくれ』と言いに来たとても迷惑なお客である。
まあ、相談センターなので間違ってはいないがタニ達からしたらそういう質問は答えにくい。
「ああ、そうそう、言い忘れていたが最近御朱印集めにハマっていてNE、竜宮とかそういうのやってないのかNE?」
少女はつまらなそうにタニを見て尋ねた。
「御朱印!?ええと……あ、竜宮観光のスタンプラリーならありますよ!」
タニはこのままではいかんと思い、子供向けのアトラクションを回るスタンプラリーの紙を取り出した。
「おい!待て待て待て!」
少女にスタンプラリーの紙を見せようとした刹那、タニの先輩であるリュウが慌てて入ってきた。リュウは緑の短髪を揺らしながらタニが持っていた紙を奪った。
「ああ……リュウ先輩?なんでいじわるするんですか!それは今からこのお子様に……。」
「バカバカバカ!」
リュウは慌ててタニの口を塞いだ。
リュウは目の前で首を傾げている少女に軽く会釈するとタニの耳元でそっとささやいた。
「あのな……このお方は高天原東を統括してる思兼神だぞ。通称東のワイズだ。年齢は俺様よりもはるかに上だ……。」
「んむむ!」
リュウの言葉を聞き、タニは目を見開き驚いた。
リュウはそっとタニの口から手を放した。
「えー……あの……その……先程の話は忘れてください。」
「ん?」
タニは首を傾げている少女、ワイズにとりあえずあやまった。
「えー……御朱印ですか?御朱印はやってないんですよね。」
タニに代わりリュウがワイズに控えめに言った。
……神が御朱印集めるなんて相変わらずぶっ飛んだ思考してやがるな……。
リュウはそう思ったが笑顔で対応した。
「えー、やってないのかYO!ほら、これを見ろYO!」
ワイズは懐から御朱印帳を取り出し、机に広げた。
「おお……。」
ワイズが御朱印帳を広げると色んな神社の御朱印が書かれていた。
「人間も粋な事を考えるNE!まあ、元は寺で写経をしてもらうものだったんだがYO、神社でもやる事にして参拝したらもらえるんだってYO。」
ワイズは楽しそうにケラケラ笑っていた。
「え……あなたのようなすごい神様が参拝したんですか?」
リュウが慌てて尋ねた。
「んー。いや、直接部下からもらったYO。人間には見えないしNE。」
「は、はあ……。」
……それで部下を精神的に縛っているんじゃねぇのか……。おお……こわっ。
リュウはどこか寒気がしたが笑顔は絶やさなかった。
「じゃあ、御朱印に似たのでも何でもいいから書いてくれYO。お前らの神社でもいいYO?」
「うっ……。」
ワイズの要求にリュウとタニは顔をひきつらせた。
「リュウ先輩……なんか書いてあげてくださいよ……。」
「なんか書けって墨の一発書きだろ……竜宮って漢字で書きゃあいいのかよ……?趣味がわからねぇぜ。」
タニとワイズは陰でこそこそと会話をする。
「ダイナミックに墨で絵を描くとか……。ちょっと模索して練習してきましょう……。このままでは自分の神社の朱印をものすごく下手な字で書くことになります……。その字がずっとあの御朱印帳に書かれたままではこれから生きていくのが辛いです。」
「お前、習字ができねぇんだな……。これだから最近の神は……。とはいえ、俺様も自分の朱印をワイズの朱印帳に載せるのはやだぜ。使役されそうだしなあ。」
タニとリュウはしばらく小声で会話をして竜宮の朱印を模索する事にした。
「あー……あの、ちょっと色々考えてみるのでしばしここでお待ちいただけますか?朱印帳いただきますね。」
リュウの発言にワイズはパッと顔を明るくした。
「お!書いてくれるのかYO!じゃ、期待しているYO!」
「うっ……。」
ワイズの発した期待しているという言葉がリュウとタニに重くのしかかった。
模索している間に暴れ出さないよう何か時間稼ぎを考えていると近くをカメが通った。
「しめた!おい!カメ!ちょっとこっち来い!」
リュウがカメを呼ぶとカメはきょとんとした顔でこちらに来た。カメは舞妓さんの格好でおしとやかにワイズに挨拶をした。
「思兼様。こんにちは。……で、何さね?リュウ様とタニ様?」
しかし、タニとリュウにはこの態度である。話さなければカメはとても美しい女だ。
「お前ちょっとこの方の相手をしていろ!そうだな。踊れ!踊って喜ばせろ!いいな!」
「ええ!無茶ぶり!何さね?いきなり……この方東のワイズ様じゃないかい!私ひとりに押し付けるなんて……。」
カメが先を続ける前にリュウはタニを連れて竜宮の住み込み寮まで走り去っていった。
「悪い!よろしくな!」
「ひどいよー!リュウ様!」
カメの声が静かにフロアに響いていた。




