剣王の無茶ぶり4
そして再び剣王のお部屋に戻ってきたタニとリュウは顔を合わせ頷いた。
「タニ、手筈通りに行くぞ。いいな。」
「はいぃ!」
小さな声で二神は確認を取った。
リュウは素早く、持ってきたラジカセを置き、スイッチを押した。
ラジカセから大音量でサンバのメロディが流れる。
「行け!タニ!」
リュウがタニに合図を送る。タニはバサッと着物を脱いだ。タニは着物の下にタマリュウと金色のテープで着飾ったサンバ衣装を着ていた。
露出度の激しいサンバ衣装のままほぼやけくそで障子戸の中へと入り込む。
「サンバァ!」
タニは顔を真っ赤にしながら持ってきたタンバリンを叩きまくる。
「んむ?何?何?」
剣王が寝ぼけ眼をこすりながらタニの方へ歩いてきた。
……よしっ!先にサンバのメロディを流しておいたからうるさくて先に目覚めただろ。そしてこのタニの露出度高めのタマリュウ衣装!
……剣王も目覚めていて安全、なおかつビビる!
……どうだ!
リュウは軽くガッツポーズをした。
「……あっははははは!こう来るとは思わなかったなあ!たにぐちちゃんはサンバの腰の振り方がおもしろすぎるよ!動物の交尾みたいだ!メスじゃなくてオスの方!あははは!」
驚くと思っていた剣王はなぜか大爆笑だった。
「どっ、動物の交尾……。わ、笑われた……。」
……恥ずかしすぎる!
タニは顔をさらに赤くし、後ろにいたリュウに抱き着いた。
リュウはタニの頭を優しく撫でつつ剣王に恐る恐る尋ねた。
「あ、あの……イメージとは違ったんすけど……お気に召すドッキリだったでしょうか……?」
「あーあー、面白かったよ!今やっているリオ五輪ともかけているんでしょ?さっきの話も混ぜてくるなんてけっこういい仕事するなあ。」
剣王は上機嫌だった。
「あ……ありがとうございます。で、ではこれで失礼します!」
リュウはタニを抱えると脱兎の如く剣王の部屋を後にした。
後ろでまだ剣王が笑っている声が聞こえた。
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「生きてて良かった……。違う意味で。」
「リュウ先輩、すごいです!オリンピックも混ぜていたんですね!」
「あー……いや、それは考えていなかった。」
目を輝かせるタニにリュウは冷汗を拭いながら答えた。
「じゃあ、なんでサンバのミュージックを……?」
「た、たまたまだ。宴会席を盛り上げる亀達が舞にサンバを取り入れようとか言っていたのを思い出してそのサンプルCDを持ってきただけだ。」
「そ、そうだったんですね。」
「お前、なんで残念そうな顔になってんだよ。」
リュウは住居スペースに向かい歩きながらふてくされた声を上げた。
「い、いえ。でもありがとうございます!助かりました。」
「あーあー、もういいぜ。今日はもう疲れて自分の住居に戻んのがめんどいからお前んとこで寝るぞ。いいだろ?たく、何時だと思ってんだよ!今……。こんなくだらねぇことで睡眠時間が激減だぜ。つーか、俺様、なんであんなに必死にこんなくだらんことを……。」
時刻は午前二時半を廻っていた。
「ごめんなさい。ありがとうございました……。今日はもう、私の部屋で好きに寝てください……。」
「……おう。」
タニとリュウは安堵のため息を深くつくと住居スペースにふらふらになりながら帰って行った。
翌日、剣王はかなりの上機嫌で帰って行った。
途中で剣王はタニを見つけると昨夜タニが行った謎の腰ふりダンスを真似してきてタニをとても困らせた。
それでリュウは竜宮オーナーの天津に呼び出され叱られていた。
昨夜の爆音で宿泊客にえらい迷惑がかかったことと、剣王に何をしてるんだ!という両方のお叱りだった。
「ああ、当然だ。そうだな……。そりゃあ怒られるわな。俺様は一体何をしていたんだ……。」
リュウは頭を抱え、寝不足の顔でタニの元へ戻ってきた。
「りゅ、リュウ先輩、大丈夫でしたか?」
「大丈夫なわけねぇだろ……。あんなくだらねぇことのために……はあああ。」
リュウは深いため息をつくとタニを睨んだ。
「てめえのせいだかんな!」
「す、すみません……。」
タニはリュウの睨みに縮こまった。
「もういい!さっさと仕事につけ!オラ!早く行け!」
リュウは柄杓でタニのお尻をパンッと叩くと鋭い声を上げた。
「は、はいぃ!今日も頑張ります!」
タニはお尻をさすりながら元気よくリュウに答え、走り出した。
「ああ、疲れてんと思うから今日一日終わったらちゃんと休めよ!いいな!」
照れくさそうに言い放ったリュウの一言にタニはほほ笑んでお辞儀をした。
高天原西と月がこうでは他の東南北と太陽もきっと変神に違いない……。
タニはまだ来てもいない他のリーダー達に恐怖を抱くのであった。




