剣王の無茶ぶり3
タニとリュウは旅館部分にたどり着いた。剣王はこのうちのお得意様用のお部屋に泊まっている。
周りの客を起こさないようにタニとリュウはそっと剣王の部屋を目指す。階段を上り、剣王がいる最上階の部屋へと足を進めた。
最上階は四部屋ほどあり、下の階とは作りも雰囲気も違った。部屋はかなり広そうだ。
こちらの部屋はすべてドアではなく障子戸だった。
四部屋の内の一部屋、剣王が眠っているだろう部屋の前に立ったタニとリュウは顔を見合わせ頷くと、障子戸をわずかに開いた。
障子戸からタニがそっと手を入れ、タマリュウを出すべく神力を使った。
「ひっ!」
刹那、リュウがタニを抱きかかえ素早く隣の部屋へ隠れた。
タニはなんだかわからなかったが軽い衝撃音と風が後ろから吹き抜けた。
恐る恐る隣の部屋から剣王の部屋を覗く。
剣王は抜き身の刀を持ち、寝ぼけ眼で首を傾げていた。先程タニがいた障子戸は剣王の斬撃により真っ二つになっていた。剣王は眠そうにふああとあくびをすると再び部屋に戻って行った。
「は……はぅ……!?」
タニの体から汗が噴き出る。リュウの反応がなければタニは真っ二つに斬られていた。
リュウは全身冷汗でびしょびしょになった着物で顔の汗を拭うと何も言わずにタニを抱え剣王の部屋から離れた。
二神は一旦、元の住居スペースに戻る。
「はあ……はあ……ひっ……ひっ……。」
タニは目に涙を浮かべ恐怖で放心状態だった。
「お、おい。大丈夫か?ケガは?腕は持ってかれていねぇよな?手の傷もねぇな……。ふう……。お前もわかったと思うがあんな感じなんだ。」
リュウはタニの手を素早く確認し、青い顔でタニを見た。
「はっ……はい……。リュウ先輩ぃ……どうしましょう!怖いよぉ!」
「俺様だって怖えよ!バカヤロー!剣王は完全に眠っていても脅威だと感じたら無意識に体を動かす男だ。本神はそれに気が付いてねぇ!やっぱり少しの神力でも反応しやがったか!こええええ!」
リュウが顔面蒼白で叫んだ。
「ど、どうしますか?」
「どうしますかじゃねぇ!考えろ!頭を使え!」
そう言っているリュウが一番頭を使っていなかった。
「……タマリュウを出す前に神力で脅威と判断されたって事ですか?」
「どう見たってそうだろ!あーあー……だからあの男は嫌なんだよ!やべぇくせに遊びたがりだ。あの男は強さが破格だから常に本気ではないが俺様達からすりゃあ、じゃれられても死ぬ。あの飛龍だって子供のようにのされちまうだろうな。」
リュウは絶望的な顔で対策を考えていた。
タニは剣王の恐ろしさを目の当たりにし、もうあの部屋に行くのが怖かった。
「こんなの無理ですよ……。タマリュウ出すのに神力使いますし……。」
「そんな弱音を吐いても変わんねぇぞ!オラ!……ん。待てよ……神力を使ったら反応したって事は使わなきゃあいいって事か!」
リュウは顔を輝かせた。
「使わなかったらほんとに死んじゃいますよ!」
「ばかやろー!俺様とお前は一心同体だろ!一緒に死ぬんだよ!」
「一心同体ってなに恥ずかしい事言ってんですか!私は死にたくないですよぉ!」
「……とにかく、創意工夫だ!神力を使わずに剣王をそこそこ喜ばせて俺様達も無事な道を探す!」
リュウはタニの頭を乱暴に撫でまわすと対策を立て始めた。




