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剣王の無茶ぶり1

挿絵(By みてみん)

 神々が住まう所、高天原内にある神々のテーマパーク竜宮で働き始めた少女神タニは今日も目を回していた。


 季節は八月を迎えて竜宮付近にあるビーチは海水浴に来た神で溢れかえり、竜宮内のアミューズメントパークではデートや単純に遊びに来た神々でごった返していた。


 「は、はい。バーチャルアトラクションへはこの渡り廊下を抜けてください。」

 タニは顔を引きつらせ無理やり笑顔を作りながらアツアツのカップル神を送り出した。


 ……あー……この暑い八月にアツアツなんてうらやましいなあ……。


 タニがため息をつきながらイチャつくカップル神の背中を眺めた。

 現在はカップルが多くなる時間帯だ。つまりロマンチックな夜である。


 もうそろそろ竜宮は閉園し、後は宿泊客や宴会客の相手をすればいいだけだ。

 しばらくぼうっとしていたら背中で強い威圧を感じた。


 タニはビクッと肩を震わせると恐る恐る後ろを向いた。


 「……?」

 かなり遠くだが団体の神がこちらに向かって歩いてきているのが見えた。


 その先頭を青い顔でタニの先輩、リュウが歩いている。リュウは黒い着物を片肌脱ぎにしており、目つきも悪いのでちょっと怖いお兄さんに見える。


いつも悪戯っ子のような表情をしているリュウが今日は顔の表情が重い。

 タニは自分の身の安全を最優先するべく、どこか隠れる場所を探した。


 しかし、その団体の神の神力、威圧が強すぎてタニはまったく動けなかった。


 次第に会話が聞こえてくる。


 「そういえば、今、人間達はオリンピックで盛り上がっているらしいよぉ。神々もオリンピックやろうよ~。まあ、それがしは見てるのがいいけど。」

 「……剣王様……ここ竜宮はオリンピックの会場ではございません。ここでは行う事はできません。」

 どこか抜けた声の男にリュウは青い顔で答えていた。


 よく見るとその男を囲んで他の神々が歩いている。集団の神々は護衛か部下のようだった。

 剣王と呼ばれたその男は邪馬台国から出てきたかのような格好をしていた。


 「あらら?なんだか可愛らしい神がいるねぇ。君も龍神なの~?」

 剣王と呼ばれた男が呑気な声でタニに話しかけてきた。タニはその剣王の神力に当てられ滝のように汗をかいて震えていた。結局一歩も動けないままでリュウが連れた団体はタニの前に来た。


 「は、はいぃ!わ、私は谷龍地神たにりゅうちのかみと申しますぅっ!」

 タニは無理やり笑顔を作り、頑張って声を張り上げた。


 「ははは!たにぐち?面白い名前の神さんだねぇ。」

 「あの……谷龍地(たにりゅうち)なんですけど……。」

 笑っている剣王とやらにタニは控えめに訂正した。


 刹那、タニのお尻をリュウが思い切り引っぱたいた。

 「ひぃ!?」

 タニは驚いて飛び上がった。

 「馬鹿やろー……。余計な事を言うんじゃねえ……。頼むから流せ……いいな。」

 タニのお尻を一発叩いた後、リュウはタニの耳元で切迫した声でささやいた。


 「は……はい……。」

 タニは何かを感じ取り、素直に頷いた。


 「ああ、そうだねぇ……龍神と武神でオリンピックをやるってのもいいかもねぇ~。楽しそうだ。」

 剣王はタニとリュウの会話をよそに楽しそうに声を上げた。


 「あ、あのぅ……その前にお客様は剣王様と言うお名前なのですか?なんだか珍しい神様ですね。……ギャヒッ!?」

 タニが尋ねると再びリュウの平手がタニのお尻を打った。


 「馬鹿やろー……。このお方は高天原西を統括するタケミカヅチ神、通称西の剣王だ!」

 リュウのささやきを聞き、タニは驚きの声を上げた。


 「タケミカヅチ神様!」

 「……?そうだよぉ?君はかわいい子だねぇ。このほっぺなんて特に。」

 剣王は優しそうな笑みを浮かべ、タニの頬をつついた。

 タニはかわいいと言われ、なんだか嬉しかったのでニコニコとほほ笑んだ。


 ……なんだか最初よりは怖くなくなってきた!


 「剣王様もちょこっと生えているお髭とかカッコいいと思います!」

 「そ、そう?なんだかおじさん照れるなあ……。」

 タニと剣王の会話をリュウは冷や冷やしながら聞いていた。


 「あ、あの、今日はどういったご用件だったんですか?」


 「今日は羽を伸ばしに来たんだよぉ。今はツアーコンダクターに宿泊するお部屋に案内してもらう所でねぇ。いやあ、リュウは真面目でしっかり者なんだよ。だからちょっと君みたいに砕けた感じの子がいると和む。」

 剣王はタニにほんわかした顔を向けた。


 「剣王様、リュウ先輩はそんなに固い神じゃないです。普段は悪戯好きで他の龍神達のムードメーカーみたいな方です。」

 タニもほほ笑んで剣王を見上げた。その横でリュウが血の気の引いたような顔でタニを見ていた。


 「お?そうなの?じゃあ、リュウ、それがしにもなんか悪戯してよ~。ただ休んでいるだけじゃあ刺激がなくてねぇ。そうだ!じゃあ、それがしが夜眠っている間に何かすんごい悪戯を仕掛けにきてよ!思い切りやっていいからね~。それがしは生半可なものは好まないからさ。これもお客さんを喜ばすアトラクションだと思ってやりに来て!楽しみにしてるよ~。」


 「え……?」

 剣王の何かにスイッチを入れてしまったらしい。タニとリュウの間になんだか冷たいものが流れた。

 その時、麦わら帽子を被っているちょっと地味な少女、ヤモリがリュウの前にいた。


 「リュウ、ちょっと遅いよ。ツアーコンダクターはこの渡り廊下まででしょ。ここからは私が剣王様を旅館にお連れするから。」

 ヤモリは完全に固まっているリュウを不思議そうに眺めると顔を引き締めて剣王に向き直った。


 「剣王様、ここからは私がご案内いたします。」

 ヤモリは緊張した面持ちで剣王を連れて歩き出した。


 剣王は固まっているリュウとタニを見返るとにっこり笑って

 「んじゃ、待ってるからね~。」

 と楽しそうに言い、背を向けた。

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