たにぐち
こちらも他の短編同様に長編である「TOKIの世界譚」シリーズの神を出していますが長編とは関係はありません!
他の短編に出ている神もこちらで出ています笑。
気になったら探してみてね!
✳現在「……。」の表現、「?や!」の後に空白をあけてない部分を直しています。
神々の住まう場所、高天原。その高天原の南に神々のテーマパーク、竜宮城があった。
ここは龍神達の生活する場所でもあり、龍神達の仕事場でもある。
テーマパークなので龍神達は他から来る神々をもてなす仕事を請け負っていた。
これはその高天原内の竜宮で働くある龍神の日常話である。
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「おい、そこのお前、なんで俺様んとこに来たんだよ……」
黄緑の短い髪に謎のシュノーケルを差している着物姿の男が呆れた顔で目の前に佇む少女を見ていた。
「はいぃ! 私は谷龍地神と申しますっ!志望動機は私が祭られていた谷村の活性化のためですっ! 元気と勇気で頑張ります!よろしくお願いしますっ!」
少女は緑色のおかっぱ頭を何度も男に向かって下げた。
「あー……いやいや……志望動機を聞いたんじゃなくてだな……。なんでここに来たのかって聞いてんだよ」
黄緑の髪の男は頭を抱えながら少女に声をかけた。
「え? で、ですから……谷村の活性化のため……」
「ちげぇって! お前、ここ、竜宮と勘違いしてんだろ! ここは竜宮じゃねぇよ。ここは竜宮ツアーコンダクターの詰め所だぜ。お前さ、今日、竜宮で面接受けにいくやつの一神だろ?」
「え!」
男の言葉で少女の顔がじわじわと青くなっていった。
少女がそっと上を見上げると男の頭の上辺りに『ツアーコンダクター』と汚い字で看板がぶら下がっていた。
「とんだ馬鹿野郎だな。もう面接時間過ぎちまってんぞ。オーナーは時間にうるせぇからなあ。……遅刻は特に嫌うぜ?竜宮はここからかなり遠いし、もう間に合わねぇな。かわいそうに」
「そんなあ……」
少女はぺたんとその場に座り込むとしくしく泣き始めた。
「あ! おいおい! 泣くなよ。……んー……お前、まだ龍神になって間もないだろ?……仕方ねぇから俺様がオーナーの代わりに面接してやるぜ。外見年齢は十四……五だろ」
「はい……今年で十四です。本当に面接してくれるんですか⁉」
少女は先程の絶望しきった顔から一転、目を輝かせた。
「面接はしてやる。後は天津彦根神、オーナーの判断だ。ああ、俺はツアーコンダクターの龍神、流河龍神だ。皆からはリュウと呼ばれている」
リュウと名乗った目つきの悪い緑の髪の男は椅子にドカッと座ると指でこんこん机をたたいた。
「は、はい! お願いします!」
少女は再び深くお辞儀をした。
「で……お前、名前なんだっけ? 谷口だっけ? 日本人の苗字みてぇだな」
「あ……いや……谷龍地神です。『たにりゅうち』です」
少女はひかえめにリュウが言った名前を訂正した。
「たに……なんだって? 『たにぐち』にしか聞こえねぇな……。滑舌が悪い。んん……タニでいいか」
リュウは勝手に『タニ』というあだ名を少女につけた。
「……たに……」
勝手にあだ名をつけられた少女、タニは困惑した顔をリュウに向けた。
「んで……志望動機はさっき聞いたし、後は……オーナーは何を聞くかな……。んまあ、こんなんでいいか」
「……では……採用……」
タニが輝かしい顔でリュウを見据えたがリュウは机をこんこんと指で叩くと首を横に振った。
「採用かどうかはわからねぇ。俺はお前を推しておいてやるよ。だけどなあ、オーナーの面接に出てないってのが痛ぇよなあ。ああ、一つ、オーナーが面接の最後に絶対言う言葉がある」
「は、はい……」
また不安げな顔に戻されたタニは身体を震わせながらリュウの言葉の続きを待った。
「時間厳守、ルールは守る、客に対する言葉遣い、これは必ず守る事。それから、遅刻した者とルールを破った者は例外を除いて厳罰の対象だ。わかったか?」
「は、はいぃ!」
リュウの低く鋭い声にタニは震え上がった。
「とまあ、こんな感じだな。オーナーは厳罰も容赦ない。注意しろよ。採用されたらな。合否はのちにオーナーが伝えるだろ。この面接内容とお前の外見、やる気、一生懸命さをオーナーに報告しておくから採用されたらまた会おうぜ」
リュウは鋭い感じを解き、柔らかい笑みを浮かべた。
「は、はいぃ! お願いします!」
タニは背筋を伸ばし、再び深くお辞儀をした。
タニが意気込んでいるとガララと障子戸が開いた。ここは古民家のような造りである。障子戸も立て付けが悪いのかスムーズには開かなかった。
「……ん。客だな。ちょっとどいてろ。邪魔だ」
リュウが再び鋭く言い放ったのでタニは慌てて横に避けた。障子戸からこれから竜宮のツアーを頼みたい客神がぞろぞろと入ってきた。
「はい。こちら、竜宮ツアーの組み立て、それからご案内をさせていただいております。わたくし、ツアーコンダクターの『流河龍神』でございます。本日はどういったご用件で?」
リュウが先程とはまったく違う話し方で客の相手をしていた。
「顔もニコニコ……」
タニはリュウの変貌ぶりに驚きつつ、どこかかっこよくも見え、ただ茫然とその場に立ち尽くしていた。