地味子の暴走2
「じゃ、問題出すぜぇ!数式結界の問題な。ちなみにこれができなきゃあ従業員用の鳥居が壊れた時に竜宮内に入る事ができねぇからな。けっこう大事だと思うぜ。そしてこれはけっこう簡単な問題だ。」
リュウは数式が沢山書かれているページをトントンと指差す。それを見てヤモリがあからさまに嫌そうな顔をした。
「うげぇ……私、数学苦手なんだよね……。たしかリュウは『結界破りのリュウ』とか呼ばれてたよね……。どんな難しい数式結界も簡単に解いちゃうんでしょ。だったら君を連れまわせばこんなこと覚えなくてもいいよね?ていうか捕縛して連れまわす。今、そういうゲームあるでしょ?」
「馬鹿野郎! 俺様はどっかのモンスターか! なんでお前はそうやって丸投げすんだ!俺様が丁寧に教えてやるからちゃっちゃと覚えやがれ!」
リュウはビシッとやる気のないヤモリに言い放った。
「あー……リュウだったらけっこうスキル高そうだよね。ていうか、竜宮内で龍神を捕まえるドラゴンGOとかアトラクションに入れたら面白いと思うー。」
「最近の流行をとるな!まるパクリじゃねぇか……。しかも捕まえるとかお前は俺様達をなんだと思っていやがる……。」
さらにやる気のないコメントをするヤモリにリュウは素早くツッコむ。
「ほら、天津様は『伝説のドラゴン』ね。そして捕まえたら私達を守ってくれるの!よくない?」
「よくねえよ!捕まえに行ったやつらリアルに墓場行きだぞ!」
リュウは頭を抱えた。
「わ、私のスキルはなんでしょうか……。」
ヤモリの隣でタニはなぜかワクワクした顔をしていた。
「お前もなんでノリノリなんだよ……。お前なんてタマリュウとかいう草しか出せねぇじゃねぇか。」
「でもタマリュウは無限に出せます!すぐに消えてしまいますが……。」
タニは胸を張って自慢したがこれは何の自慢にもならない。
「なんでどいつもこいつもオリジナリティがねぇんだ……。飛龍なんてこないだ、ドラゴンクワトロとかいうけっこう危ねぇタイトルのゲーム作ってたぜ……。」
「あ、それってドラゴンクエ……」
「そこまでだ!そっからは言うな!色々とあるから!」
タニの口を慌ててリュウが塞いだ。
「じゃあ、私達もオリジナリティあるゲーム作る?そしたら私も忘れ去られる事ないよね?」
ヤモリがタニを見てほほ笑んだ。なんだかとても楽しそうに見える。
「なんで勉強から主旨が変わってんだよ……。」
リュウが呆れた声を上げたがヤモリのテンションは上がっていくばかりだった。
「よし!じゃあ……そうだね……地味を卒業するなら……たにぐちさんと一緒にユニットを作って廃園になりそうな竜宮を活性化するためにドラゴンアイドルとして活躍するとかいうストーリーはどう?『R’usリューズ』とかいいと思う!あ、チーム名ね。」
「地味子……そのストーリー構成、どこから持ってきた?それ、俺様、なんかどっかのスマホゲームで見た気がするぜ……。」
リュウの横ではタニが目を輝かせていた。
「アイドル!いいですね!憧れです!」
興奮気味にタニはヤモリとリュウを見た。
「曲はリュウに作ってもらおう!おおおお!なんだかやる気が出てきたわ!いつもこんなテンションにならないのに!存在感が出た気がするの!」
ヤモリは戸惑っているリュウを無駄に絞めるとこぶしを天井に振り上げた。
「いででで……なんで俺様を絞める!それからなんで俺様がアイドルソングなんて作んないとなんねぇんだよ!勝手にやれよ!」
テンションが上昇気流なヤモリはリュウを絞めながらなぜか突然に意識を失った。
「……っ!?」
突然倒れたヤモリにタニとリュウはビクッと肩を震わせた。
「ん!?お、おい……俺様が失神するのはわかるが……地味子?どうしたんだ?」
「ヤモリせんぱーい?大変!なぜだかわかりませんが突然、気を失ってしまったようです!」
リュウとタニは慌ててヤモリを抱き起した。抱き起した瞬間、二神が吹っ飛ばされるほどの突風がヤモリから発せられた。
「うわああ!……何なに!?」
リュウとタニは開け放たれたドアの先、廊下辺りまでぶっ飛ばされた。近くにあった障子戸の窓は跡形もなく吹き飛んでいた。
リュウはタニがケガしないように守りながら茫然とした顔でヤモリを見つめた。
「なっ……なんだ?おい!地味子!」
暴風は竜巻のような風に変わり、周りの机や本などを巻き上げ、やがてヤモリの体も浮かせた。
「ひぃいい!リュウ先輩……これなんですか?」
「し、知らねぇがなんだかヤベェ感じがムンムンするぜ……。」
タニとリュウはお互いを抱き合いながらヤモリの変貌ぶりにただ目を見開いていた。
風は天井をぶっ壊し、周りの龍神達はザワザワと騒ぎ始めた。しばらくしてヤモリの外見が変わり始め、黒い髪からピンク色の髪に変わり、頭に龍のツノが生え、服装も着物を崩したような格好に変わった。
まるで別神のようだ。




