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地味子の暴走1

このお話に出てくるヤモリは本編、かわたれ時…二話目で登場しています。

そちらもどうぞ!!

挿絵(By みてみん)

 ここは神々のテーマパーク竜宮。竜宮は龍神達の住まうところであり仕事場でもある。

 新しく竜宮へ入社した緑の髪のオカッパ少女タニは必死で竜宮の施設を覚えていた。


 季節は八月に近く、メンテナンス期間も終わったので竜宮は観光客で一杯だった。

 観光客はもちろん皆神である。


 「ああう……。」

 タニは涙目になりながら龍神達の住み込み寮で竜宮案内のマニュアル本と戦っていた。


 「うわーん……このジェットかえる、赤、青、黄色、緑って何~……。これ、ただの色のついた蛙の写真……。」

 マニュアル本には全五百六十種のアトラクション名が写真付きで事細かに書かれていた。


 「ジェットかえる赤が……左方向に飛ぶ……青が右斜め……黄色が北北東……北北東!?……緑が回れ右……回れ右って何?……どうしよう……全然わからない……。まず飛ぶ方向を統一してほしい……。」


 タニは頭を抱えながら続きを読む。その続きには『実は紫も存在する。赤と青の混合の能力を持つかえる。ちなみに橙、黄緑も存在し……』とさらにかえるの種類が増えていた。


 「あああああ!赤と青の混合の紫はどの方角に飛ぶの!?左方向の右斜めって何!どっち?そしたら黄緑の北北東で回れ右もどうしたらいいかわかんないよ……。」

 「たーにぃ!」

 タニが悶えていた刹那、すぐ後ろでタニを呼ぶ声が聞こえた。


 「え?ぎゃあ!……リュ……リュウ先輩でしたか……。」

 タニの後ろには竜宮ツアーコンダクターのリュウがいたずらっ子のような表情を浮かべ立っていた。見た目は怖そうなお兄さんである。


 黒い着物を肩半分だけ出しているのもなかなか怖く見える。


 「りゅ……リュウ先輩……どうして私の部屋に……。」


 「あ?ドアの鍵が開いてたんだよ。何度もノックして声かけたが返事がなかったんで試しにドアノブをひねったら開いたからよ。なーにしてんのかなあと顔出したわけよ。……お?そりゃあ従業員用のマニュアル本だな?もうそろそろ覚えてないとお仕置きだぜ?」


 「おし……」

 蒼白になりつつあるタニにリュウは楽しそうに笑っていた。


 「うしっ!じゃあテストやるか!」

 「まままままっ!待ってください!」


 「うおっ!な、何だよ?ままままま……って。おめぇはバグったおもちゃかよ。ほんと、おもしれーやつ。さーて、ダメだった時のお仕置きは何にしようかな~。」

 さらに蒼白になったタニにリュウは黒い笑顔を浮かべる。


 リュウは隠れドSのようだ。いや、タニの前では隠れていないのかもしれない……。


 「ひぃいいい!あと……あと一時間くださいぃ!」


 「だーめだ。そうだなあ。滝壺ライダーに安全バーなしで乗るとか?そりゃあ、ちと危ねぇか。下手したら海の藻屑だ。」


 「なんだかわかりませんがたぶんそれはとても危険だと思いますっ!」

 タニはあわあわと目を回しながらリュウの暴走を止めようと必死になった。


 「うしっ!じゃあ柄杓でケツバットな!これなら危なくないしお仕置きとしては最適だろ!よーし、じゃあ俺様が問題出すぜぃ!」

 「わーっ!ちょちょちょっ……ちょっと待ってください!」


 タニが慌ててリュウを止めた時、すぐ近くで女の声が聞こえた。


 「……リュウ、それは男臭い野球部ならまだしも女の子にやる事じゃないでしょ……。何馬鹿な事言ってんの。まあ、君は元々馬鹿なんだけど。」


 振り向くとタニとリュウの後ろで女が腕を組んで立っていた。女は麦わら帽子にピンクのシャツ、下はオレンジ色のスカートというちょっと地味な格好をしていた。


 「うげっ!地味子じみこ!いつの間に!」

 「地味子じゃない!ヤモリ!君ね、そろそろ絞めるよ!」

 驚くリュウに地味子もとい、ヤモリは声を荒げた。


 「わっ……悪かった!ヤモリだな!ヤモリ!てか、なんでお前今、竜宮にいんだよ!いつもほとんど竜宮にいねぇじゃねぇか。他の龍神達はお前の事覚えてねぇぞ……。」

 リュウは戸惑いながらヤモリを見据えた。


 「あー……えっとね、これから竜宮が戦場みたいに忙しくなるからって天津様から手伝いの要請が来てね。それで来たんだけど……」

 ヤモリはそこまで言うとなぜだかわからないがしくしくと涙をこぼし始めた。


 「ん!お、おいおい?なんだよ、いきなりすぎでビビるぜ……。」


 「来たんだけど……私の部屋がなくなっているの!こんなのあんまりだよ……。そりゃあ私は地味だし……影も薄いし……付け合わせの野菜の食べ残しにすらなれない存在だけどこれはひどいよ!私の部屋がなくなっているなんて……うう……。」


 ヤモリは両手で顔を覆うと本格的に泣き始めた。


 「うっ?うわっ!な、泣くんじゃねぇよ!……付け合わせの野菜の食べ残しってどういう状態なんだよ……。だ、大丈夫だ……きっと全部食べてもらえるさ!な!」

 リュウは焦りながらよくわからない言葉を並べヤモリを慰めていた。


 「リュウ先輩?あ、あの……まさかとは思うんですけど……。」

 タニがこっそりリュウにささやこうとしたらリュウに止められた。


 「わ、わかってるぜ……ああ、わかっている。俺様がお前を推して入社させたから今年は入社神数が一神多い……つ、つまり……地味子の空き部屋はお前の部屋になったってわけだぜ……。」

 リュウがさらに声を小さくしてタニの耳にささやいた。


 「そ、そうですよね……。やっぱりこのお部屋が……。わ、私……出て行きますよ……。」


 「馬鹿野郎……。お前、この部屋から出たらどこに泊まるんだよ……。俺様の部屋か?ちょっとそりゃあまずいだろ……。ほら、男女の関係で色々と!……と、とにかく……気を紛らわそうぜ……。地味子の。」


 「ちょっと何こそこそ話してるの?……そこの君は誰なの?」

 ヤモリはタニに目を向けると首を傾げた。


 「え?あ……えっと……私は新神の谷龍地神たにりゅうちのかみです!よろしくお願いします!」

 タニは動揺しながらも頭を下げて自己紹介した。


 「たにぐち?変わった名前だね。私は家守龍神いえのもりりゅうのかみ、ヤモリだよ。」

 「あの……『たにりゅうち』です……。たにぐちじゃないです……。ヤモリ先輩、よろしくお願いします。」

 タニは名前をもう一度言い直すがヤモリには軽く流されてしまった。


 「ん?だから『たにぐちさん』でしょ?」

 その光景をとなりでみていたリュウは笑いを堪えていたが結局笑っていた。


 「たにぐちさん、それ、竜宮のマニュアル本?私も怪しい所けっこうあるから一緒に勉強させてよ。」


 「はい、ヤモリ先輩。私は『たにりゅうち』です。いいですよ。一緒にやりましょう!私なんて全然覚えられなくて……。」

 タニはヤモリの名前ミスを丁寧に指摘するとマニュアル本をヤモリに見えるように置いた。


 「ああ、それでリュウからのお仕置きがどうとか言ってたわけね。」

 「言っておくがジョークだったんだぜ……。」

 頷くヤモリにリュウがため息交じりに答えた。


 「まあ、いいや。とにかく……じゃあ、リュウ、なんか問題出して!たにぐちさん、一緒に覚えよう?」

 「え……?あ、はい……『たにりゅうち』なんですけど……。」

 タニが控えめにつぶやいた言葉はヤモリには届いていなかった。


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