prologue
「おーい、決闘だ! 教会前の広場で決闘だぞ!」
人間種が多く住む大陸である第一大陸『ゾンターク』で一番大きな帝都『ディマンシュ』。普段から人通りの多い都だが、その日はさらに喧騒が大きく感じる日だった。
教会の前の広場に男が二人対峙し、その周りを野次馬たちが囲っている。対峙する二人の男は見た目の様相に違いが目立つ。
まず一人。年頃は大体、15から16くらいだろうか。体付きは華奢で顔付きも爽やかな印象を与える、優男という言葉が似合うような青年だ。
そしてもう一人。こちらの男は20代後半から30代前半の年頃だ。前者と違い、ボロボロのローブを纏っていて正確にはわからないが、それでも強者であることがわかる体格をしている。鋭い眼光で青年を観察している彼を見れば、何も知らない人から見ればこちらの男の方が強いと思うだろう。
だが野次馬たちは、この決闘の勝者は青年の方になるだろうと思っていた。なぜならーー
「おい、あんた。やめておきなって。彼は『勇者』なんだ。怪我する前に謝っちまいなよ」
野次馬の一人が男にそう忠告する。
さて、この世界の常識の一つに『ステータス』というものがある。これは別名『神の加護』とも言われ、世界中すべての人種がこれを持っている。そしてこれが強さというものの一つの指標とされ、ステータスの中の数値が高ければ高いほどその人物が強いということがわかると一般的に知られていた。勇者という人種はそのステータスが一般人に比べ圧倒的に高いというのもこの世界では常識なのだ。だからこそ、野次馬達はこの決闘が青年の勝ちで決まると思っていたし、男に対して青年が勇者であることを知らないんじゃないかと思い忠告をしたのだ。
「……ん? ああ」
青年を観察していた男は視線は青年から外さずに返事をする。だが、それに対する答えは忠告に従うというものではなかった。
「忠告ありがとよ。ま、俺は俺に出来ることをやるだけさ」
特に気負った様子もなく答える。それを聞き、忠告した野次馬の一人は肩を竦めながらこれ以上何か言うことを止めた。