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第5話 決着

「奥義―柳塵飛翔(りゅうじんひしょう)


 マーリンの姿が朧に揺れる。移動技か!?

 僕はとっさに迎撃にうつる。


「奥義―光刃閃!」


 光刃閃は剣による連撃の範囲攻撃だ。

 勘だったが、柳塵飛翔とやらには有効だったらしい。

 マーリンが楽しそうな顔で回避に移る。


「ほう。さっきから初見の技をようもこれだけ捌くものじゃ。」


 右腕に鈍い痛みが走る。どうやら光刃閃はかなりコスパの悪い技らしい。

 一人相手に範囲攻撃なのだから、大半は空振りだ。

 それでも隙が生じない程の高速の剣撃なのだから、腕に負担がかかって当然である。


 それを僕はさっきから防御技として多用していた。

 というか、マーリンは僕にそうさせるために、最初にこの技を見せたのだろう。

 便利だと思って使い続ければ勝手に自滅する技なのだ。


 だが、どっちみち長期戦はこっちに不利だ。

 じっくり安全に戦えば強い方が勝つに決まっているのである。

 弱い方がまぐれ勝ちするには短期決戦しかない。

 僕に残された体力は少ない。

 ここからが反撃だ。僕は腹を括った。一か八かの賭けだが…


「神槍!!」


 全身のバネを使って放つ超速の突き。しかも魔力を飛ばすので射程も長い。


「おお!コピーは諦めたのか?」


 マーリンが感心したように言う。完全に上からである。余裕綽々だ。

 もちろん神槍もマーリンのスキルのコピーである。

 だが、僕はさっきまでずっと相手が直前に使った技をそのまま返していた。

 そこで急に違う技を挟めば意表をつけるかと思ったのだが、掠りもしない。


「もう一発!神槍!!」


 マーリンは今度は踏み込みながら躱してくる。

 こっちのスキルは全てマーリンのコピーだ。向こうの知っている技である。

 選択肢が限られているのだから、初動を見た時点で「書架」の検索で先読みできるのだ。

 僕の攻撃が当たるはずがない。――見えていれば。


「火球!」


 踏み込んできたマーリンにカウンター気味に火球の魔法を放つ。

 もちろんダメージなんて与えられるはずもないけれど、視界をふさぐことはできる。

 その状態でも躱せるか?


「神槍!!」


 視界をふさがれたマーリンがいったん距離をとると踏んだ神槍。この技の射程は長い。

 さらに追加で神槍を3発叩き込む。

 4発目を放とうとしたとき―


拘束(スペルバインド)!」


 魔力の鎖が僕を縛り上げる。

 背後から現れたマーリンは、左肩を負傷していた。

 瞬間移動系の技だか魔法だかを使って躱したのだろう。2発目からは。

 最初から使っていれば傷など負わなかったのに、とっさのことで躱し方を間違えたのだ。

 表情からは余裕が消えていた。


「まったく、やるものじゃ…。」


「技は使えて当たり前、そういったのはお前だ。勇者と同じ技が使えても、お前は勇者じゃない。きっと、剣での戦いは(・・・・・・)慣れてない(・・・・・)と思った。」


「正解じゃ。儂は導き手。勇者パーティーでも後衛担当じゃったよ。もっとも…」


 魔力の鎖がさらに増える。絞め殺すつもりかと思うほどの拘束力になっていた。


「魔法戦闘であれば誰にも負けんがな。抵抗低下(アンチレジスト)


―「抵抗低下」の魔法が5連続でかけられました。カラ=レイアの魔法抵抗が0になります―


「本当はお主自身の意志で儂のものになってほしかったが、無理であれば仕方ない。誓約(ギアス)の魔法で縛らせてもらうぞ。」


 近づいてくるマーリン。

 僕は目を閉じた。…そして、


 一気に拘束の魔法を引きちぎる。属性変化を発動して、僕は黒鉄竜になっていた。

 黒竜の魔力は「吸収」。どんな物でも魔力でも吸収してしまう。それは拘束の魔法であっても例外ではない。そして黒竜のスピードは最速だ。


神槍(・・)!!!」


「な…っ!!!」


 僕はこの短時間の攻防で神槍を7回も使っていた。それだけ使えば書架がなくてもそれなりに使える。

 マーリンは剣での戦闘に慣れていない。魔法戦闘をさせれば咄嗟に剣のスキルは使えないと踏んだ。それならば、黄金竜より黒鉄竜の方が強いに決まっている。

 属性変化を使わずに、剣と魔法だけでマーリンに一泡吹かせることができれば、得意の魔法戦闘に移行すると思っていた。


 一か八かだった。賭けだったけど、勝算はあった(・・・・・・)



 僕の黒の魔力を纏った剣は、確かにマーリンの胸を貫いていた。


「あ!ああっ!あああああああ!!!!!」


 マーリンの絶叫が響き渡る。迸る吸収の魔力がマーリンを体内から食い散らかす。

 マーリンの魔力も、肉体もだ。


「ばっ馬鹿な!!!儂が!儂が!!こんなところで…っ!!!」


「終わりだ!マーリン!!!」


「うあああぁあーっ!!!!!」


◆◆◆

 黒の魔力が完全にマーリンを食い尽くしても、僕はしばらくそのままの姿で荒い息をついていた。

 周囲を注意深く探り、ようやく剣を下ろす。敵の気配は感じない。

 念のため、黄竜に戻って確認するが、魔力も感じなかった。


 どうやら本当に勝ったらしかった。まぐれも良いところだが。



「…やってくれたな。小僧。」


「!?」


 驚愕して周囲を見回す。いや、どこにも気配は感じない。

 だが、声は聞こえる。どこから!?


「お主の中じゃ。」


…は?


「儂はお主に食われた。食われて死んだ。この黄金竜マーリンがな。じゃが、お主は儂の魔力を引き継いでおる。故にか知らんが…なんか儂、お主の中で存在できとるみたいじゃ。」


…はああ!?


◆◆◆

 理由は分からない。

 だが、スキル「書架」が「マーリン」に置き換わっているのだ。

 しかもマーリンの持つ膨大なスキルも使用可能なのである。

 マーリンが戦闘で使っていなかったスキルも試してみたから間違いない。


 なにより、「書架」は僕が答を知らない問いには答えられなかった。しかし、マーリンは明らかに僕が知らない事まで知っているのだ。たとえばこの迷宮の階層数とか脱出方法とかだ。


「どういうことだよ。僕は皆のカタキとずっと一緒にいなきゃならないってのか…?」


「泣きたいのは儂の方じゃ。お主を戦力に数えておったのは本当なのじゃぞ…。それなのに肝心の儂が死んでしまっては、あやつらに勝てる勝算が…」


「それは自業自得だろ。というか、お前その状態になっても僕を諦めてないのか?」


「あ!」


「なんだよ?」


「そういえば儂、なんかあの嵐のような性欲が消えてる!」


 こいつ、僕が寝てた時に何か変な事してないだろうな。

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