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第4話 黄金竜マーリン

 いやー。リビングアーマーさまさまですわ。


 奴が残してくれたのは「身体強化」と「剣術Lv.1」と、ロングソードだ。

 タワーシールドも残っているけど、剣だけでいい。

 だって手ふさがるし。


 さて、それを例の四足獣に試してみる。


 超苦戦した。

 今まで瞬殺してたから、奴が「毒霧」なんてスキル持ってるの初めて知ったわ。

 リビングアーマー、マジ使えない。

 まあ「毒霧」は書架さんが解析と魔力操作で無毒化してくれたけど。


――毒霧を解析しました。スキル「毒無効」を修得しますか?――

――指輪の効果「他生物変化」と併用してスキル「毒霧」を修得しますか?――

――ポイズンドッグの動きを解析しました。スキル「体術Lv.2」を修得しますか?――

――「剣術」を最適化しました。「剣術Lv.2」に強化しますか?――


 ……何か色々来た。

 

 一つ目は良い。予想通りだ。

 二つ目。人化以外では初めての他生物変化だ。

 というか、他の生物になれるのに、容姿や性別は変えられないのだろうか。

 僕、もともと男なんだけど?


――容姿は各生物につき一種類です。

 性別は指輪の「変態補助」の効果で固定されています――


 OK。僕が女になった理由がわかった。

 完全にマーリンのせいだろこれ!!!


 この指輪外せないの?


――解析には時間がかかります。

 カラ=レイアの「解析」よりも上位の「構築」で組まれた術式です――


 さすが天然ものの黄金竜。作り物の僕とはレベルが違うらしい。


 まあ、とりあえず置いておこう。

 そう。今の僕はドラゴンだ。ドラゴンが人に化けている状態だ。

 そして人以外にも化けられるらしい。

 それで、モンスターのスキルまでコピーできると。

 魔法や剣術もスキル扱いだし、そのうち膨大なスキル量になるんじゃないだろうか。


 そういえば、そもそも黄金竜の固有スキルも全部は把握していない。

 「書架」と「魔力感知」「魔力操作」「解析」。「構築」とやらもか?


 書架。ちょっと俺の全スキルのリストを出してくれ。


――リストは作成できません――


 なんですと!?

 いや、そうか。これは書架の限界じゃない。

 僕のメイン意志の方の限界なのだ。

 僕が全スキルを把握できないから、サポート用に書架がいるのである。


 だとすれば、スキルを修得しすぎると、把握しきれなくなるってことか。


――検索は可能です――


 それでも不安だな。スキルを増やすより、使うスキルを絞って鍛えた方が良いかもしれない。

 何気に「剣術」が、「修得」じゃなく「強化」されたっていうのは大きいと思う。

 このまま使い続けたら剣術の達人級になれるかもしれない。

 ちなみに、レベルの上限はあるのだろうか。


――剣術スキル、体術スキル等の基本スキルはLv.10が上限です――


 先は長そうだ。

 2匹目の四足獣―ポイズンドッグが視界に入る。

 僕はさっきよりずっと簡単に切り伏せた。


◆◆◆

 多分1時間ほどうろうろしたと思う。

 今いるのは広めの部屋だ。一辺が50mはある正方形をしている。

 そこに下層への階段があった。


 あの後リビングアーマーとは3体戦ったし、ポイズンドッグは群れで襲いかかってくる事もあった。

 だが「剣術」も「体術」もLv.3で打ち止めのようだ。もっと強い敵と戦えば分からないが。

 それとは別に「燕返し」や「縮地」といった技をいくつか修得した。

 これにはLv.はない。

 リビングアーマーも含め、この階層の敵には剣だけで簡単に勝てるようになっていた。

 

 次の階層にはどんな敵がいるのか――

 僕はワクワクしている自分に少し驚いた。


 「思ったより好戦的じゃな」


 !?


 魔力の発動を感じる。

 部屋の入口付近に魔方陣が描かれていた。さっきまで無かったものだ。


――術式を解析しました。転移(テレポート)の魔法です――


 魔方陣から光があふれる。

 そこから、薄手の部分鎧をまとった女性があらわれた。

 兜がないので顔が見える。かなり美しい。20歳前後だろうか。


 美しい金髪は後頭部で一つにまとめられているが、

 吹き上がる魔力に前髪が揺れる。

 閉じた瞳の先に揺れるまつ毛は長く、真っ白な肌に、桜色の唇。

 人間離れした美しさに思わず見とれてしまう。


 金色の胸当て(ブレストプレート)手甲(ガントレット)には青い紋様が描かれ、

 下半身は白を基調としたロングスカートだ。

 右手には抜身の長剣(ロングソード)を構えていた。


 そこにも青い宝石と精緻な彫刻が施されており、

 それと組み合わせるように複雑な術式が組み込まれていた。

 書架の解析によると、単純に切れ味と耐久力を上げるためのものらしい。

 …上がり方が半端ないようだが。


「思ったより早いな。……黄金竜マーリン。」

「やはり気づいておったか。なぜ「早い」と思ったか聞いても?」

「天井が低いからね。この部屋では竜の姿になれない。」


 マーリンが驚いたように目を開いて溜息をついた。目は青かった。


「まともな根拠が返ってくるとは思わなんだわ。

 改めて名乗ろう。我が名は黄金竜マーリン。この迷宮の主じゃ。

 惚れたぞ。我が花嫁よ。」


 ちょっと待とうか。

 ……花嫁?ああ、だから指輪には性別固定の効果があったのか。

 じゃなくて!


「僕は男だ!」

「では別に儂が妻でもかまわんぞ?婿殿。」


 マーリンが楽しそうに微笑む。小首をかしげたしぐさが可憐だった。

 生まれてこの方、女の子と付き合ったことのない僕には破壊力抜群だ。

 落ち着け。冷静になれ。

 コイツは竜だ。先輩や先生や護衛の人たちを殺したドラゴンなのだ。


「……それが今回の騒動の原因か。

 5体の竜が集まって「金属級」の竜を生み出し配偶者にする、

 それがお前たちの目的だったのか!?」

「その通りじゃ婿殿。ドラゴンは自分と同級、同色の竜しか嫁にできぬ。

 じゃが、1体で「変態」するには魔力を消耗しすぎる。

 故に5体で負担を等分するために集まったのじゃ。」


「今ここにお前しかいない理由は…」

「他の4体を出し抜いてお主をさらったからじゃ。

 この迷宮には奴らとて簡単には手出しできん。

 いつまで持つかは分からんがな。」


「……」

「のう。儂はお主に惚れた。儂をそなたのものにしてくれぬか。

 そなたが我が主となれば、「魔導王」マーリンの名に懸けて、

 この世の富と栄華の全てを約束しよう。」


 マーリンが頭を下げる。口調のせいか、芝居がかった印象を受ける。いや…


「……もう一つ聞きたい。

 この指輪にはなぜ「属性変化」の効果がある?

 お前の配偶者になれるのは黄金竜だけだろう?

 なぜ「属性固定」にしなかった?」

「正直に申し上げましょう。

 奴らはいつこの迷宮に攻め入るやも知れませぬ。

 ご主人様のお力をお貸し頂きたいのじゃ。

 黄竜は魔法に優れるが、戦闘力では黒竜や赤竜には及ばぬ。」


 マーリンの口調が少しずつ変わっている。

 こちらの反応を見ながら、こちらの自尊心をくすぐるように。


「お前は僕の仲間を殺した。」

「言い訳のしようもありませぬ。

 儂が助けられたのはご主人様お一人だけじゃった。

 金赤竜シャイアを止めるのは、儂の力をもってしても容易ではないのじゃ…。」


 嘘だ。


「あれはシャイアの暴走じゃった。

 あるいはライオットやゾーハンもそのつもりであったかも知れぬが…

 白金竜セイクリッドが聖竜と呼ばれておることは知っておろう?

 儂らは命まで奪うつもりは…」

「聖竜セイクリッドもお前も、金赤竜を止めようとしていたようには

 見えなかったぞ。

 いや、思い返せば、最初から僕だけを残して(・・・・・・・)皆を殺しているようだった。

 お前ら、あの調査団で僕が一番若輩なのに気づいていたな?

 僕が一番素直に言う事を聞くと思っていたな?」


 所詮ドラゴン。人ではない。

 こいつらにとって僕らは同じ生き物ではないのだ。


 マーリンが薄く笑うのが見えた。


「見込み違いじゃったよ。婿殿。

 下手に出て駄目なら、力の差を見せれば素直になるか?」


 解き放たれた魔力は圧倒的な奔流となって僕の頬を叩く。

 金色に変わって縦にさけたマーリンの瞳が僕の眼前にあった。


「奥義―“光刃閃(こうじんせん)”」


 僕はリビングアーマーの体の一部を改造して鎧として着ていた。

 それが紙のように細切れになる。


「奥義―“光刃閃”」


 僕はそっくり同じ技を返していた。

 だが、マーリンの方はそれを易々と捌く。


「当てる気がないのを読んで、一切防御せずに反撃か!

 しかも中々のコピー練度じゃ!」

「…っ !」

「さあさあ!次は当てるぞ!捌いてみせい!」


 マーリンは次々と技を繰り出してくる。同じ技は二度使わない。

 しかも、当てる気がなかったのは光刃閃だけだ。

 次の技からは『死ななければ構わない』という感じで、

 手足くらいは平気で切り飛ばす間合いで打ち出してくる。


 マーリンの剣を解析して同じ術式を自分の剣にかけていなければ、

 剣ごと切り飛ばされていただろう。


 黄金竜は「解析」と「構築」により、見たスキルを瞬時にコピーできる。

 さらに、「最適化」と「構築」を使えば、それを強化することもできるのだ。

 だから黄金竜同士の戦いは互角になるはずだと思っていた。


 甘かった。


 僕にとってマーリンの技は初見だ。躱すのは簡単ではない。

 だがマーリンにとって僕の技は「知っている技」なのだ。躱すのは難しくない。

 しかも…


「のう。婿殿は「格闘ゲーム」をやったことはあるか?」


 僕もそれを感じていた。

 格闘ゲーム…格ゲーは王都で中高生の間に流行っている娯楽だ。

 書架の整理するスキルは格ゲーのコマンド技やコンボに概念が近いのだ。


「書架の「解析」と「構築」によるスキルコピーは便利じゃろう?

 じゃがな、スキルを使えるというのは、格闘ゲームでいう

 『コマンド技やコンボが出せる』のと同じことなのじゃ。

 初心者相手ならばそれで押し切れるかもしれん。

 じゃが、まともにプレイしている連中からしてみれば

 『技は出せて当たり前』なのじゃよ。

 勝敗を分けるのは、『技の性能と使いどころを把握しているか』と

 『相手の動きを先読みできるか』なのじゃ。」


 その通りだ。そしてそれはどちらも「書架」にはできない。

 メイン意志である僕の役割なのだ。

 今初めて見て、初めて使う技を、しかも大量に、

 把握なんてできるわけがなかった。


「そうそう。儂が今出てきた理由じゃ。

 人の姿の方が実力差が分かるからじゃよ。

 ちなみに、お主が金属級なのは、5属性()の魔力量を合わせてじゃ。

 属性変化ができると言うても、同時に複数の属性を使う事はできん。

 お主が金属級になりたてということを無視しても、

 儂とお主には一度に使える魔力量に5倍の差がある。」


「じゃが、勘違いするなよ?

 お主は充分強い。

 なにせ儂の使っておるスキルは、嘗てこの国で勇者や英雄と

 呼ばれた者たちの奥義なのじゃからな。

 彼らの多くはこの儂が育てたのじゃ。

 お主、相手が儂でなければ、良い線行っておると思うぞ?」


 確かに、彼らの英雄譚には謎の賢者や魔女が導き手や師匠、

 育ての親として現れることが多い。

 それが人に化けたマーリンだと言うのか!?


 だが、あり得る。

 先ほどの会話から、マーリンが人間の文化に慣れ親しんでいる

 ことは感じていた。格ゲーなんて、比較的最近の娯楽なのだ。

 こいつは意外と頻繁に人間と接触している。

 そして、本当にマーリンが英雄の師匠であるとすれば、

 奴のスキルはかなり強力だ。


 僕はいざとなれば黒や赤に属性変化すれば優位に立てると思っていた。

 個体能力では、黄は白に次いで2番目に弱いはずだったのだ。

 だが、黒や赤には「書架」がない。

 竜の姿ならともかく、人の姿では、奴のスキルに瞬殺される可能性があった。


 マーリンは会話の間も攻撃の手を緩めない。

 世間話でもするような気安さで必殺の攻撃を放ってくる。

 僕は既に全身血まみれだ。

 まだ体力は尽きていないが、それも時間の問題だった。

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