第1話 おっぱいぷるんぷるん!
何がどうしてこうなった。
一番可能性が高いのはこれが夢であることだが、試しに胸を揉んだり引っ張ったりしてみた結果、本物に間違いないという結論に達した。
股間の方も確認してみたが、結果は聞かないでほしい。
とりあえずは状況確認だ。
辺りを見回してみる。
何かの研究室のようだった。
窓はない。
中央の大きな棚が部屋を区切っており、薬品や実験器具が並べてあった。
一番奥がベッドで、その手前が勉強机。
ベッドの頭側の壁に洗面台と鏡。その隣に本棚と冷蔵庫があった。
鏡を見たら絶世の美少女がそこにいた。
ほっぺたをつねってみる。鏡の中の美少女もほっぺをつねっていた。
可愛い。いや、そんなことはどうでもいい。
僕の着ている服は少し青みがかった無地の、簡素な半袖だ。
前開きを紐で止めるつくりで、裾は股下10cmくらい。
下着はつけていない。ズボンも靴もない。
紐を解けば、すぐ全裸になる構造だ。
もちろん、もともと着ていた服ではない。
イメージ的に、手術時の患者とか、実験体とかに着せられるような服だと思った。
そして、めっちゃ爆乳。
ちょっと動くとこぼれそうだ。
これが自分じゃなければ嬉しかったのだろうが、、、
しかし、研究室らしき場所で、実験体のような格好で美少女になっているのは自分なのだ。
よけい不安だ。ここは何処で、自分は何をされたのか?
もともと洒落になってないけど、違う意味でも洒落にならない。
調査団がドラゴンに襲われ、自分も死んだと思ったら、女の子になっていた。
何を言っているのか分からないと思うが、事実だ。
夢であってほしい。ほしいが、僕には分かる。
これは現実だと。
◆◆◆
黄金竜マーリンの地下迷宮にほど近いズィーエル村は、レナード王国最北端の村だ。
地下迷宮探索の拠点とされるため、ズィーエルの酒場には冒険者ギルドの出張所がおかれていた。
そこのドアが軋む。客だ。
フード付のケープを羽織っているが、女性らしい色香は隠せていない。
丸眼鏡に化粧っ気もなく、ぽやぽやとした雰囲気だが、美人だった。
「可愛い」と言った方が良いかもしれない。
彼女に粗野な視線が集中する。が、それだけではない。
酒場全体が妙に殺気立っていた。
「え~っとぉ?」
妙に間の抜けた声だ。
彼女の反応はひどく場違いに見えた。見かねて店主が声をかける。
「お嬢ちゃん、仕事の依頼か?今日はタイミングが悪りい。帰んな。
このまえ地下迷宮の傍でドラゴンが争ってるのが目撃されたんだ。
先日出発した調査隊も音沙汰ない。
しばらくは誰も仕事なんか受けねぇよ。」
「あ、わたくし、その件で参ったのです。
冒険者のソフィア=クレメンテスと申します。
冒険者ギルド本部の依頼でドラゴンの調査に参りました。」
すぐにずり落ちる眼鏡の位置を直しながら答える彼女に、店主が息をのむ。
ソフィア=クレメンテス。10名といないS級冒険者の一人。
二つ名はたしか―「怪物」
◆◆◆
カラ=レイアは室内を見渡していた。
棚を挟んで反対側の壁に出入り口があり、その手前が実験机らしかった。
出入口側の壁も棚が置かれており、ごちゃごちゃと魔道具が入っている。
出入口のドアにはオレンジに光る線が走っている。
――術式を「解析」しますか?――
…え?
頭の中に声が響く。いや、声ではない。そういう意味のイメージのようなものが浮かんだのだ。二重人格のようなものだろうか。
――黄竜のスキル「書架」の効果です。二重人格のようなものと解釈して間違いではありません――
――解析完了。「錠」の魔法です。魔力操作により「解錠」できます――
「解錠」?僕はその魔法は覚えてないはずだけど――
鍵はあっさりと開いた。ドアの外は部屋の中とは不釣り合いなほど年季の入った石の壁で、まるで話に聞く地下迷宮みたいだった。
そしてそこには、ちゃんとモンスターまでいた。
◆◆◆
毒々しい色の犬に似た四足獣がくちゃくちゃと音をたてている。
ウサギか何かの小動物を食っているようだ。
そいつはドアが開く音に振り返ると、極めて自然な動作でのそのそと近づいてきた。
警戒する間もなく間合いの中だ。
目があった瞬間「こいつは僕を餌だと思っている」のが分かった。
その瞬間の急加速、そいつは一瞬で距離を詰めてきた。
ヤバい!
と、思った瞬間、僕は「火球」の魔法を放っていた。
魔法科といっても、中等部では実践的な魔法は習わない。
魔法理論の講義が中心なのだ。
「火球」の魔法も、習ったわけではなくて、入り浸っていた学院で、高等部の先輩に教えてもらったものだ。
僕が使える攻撃魔法はこれしかない。
10秒くらいの詠唱が必要だが、わりと効果範囲が広く、威力も高い。
これが使えると魔法使いとして一人前だと聞いて、必死で覚えた。
まともに使えるようになるまで、一ヶ月くらいかかったと思う。
僕はそれを使った。超至近距離で。無詠唱で。
「火球」は使おうと思った瞬間に発動し、初めて見る高威力の爆炎をぶちまけた。
四足獣は声も上げずに消し炭になった。
だがそれだけではすまない。
爆炎は、一瞬で僕の眼前に迫り、僕自身を巻き込んだのだった。
あ、死んだわ。これ。
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