プロローグ②
悪夢だった。
一体でも一軍に匹敵すると言われる金属級のドラゴンが、5体。
赤いドラゴンの炎のブレス一発で調査団は壊滅し、生き残った者達もなすすべなく引き裂かれていく。
カラ=レイアはどこか他人事のようにその光景を眺めていた。
恐怖心は既に麻痺している。
絶望的過ぎて笑うしかなかった。
ふと金色のドラゴンと目が合う。
その口がゆっくりと開いていくのが見えた。
いや、実際には一瞬だったのかもしれない。
視界が白く光り、すぐに暗転する。
痛みはなかった。死に方としてはまだましかもしれない、と思いながら、カラは意識を失ったのだった。
◆◆◆
レナード王国には4体、あるいは5体のドラゴンが生息すると言われている。
北の山脈を総べる嵐の王、金青竜ライオット
その麓に広大な地下迷宮を築く魔導王、黄金竜マーリン
東の国境の広大な平地を総べる爆炎の支配者、金赤竜シャイア
何処にいるとも知れぬ聖竜、白金竜セイクリッド
そして誰も見たことがないという黒鉄竜ゾーハン
最初に異常が観測されたのは金赤竜シャイアだった。
どうも金青竜ライオットと争っているらしい、と思われた。
レナード王国の王都グラリアーナの上空を舞うシャイアはたびたび目撃され、市民は恐慌に陥った。
ほどなく、中央学院と騎士団、冒険者からなる調査団が組まれることとなった。
カラは中央学院付属学校中等部魔法科3年2組に所属する15歳の少年だ。
成績は上位だったが、特別優秀というほどでもない。
少なくとも、国家規模の調査団に加えられるような天才ではなかった。
ただ、好奇心旺盛で、中央学院によく出向いて、研究室のおにーさん、おねーさんや導師達にかわいがられていた。
調査団についていくことになったのも、そんな事情だ。
将来有望な少年に、一流の研究者たちの実施調査の様子を見せてやろうと思ったのである。
要するに、危険な調査だとは誰も思っていなかったのだ。
まさか、金赤竜と金青竜どころか、伝説の黒鉄竜まで含む5体のドラゴンが全て、しかも直前まで何の気配も感じさせずに現れるなど、誰も想像していなかった。
そんなことは王国の有史以来、ただの一度もなかったのだから。
だから、目が覚めたとき、カラはてっきり、あの惨劇が夢なのだと思った。
体に痛みはない。
手足もちゃんと動く。
自分は生きていたのだ。
ただ、見たことのない部屋だ。
色々な魔道具らしきものがごちゃごちゃと置かれていて、中央学院の研究室に似ていた。
5、6人の研究員が論文を読みながら、忙しい時は寝袋で雑魚寝していたあの研究室。
一瞬そこに泊まったのかと思ってしまったほどだ。
だが、違う。あれはやっぱり夢なんかじゃない。
ここは中央学院の研究室のように、いくつもの机はなく、自分が寝ていたのも質素だがちゃんとしたベッドだった。
むしろ寮のベッドよりも寝心地が良いくらいだ。
少し息苦しかったが、それも単に胸が重かっただけである。
カラは何の気なしに胸にのっているものをどけようとして、
そこで初めて、自分が女になっていることに気が付いた。
な、なんじゃこりゃーっっっ!!!