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第2話 北嶺の都①

 僕はガーランド大公国の正式な視察として扱われる事になり、迎賓館に通された。入り口で剣を預ける。最初から預けるつもりでアルフレッド様に借りていた剣だ。

 これで彼らは僕を剣士で、今は丸腰だと思ってくれただろう。僕の本当の武器、ケイオルカは(カラス)に擬態して建物の外にいる。


 一度宿泊室に荷物を置いてから、侍従長さんに挨拶をし、商品の売買を済ませてから自由時間になるという流れらしい。

 ちなみに竜の民は「金青竜ライオットに仕えている」形であるため、最高指導者が侍従長なのである。今の侍従長はカイエル=リウニーという人だとマーリンが教えてくれた。


 宿泊室は簡素だが清潔だった。女中(メイド)を付けるか聞かれたが断る。


『…(´・ω・`)』


 なぜかマーリンが悲しそうだった。お前は女なら竜じゃなくてもいいのか。


 とりあえず魔法がかかっていないか確認すると、「魔法感知(センスマジック)」の魔法がかけられている。近くで魔法を使えばバレる魔法だ。


 もっとも万能ではない。

 常時発動型の魔道具(マジックアイテム)や、竜の属性結界のような種族固有スキルは感知されない。

 英雄級や勇者級の魔法スキルにも「魔法感知」されないものがある。


 たとえば同じ「空間収納」の魔法でも、僕が使えばバレるが、ソフィアさんが使えばバレないのだ。彼女は時空間操作を得意とする英雄級の使い手である。

 要は魔力の流れが自然なものは感知できないということだ。


 なので僕は属性変化で青になり、青竜の遠見能力で帝国の使者とやらを覗いてみるつもりだった。これは魔法感知にかからない。

 地下迷宮では扉や壁の向こうは見えなかったが、それは物理的にも魔力的にも完全密閉されていたからだ。人の作った建造物なら大概向こうが見えることは確認済みだった。

 風の魔力が通る所であれば見えるのである。


 使者の部屋はすぐにわかった。四部屋も取っている。一部屋が一番偉そうなやつ。残りは護衛らしい。ちなみに声も聞こえる。その気になれば声を届けることも可能である。


 どうやら偉そうな人はザフ=クルッパ伯爵らしい。

 クルッパ伯といえば、この山から帝国側に降りる最初の地域の領主だったはずだ。今朝もらったばかりの地図を確認する。間違いない。


 そこまで見た時点で、扉がノックされる。侍従長が会ってくれるとのことだ。僕は黄竜に戻り気を引き締めた。


◆◆◆

 侍従長カイエル=リウニーは初老を少し回った、人のよさそうなおじさんだ。

 部屋も実直さのにじみ出る簡素な執務室で、どうやら竜の民は竜の宮殿と衛門以外には手間暇かけないらしかった。まあ、物資は常に足りていないだろうから、贅沢できないのだろう。ただし机などは頑丈そうで、使い勝手は良さそうだ。


「ようこそお出で下さいました。大した持て成しもできませんが、ゆっくりして行ってください。ガーランド殿にもよろしくお伝えください。」


 型通りの挨拶を済ませただけだが、少し疲れているように見受けられた。

 僕の持ってきた商品が香辛料であると聞くと、少し嬉しそうな顔になる。


 売買は物々交換だ。北嶺の特産はジャガイモと羊である。まれに金青竜の鱗が手に入る事もあるらしい。僕は交換品に羊毛をお願いした。

 一週間の滞在を許可され、最終日までに希望の羊毛を用意しておいてくれるらしかった。

 

 さて、このまま部屋に戻ってザフ=クルッパを覗き見するか、外出するか。


『ザフとは直接会ってみた方が良いのではないか?』


 まあそうか。

 一度部屋に戻って青竜の遠見で覗く。

 ザフと参謀っぽい魔道士が話していた。どうも外出はしなさそうだ。その代り護衛の連中が街中を見て回るらしい。

 僕はそちらに接触することにした。


◆◆◆

「んー。クルッパも田舎だが、ここはそれ以上だなー。」


 先頭を歩いているのがリーダーなのだろう。まだ若いがなかなかの身のこなしだ。

 ザフの護衛隊は25名。鎧は着ていないが、正装というより動きやすさを優先した戦闘服である。勿論武器は預けているのだろうが、黄竜の目には魔力の残滓も見える。こいつらは全員魔道士だった。

 竜の民は200人くらいだ。ライオットと戦うならともかく、竜の民だけなら全員制圧できそうな戦力である。


 偶然を装ってリーダー(仮)にぶつかってみる。


「失礼しました。お怪我はありませんか…?」


「おい、お前、どこを見て…」

 まで言ってボーっとなるリーダー(仮)。

 秘儀、ドラゴン上目使い。相手は惚れる。


「もしかしてヒスパード帝国の方々でしょうか。

 わたくしはレナード王国ガーランド大公国の依頼で参りました、冒険者のクリスティア=マトーと申します。お見知りおきを。」

 

 とどめのニッコリ笑顔だ。25人中24人は落ちた。間違いない。


「貴様、無礼だろう!冒険者ごときが…!」


 おっと、効かないやつもいた。ホモなのか?

 僕は少し驚いてそいつを見た。

 よく見れば顔立ちは整っているが、チビで目つきが悪いせいで台無しだ。見るからに生意気そうな子供だった。いや、僕も中学生(子供)だが。

 多分コイツも僕と同じか少し下くらいだろう。それで伯爵の護衛を務めるとは恐れ入る。実力なのか家柄なのか。


 リーダー(仮)にどつかれて涙目で睨んでいる。家柄ではなさそうだった。


「あらためて名乗ろう。私はヒスパード帝国クルッパ伯の護衛隊の一員、ゼカルド=リック。こっちの生意気なのはリオ=ホードだ。ほら、謝れ。」

「…お、女に謝るなど、誇りが許さん!」

淑女(レディ)にご迷惑をかけるのは誇りに(もと)らないとでも?」


「……っ!…~、…おい。」

「?」

「わ、悪かった!悪気はなかったが怯えさせたのであれば、非は俺にある!リオ=ホードだ!謝ってやるから感謝しろ!」


 またリーダー(仮)にどつかれるリオ。ホモでMとか大変だな。

 次いで全員が自己紹介してくれた。自己アピール付きだ。ウザいし気持ち悪い。

 興味ないのでマーリンに覚えておいてもらうことにして聞き流す。

 

 ちなみにゼカルドはリーダーではなかった。ただの仕切り屋体質らしく、本当のリーダーはザフの相手をしている参謀風の魔道士だそうだ。

 ライミー卿というらしい。騎士崩れだろうか。

 

「ご丁寧にありがとうございます。ここで帝国の方と会えるとは思っておりませんでしたので、よろしければ食事などいかがですか?先ほどのお詫びも兼ねまして。」

「そ、それでは!たしかあちらに酒場がありましゅ!…す!ご案内いたします!」


 ほほう。なかなか気の効く奴だ。名前くらい覚えておいても良いかも知れない。

「はぐれても困るので!クリスティア殿は念話の魔法は使えますか!?よろしければ連絡先などを…!」


 やっぱりウザいだけだった。


 酒場はこの街で一軒しかない。サービスはそれほどでもないはずだが、護衛隊も僕も平民出身だし、たわいもない話をするには充分だった。

 プロの大人から情報を引き出すにはコミュ力が不安だったが、美少女補正のおかげでほとんど向こうが一方的に喋ってくれた。

 そこそこ有益な情報は引き出せたと思う。


◆◆◆

「調子はどうですか?」


 部屋に戻ると生首が浮いていた。


 一瞬ビビったが、よく見るとソフィアさんである。

 小さな転移門を上に開いて、頭だけをにゅっと出しているのだ。

 転移門の縁にかけられた両手から指先だけが覗いているのが可愛かった。

 三十路だが。


「ヒスパード帝国の使者も来ているようです。

 今までほとんど来たことが無いのを、昨日急に言い出して護衛を選抜したそうです。

 来たのがクルッパ伯だということを考え併せると、たぶん金青竜の死亡に気付いています。」


 僕は少し苦笑して、今までの報告をした。


「あらあら。敵もさる者ね。

 ライオットが死んだのは一昨日でしょう?

 影響としては北嶺を覆う雷雲が消えただけだわ。

 それだけでライオットの死を予測して確認に来たのだとしたら、かなり良い参謀がついているのかもしれないわね。」


「護衛団の団長、ライミー卿という男の進言らしいです。青竜の遠見で見ましたが、魔道士のようでしたよ。」


 ソフィアはほっぺたに人差し指をあてて、少し考え込む。

―ライミー卿の名は知っている。しかしそれほど切れる印象はなかった。

 どちらかと言えば、出世欲や私欲にまみれて、世事や研究にはお粗末な魔道士だったはずだ。

 しかも小心者で、とても大胆な進言ができる男ではなかった。


「ティアちゃん。気を付けてね。もしかしたら…」


 何か言いかけたソフィアさんをノックの音が遮る。

「クリスティア殿。夜分失礼いたします。ザフ=クルッパ伯爵がお会いしたいと―」


「…気を付けてね。」


 もう一度言ってソフィアさんは頭を引っ込めた。

 自分も忙しいだろうに、僕の事を気にかけてくれている。少し胸が温かくなった。ところで…


「さっきから気になってたんだけど、なんで転移門から湯気が…?」

「それは入浴中だからですよ~」

転移門の向こうから声だけが聞こえた。


◆◆◆

 時は少し(さかのぼ)る。

 ザフ=クルッパ伯爵のドアを軽く叩く音。

 主に代わってラギーノ=ライミーが入室を促した。入室したのはゼカルドである。


「守備はどうだ」

「宮殿を確認しましたが、ライオットはいませんね。外出か死亡かは分かりませんが。」

「金青竜が縄張りを離れることは滅多にない。まあ、よかろう。良くやった。あとは私が調べる。宮殿には魔法感知はかかっていないからな。」


 ん?ゼカルドが下がらない。


「まだ何か用事か?」

「は。レナード王国からも使者が来ております。」

「興味はない。始末しろ。」

「それが…、まだ少々幼さは残りますが、かなりの美形です。」

「…女か?」

「は。」


「なるほど。会ってみても良いかも知れんな…」

 ライミー卿は下卑た笑いを浮かべると、手を振った。

 今度こそゼカルドは退出した。


 主人であるザフ=クルッパがどこか濁った眼にそれを映していた。


◆◆◆

 夜。僕はザフ=クルッパに呼び出された。

 どうやらゼカルド達から話を聞いて興味を持ったらしい。ライミー卿も同席していて、三人での会談だ。護衛は同席していなかった。

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