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第13話 戦いのあと

 一瞬何が起こったのか分からずにぽかーんとするカラ。


 助かった、と思ったのはしばらくしてからだ。

 とりあえず黄竜に属性変化してマーリンに相談する。

 ケイオルカは映像の記録もできる。マーリンはそれを読んで僕が黄竜でない間の状況も知ることが出来るのだ。


「なるほど。あやつ、ブチ切れておったのが、一瞬気絶したせいで冷静になりおったのじゃろう。お前さん、ボロボロにダメージを受けておったのに黒のブレス一発で完治したろう?あやつ、それを警戒したのじゃ。やつもそれだけ残り魔力が少なかったということよ。」


 それはつまり、シャイアを倒す最高のチャンスを逃したということではないのか。


 無論、僕が負けていた可能性も高い。だが、シャイアは遥か格上のドラゴンなのだ。

 一か八かの勝負に持ち込めたこと自体が快挙なのである。


 奴は、地下迷宮からの脱出でかなりの魔力を消耗していたはずだ。

 さっき一瞬気絶させたのだって、まぐれみたいなものだ。

 同じことをもう一度やれと言われたら、絶対にできない。


 暗鬱とする僕に、マーリンは言った。


「まあ、鍛えて強くなれば良い。とりあえず、他の3体を確認するぞ。」


 そうだ。

 僕は迷宮最深部に戻った。途中から土砂に埋もれていたけれど、黒の魔力結界を高濃度で展開して土砂を喰いながら探索する。ゾーハン、ライオット、セイクリッドの死骸はすぐに見つかった。死亡確認も兼ねて、念のために食う。

 一気に魔力が増大するのを感じた。だが、


「どうした?」


「いや、普段使う魔力とは別に、魔力の貯蔵庫みたいのが奥にあるのを感じるんだけど…」


「ああ、それが一杯になったら次の変態ができるんじゃよ。」


「その貯蔵庫も5つに分かれてる感じなんだ。」


「なんじゃと!?」


 マーリンも気づいていなかったらしい。ある意味当然だ。スキル『マーリン』が発動するのは黄竜の時だけで、その時は黄金竜マーリンから食った魔力で貯蔵庫が大分満ちているのだから。

 そして今、黒白青黄の貯蔵庫には変態に必要な魔力が既に満ちていた。必要量が本来の単色の金属竜の1/5ずつしかないのだろう。それ以上貯めることもある程度は可能なようだが、黒は既に満杯近い。


「と、いう事は、お主、シャイアを喰えば宝石竜になれるのか!」


「シャイアを喰えば、ね。それが一番大変なんだけど。」


「ま、まあそうじゃな。とりあえず地上に戻って後の対策を練ろう。シャイアもしばらくは手出ししてこんはずじゃ。」


 僕は再び転移の魔法で地上に戻る。そこには先客がいた。


「あらあら。びっくりね。見ない顔だけど、冒険者の方かしら?」


◆◆◆

 驚いたのはこっちだ。ここ数日この迷宮に立ち入った冒険者はいなかった。

 それがなぜこのタイミングで?


「うふふ。それはずっとこの辺りの調査をしていたからですよ。」


「…心を読まないでください。」


「だぁって、分かりやすいんですもの。」


くすくす笑いながら、ふと思い出したように言う。


「あら、すみません。初対面なのに。わたくし冒険者のソフィア=クレメンテスと申します。お名前をお伺いしても?」


「ソフィア=クレメンテス!?『怪物(ギガンテス)』の!?」


「あら、ご存じですの?お恥ずかしい…」


 頬に両手をあてててれてれと笑う。可愛かった。たしか三十路過ぎのはずだが。

 だが、困る。名前は考えていなかったのだ。本名を名乗るべきか、それとも…

 

 悩んだが、彼女を信用することにした。


「僕の名前は、その、カラ=レイアと言います…」


「あら?カラさんは男性だと聞いていたのですが。」


 即答。やっぱり調査団のメンバーのプロフィールは知っているようだった。今ここの調査をしにくる冒険者なら当然だろう。つまり、


「本当は男です。事情があってこんな姿をしていますが。やっぱり冒険者ではないと分かってらしたのですね?」


「うふふ。そんなことはありませんよ。てっきりマーリンさんと仰るかと思っていましたので。」


「黄金竜マーリンですか?どちらにしろ冒険者ではないのでは…?」


『いや、儂、冒険者登録もしとるよ?』


 そうなの?でもそれって他の人は知ってるんだろうか?


「やだわ。カラくんの言うとおりね。でも、その姿の事情はお伺いしても…?」


 明らかにカマをかけてきていたが、それも優秀な冒険者の証拠だと思う事にした。

 僕は、信用できる冒険者の知り合いが欲しかった。いきなりS級は怖かったが、全ての事情を話すことにした。


 結構時間がかかったと思う。彼女はたき火をたいて、倒れた柱に二人で座って、毛布もわけわけして、ついでにホットミルクも作ってくれて。最後までじっと聞いてくれた。

 最後まで聞いたソフィアさんは僕の頭を撫でて一言「大変だったのね」と言ってくれた。完全に信用していたわけじゃないはずだった。でもその瞬間、なぜだか分からないけれど、ぼろぼろ涙が出て、頭の中がぐちゃぐちゃで何も言えなくなった。

 僕が泣き止むまで、彼女はずっと隣に座って頭を抱いてくれていた。


「カラくんはこれからどうしたい?」


 僕が落ち着くと、まっすぐ聞いてきた。


「とりあえず、シャイアを倒そうと思います。そのために、冒険者になって、パーティーを組むつもりです。」


「それは難しいと思うわ。シャイアの縄張りが東の平原なのは知ってるわね?そこはレナード王国と魔王領の国境なの。シャイアを倒せば戦争になりかねないのよ。きっと国がゆるさないわ。」


「でも、放っておいたらシャイアは僕を探しに来ます!王都を襲う可能性もありますよ!?」


「…下手をすれば、カラくんをシャイアに差し出すという話になるかもしれないわ。」


 その可能性は僕も考えていた。だからソフィアに正直に話すか一瞬迷ったのだ。だけど…


「ソフィアさんも、それがベストだと思いますか…?」


 彼女は一拍ためてから僕の目をじっと見て、言った。


「わたしの思うベストは、カラくんが強くなることかな。」


◆◆◆

 シャイアは自分の巣に帰るなり、そのまま倒れ込んだ。

 凄まじく消耗している。

 恐るべき敵だった。だがそれだけでは赤竜は決して逃走などしない。本来赤竜は、敗北が確定し、死が確実になっても暴れまわる暴力の化身なのだ。


 シャイアは金赤竜となって永い。次の変態に必要な魔力は溜まりつつあった。花嫁など作ろうとしなければ今頃は宝石(ジュエル)級…紅玉竜(ルビードラゴン)になっていたかもしれなかった。だが、紅玉竜になってしまえば、金赤竜とは交配できない。


 シャイアは未だ(つが)いを持ったことがなかった。

 そして、高位の赤竜は非常にレアなのだ。赤竜は全色中最も短命だと言われている。凶暴ゆえに討伐の対象となりやすいからだ。

 金赤竜ですらほとんどおらず、下手をすれば紅玉竜など一体もいないかもしれない。今回のチャンスを逃せば、シャイアはおそらく生涯妻を娶ることは無いと思われた。


 「花嫁」の目を思い出す。怯えながら健気に睨み返してきたその覇気。ゾクゾクと背筋が粟立つのを感じる。シャイアは自分が何をどうしたいのか分からず、とりあえずはた迷惑な咆哮を上げるのだった。

ここでとりあえず第一章終了です。

次回以降冒険者編になります。

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