第12話 金赤竜シャイア
最初に気づいたのはライオットだった。
間に合わない。
閃光がゾーハンの胸を貫く。
いや、次の瞬間太くなった閃光は、ゾーハンの半身を吹き飛ばしていた。
「お、お前!!まさか!!」
次の瞬間、少女の髪が金色になり、その足元に複雑な魔方陣が描かれる。
間違いない。こいつは花嫁だ!
しかも複数の魔力を扱えるだと!?
そんな現象は聞いたこともなかった。
「みんなのカタキだ。そのまま死ね。」
それだけ言い残すと、カラは転移の魔法を発動させた。
◆◆◆
転移先は地上だった。地下迷宮の真上は中央に大きく崩れ、ビリビリと地響きをたてているが、先ほどの戦いが嘘のような静けさだ。
戦い、なのだろうか。
ドラゴンたちは、明らかに浮き足立っていた。
迷宮の攻略にイラつき、不意を突かれ、それでも突破したと思った瞬間の奇襲。
あれ以上ないタイミングで僕を最も有効に使った。
マーリンの筋書き通りである。ギリギリの勝利だったと思う。
だが勝った。ドラゴンとの戦いが終わって、ようやく僕はスタートに立てるのだ。
そのとき、地下迷宮があった場所を閃光がぶち抜いた。
!?
あれは、超高温の魔力!
その中心に人影がある。
あのタイミングがギリギリだった。黒鉄竜が全力を振り絞った直後のタイミング。
だが、その時は、黒鉄竜の魔力が一度地下迷宮を貫通した直後だった。
天井の質量は大幅に激減していたのだ。
むろん周囲からは崩れてくる。すぐに埋まってしまう。はずだった。
奴はそこをぶち抜いてきた。
金赤竜シャイア。
「お!お!おおおおおおおっ!!!!!」
魔力はさらに膨れ上がる。地上に解き放たれた奴は、一瞬で竜の姿になっていた。
その姿を確認した瞬間、カラは戦闘態勢に入っていた。
シャイアの上空に転移した瞬間、黒化して、全身を鱗で覆う。
手にはケイオルカの変化した長刀。ドラゴンの体の一部と言えるほど、竜の魔力に馴染む武器だ。
このまま自由落下に任せて攻撃する、つもりだった。
信じられない程の魔力の奔流に、全身が悲鳴を上げる。
吸収の魔力を持つはずの鱗が、耐え切れずに焼き切れていく。
それでもカラは一撃を入れた。
美しい金属光沢を放つ赤い鱗が宙を舞う。…それだけだった。
「ゴオオォオオ!!!!」
シャイアの理性を失った目がカラを捉えていた。次の瞬間放たれるブレス。
カラも咄嗟に竜の姿になって黒のブレスで相殺しようとする。
黒のブレスがシャイアのブレスを吸収する。使った分の魔力は回収した。
だが、根本的に威力が違う。
吸収しきれなかったブレスは衝撃波と熱になってカラを吹き飛ばす。
そもそも黒系の竜は、体のサイズが小さいのだ。
ひとたまりもなく弾き飛ばされ、地面にたたきつけられる。
そして、黒鉄竜の鱗は、衝撃に弱かった。
咄嗟にケイオルカを下敷きにして衝撃を吸収したはずだったが、叩きつけられた鱗は既にヒビだらけで、本来の防御力を失っている。
シャイアはカラに近づくと、容赦なくブレスを放つ。
完全に殺すつもりの攻撃だった。
カラは咄嗟に避けると、わざと爆風を受けて上空に弾き飛ばされる。
砕けた鱗がはがれて飛び散る。
次の瞬間、シャイアの視界が黒く染まった。
黒の属性結界。呪詛の力だ。
シャイアの体表がジリジリと食われ、カラの体力がわずかに回復する。
「おおおおお!」
シャイアはそれでもひるまない。盲撃ちにブレスを乱射する。
当たればもう一撃も持たない。カラは必死に避けながら、結界を維持する。
次の瞬間、ブレスが地面に命中して大爆発を起こし、大量の土砂を巻き上げる。
一瞬、カラの視界も奪われた。まずい。もしこちらに撃たれたら、反応できない。
僅かに薄くなった爆塵の向こうに赤光を放つ目が見えた。
死ぬ!
次の瞬間ブレスが放たれた。
カラは咄嗟に黄金竜になり、空間収納を開く。取り出すのは、アダマンタイトの盾。
角度をつけたマーリンの鍛えた巨大な盾は、シャイアのブレスを上空に弾いた。
次の瞬間、カラは黒鉄竜に戻り、ブレスを放つ。シャイアの顎へ。
「ぐ、ぐううあ、ごあああああああ!!!!!」
一瞬口が閉じたシャイアのブレスが、口内で大爆発を起こし、シャイアの頭蓋を激しく揺らす。
カラはありったけの魔力を込めてブレスを放ち続けた。
黒のブレスはシャイアの魔力を喰い、頭を弾き飛ばす。
カラは一旦シャイアの頭上を位置取り、再びブレスを放つ。
地面にたたきつけられるシャイア。それでもブレスは止まらない。
魔力を喰い、回復させて、相手が消滅するまで永遠に打ち続けられる。
それが黒鉄竜のブレスだ。そして、シャイアの体力を奪った分だけ、カラが回復する。
全身血まみれでボロボロだった体は完全に完治していた。
だが、シャイアの目に光が戻る。脳震盪から立ち直ったらしい。
カラは咄嗟に黒の結界を再び張る。が、シャイアはそこに赤の結界をかぶせた。
しかも圧倒的な魔力濃度で。
シャイアを中心に爆発が起こる。
再び吹き飛ばされてダメージを受けるカラ。
その前にシャイアが悠然と舞い降りた。
今度は鱗は無事だ。吸収しきれなかった魔力が皮膚を焼き、衝撃が内臓にまで届いているが、まだ戦える。
シャイアとカラが視線を合わせたのは数瞬のことだった。
次の瞬間、シャイアは凄まじいスピードで飛び去って行った。
「え?」
カラは何が起こったのか理解できなかった。