第11話 ドラゴン達の地下迷宮攻略④
迷宮49階層。アンデッドの猛攻は激しくなっている。
もう休憩は1階層ごとに挟んでいた。
敵には時々リッチやレッサーバンパイア、レッサーデーモン、ドラゴンゾンビなども混じっていた。
忘れたころに嫌らしい罠も混じってくる。
敵を全滅させたと思ったら、転移の魔方陣が発動しかけた時は本当に焦った。
ゾーハンがダメージ覚悟で白の魔法結界に飛び込んで術式破壊しなければ、分断されて各個撃破されていたと思う。
その回復のためにゾーハンがまたシャイアの体力を喰ったのだが、シャイアが本当に忌々しそうに舌打ちをしたのは危険な兆候だ。
だがこれでラスト。全50階層という情報自体が嘘な可能性もあったが、もし嘘ならその場で殺し合いが始まってもおかしくないくらい殺伐としてきていた。
この階層もおそらくあと一つ召喚装置を破壊すれば休憩できるだろう。
最後の部屋。どうやらワイトだけらしい。
「油断するな」
ゾーハンが念のために黒の魔力結界を展開する。罠は召喚装置だけのようだった。すぐに術式破壊される。
「ではいきます。神聖突撃槍!」
ワイトがなすすべもなく全滅する。
一息ついた瞬間、
「待て。壁が動いておる。新手のモンスターじゃ!」
また魔力を使わない罠のようだ。だが出てきたのは巨大な蜘蛛のモンスターだった。ソードスパイダーの亜種だろうか。しかも大量だ。
「蜘蛛ごとき妾が焼き尽くして…」
「雑魚があっ!!!やぁあっっと俺様の出番だぜ!!!!」
シャイアの両手が赤熱する。それこんなとこで使う攻撃じゃないだろ。
轟音。視界を覆う爆炎。床に入る亀裂を見てライオットの顔が引きつる。
見事にダンジョンの床は抜けて、僕らは休憩抜きで50階層に落ちていった。
◆◆◆
ウォータースライダーのような機構で押し出された先。
そこはかなり広い部屋だった。だが竜形態をとるには天井が低い。
元々50階層の天井は高かったのを、ゾーハン達は知らない。
4人を押し流した水は排水溝から既に流れ出ており、飾り気のない部屋の中央に一人の女性が立っていた。
「ようこそ我が迷宮の最下層へ。一人も欠けておらんとは、流石じゃな」
「「「「マーリン!!!!」」」」
瞬間的にシャイアが切りかかるが、あれは幻影の魔法だ。黒の魔力結界を展開するが、マーリンの気配は感じない。
「短気なやつよ。土産にちょっとしたおもちゃをくれてやるわ!」
壁を突き破って金属製のゴーレムがあらわれる。数は15体。
「コイツはアダマンタイト製じゃ。魔法耐性、物理耐性ともに高い。いくらドラゴンでも、人型のままでは簡単には勝てんぞ。」
「か!かはっ!!かかかかか!」
シャイアが歓喜に満ちた笑い声をあげる。
「ゴーレムごときを従えて!この俺様に!!勝てるつもりかマーリン!!!」
野獣のような咆哮をあげてシャイアが片刃のバスタードソードを両手持ちでフルスイングする。
ドッガアアンッ!!!!!
ゴーレムが吹き飛ばされる。剣が当たった場所が見事に大きくへこんでいた。
あれ剣の戦い方か?
疑問に思わないではないが、膂力ではシャイアが最強だ。
俺にもあんなことはできない。
刃物は通じない、間接も鎧で覆われている。
かといって魔力も通らない。
さっきまで空気だったシャイア以外は奴らに手の出しようがないのだ。
とは言え、ゴーレムの動きは鈍重だ。
セイクリッドはちょっと危なっかしいが、それでも大した危険は…
「ゾーハン!また壁が動いておる!閉じ込められるぞ!!」
「閉じ込める?いいや。埋まってもらうんじゃよ。」
轟音。そして振動。
まさか!?
「ドラゴン四体。地下迷宮と引き換えに屠れるなら安い買い物じゃ。」
「マアアリン!!!!貴様ああぁっ!!!!」
シャイアが咆哮する。
天井に亀裂が走る。次の瞬間、一気に落ちてくる。だが!
「マーリン。俺を、黒鉄竜ゾーハンを、な、め、る、な!!」
頭上にありったけの黒の魔力を放つ。
この程度の質量、地下迷宮ごとき、地上まで、食らいつくしてやる!!!
黒い閃光が真上に走る。黒の魔力は吸収だ。周囲の魔力を取り込んで、無尽蔵に喰い続ける。
理論上可能なはずだった。
ふと、視界の隅で一本の柱が消えるのを見つけた。魔法の機構は無かったはずだ。
そこに自分と非常によく似た少女がいた。
限界まで魔力を振り絞っている最中だ。頭が働かない。
その柱だったものは、うねうねと剣の形になって少女の手に握られていた。
誰も気づいていない。明らかに黒の魔力が気配を喰っているのだ。
黒の魔力を武器に纏わせることはできる。だが、気配すら絶つほど一体化させることは不可能なはずだ。普通なら。
いやそれより、黒の魔力をまとう少女だと!?
その少女の髪が白くなった。
「…ホーリーランス…」