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第9話 ドラゴン達の地下迷宮攻略②

 ダンジョンの階段を慎重に下りる。

 先頭はゾーハンだ。


「ゾーハン。この地下迷宮(ダンジョン)は1階層から魔法の(トラップ)があります。気を付けて。」


「心配無用。案内も結構だ。どうせマーリンなら模様替え(・・・・)しているだろう。」


 ゾーハンが一番下まで降りた時、壁面に淡い光がともり、侵入者を薄ぼんやりと照らし出した。


「親切なことだが、俺たちには余計なお世話だ。」


 ゾーハンの身長が一回り小さくなった。女性型に変じたのだ。

 女性型は男性型より体力で劣るが、魔力が高いのが特徴である。

 ライオットの背にぞわぞわと悪寒が走る。黒の属性結界の発動を感じた。


 ゾーハンは、ライオットでなければ気付かないくらい微量の魔力を精緻に操り、壁面に沿わせた。

 黒竜の吸収の魔力が、壁の魔力を食らい、たちまち迷宮の機構を破壊していく。


 入り口から500mほどまでの灯りが再び消えた。

 いかなトラップでも、魔力を喰われては発動しない。


「これが最強竜か…。そなた本当に容赦ないな。」

「容赦が必要か?」


 ライオットは軽く黄金竜に同情した。


◆◆◆

 四人はスタスタと進んでいく。灯りは無くなったが、竜の目には支障ない。

 1kmほど進むと最初の曲がり角だ。

 曲がった瞬間、横の壁が消えた。


「!?」


 魔力で壁を維持していたのだ。

 その魔力が食われたことで発動する罠。


 その奥には魔法の機構を使わない(クロスボウ)が仕掛けられていた。


 超至近距離から高速の短矢(ボルト)が無数に放たれる。

 無効化させたと思わせておいての0距離射撃。


 だが、黒鉄竜の反応速度はそれすら上回る。

 咄嗟に左腕に鱗を纏うと、凄まじいスピードで全ての短矢を弾き、躱し、流す。


 シャイアの目が驚愕に見開かれる。

 彼にすら捉えきれない程のスピードだったらしい。

 ライオットからすれば既に異次元のレベルだ。


 だが、初めてゾーハンの顔が苦痛に歪んだ。


 左腕の鱗が雲母のようにペリペリとはがれる。

 紫の血管が浮かび上がるや、どす黒い血がにじんで

 見る間に腕が倍ほどに腫れあがっていった。


 まるで猛毒だったが、黒鉄竜に毒は効かない。

 これは聖水だった。


 ほとんどの侵入者にはまるで無害。

 だが、黒竜や死霊系モンスターにとっては劇薬だ。

 明らかに自分たち用の罠だった。

 セイクリッドに視線をやると、「知らない」と言いたげに首を振る。


「…なるほど。これが、黄金竜の地下迷宮か…。」


 ゾーハンがこれほど感情を声に乗せるのを、ライオットは初めて聞いた。


◆◆◆

「シャイア、食わせろ。」


「…は?」


 シャイアの目が剣呑に光る。


「俺はセイクリッドの回復魔法が効かん。お前は効く。」

「あー…」


 シャイアが頭をぼりぼりと()いて、右腕を差し出した。

 ゾーハンが握るとシャイアの腕がやけどのように(ただ)れていく。

 が、すぐに離す。ゾーハンの左腕は完治していた。

 相手にダメージを与えて、自分が回復するのも、吸収の効果だ。


「シャイア。すぐに治します。」

「ああ。頼むわ。」


 シャイアがセイクリッドの治癒を受ける間、既にゾーハンは進み始めていた。

 黒の魔力は先刻よりさらに微量で、大気中に拡散していた。

 魔力に触れても術式を破壊せず、反応だけする程度に抑えたのだ。

 魔力を喰うためではなく、魔力を感知するための備えだった。


 尤も黒の属性結界であることに変わりはない。

 長時間その中にいれば、自分たちの魔力も食われる。

 回復量の方が多いくらいの微量だが、不快なのは仕方ない。


 それでも魔力結界の濃度と形状をここまで自在に操る技術には、ライオットも舌を巻いた。


 刃物のように研ぎ澄まされた気に、油断も慢心もなく、吸収による術式破壊と物理的な手段で次々と罠を無効化していく。

 冒険者でもあるゾーハンは罠の知識も豊富だった。

 本気になったゾーハンに勝てる存在がいるとは思えなかった。


 魔力を吸収する黒竜は最強のドラゴンである。

 吸収速度を上回る魔力をぶつければダメージを与えられないこともないが、いかにライオットといえど分が悪い。

 それが迷宮を攻略した後は敵同士になるのだ。


 その相手と一緒にいるのは、頼もしい以上に不安だった。

 青竜は知覚範囲が広い分、パーソナルスペースも広い。

 誰かに傍に近づかれること自体が不快なのだ。


 そもそもゾーハンが約束を守る保証は無い。

 迷宮攻略直後、あるいは攻略中に牙をむく可能性もあるのだ。

 事実マーリンは裏切ったではないか。

 脳筋のシャイアは何も考えていないだろうが、セイクリッドも分からない。

 「聖竜」などと呼ばれているくせに、あやつは存外油断ならないのだ。


 セイクリッドの破邪の魔力はゾーハンに対して非常に有効だ。

 黒の魔力で吸収できないだけでなく、致命的な大ダメージを与えられる。

 さらに、黒の魔力はセイクリッドに一切ダメージを与えることができない。

 唯一通用するのは物理攻撃のみだ。


 最弱の竜セイクリッドは唯一、最強の竜ゾーハンに対してだけ優位に立てるのである。

 そして黒竜に次ぐ実力を持つ赤竜シャイア。

 この三者は、黒>赤>白>黒という三(すく)みにある。


 青竜であるライオットも、ゾーハンには勝てず、セイクリッドには勝てるだろう。

 シャイアとライオットがいれば、セイクリッドは下手な真似ができない。

 迷宮攻略に4名全員が集められたことは、ゾーハンからの牽制にも思われた。


 ゾーハンはこの迷宮攻略中に、セイクリッドを殺すつもりではないのか?

 そうなれば残るのは妾とシャイアだけだ。

 妾は地下迷宮の中では存分に戦えない。


 だが、いかにゾーハンといえど、金赤竜と金青竜の二人を相手にして勝てるものだろうか?

 まともに戦えば厳しいと思う。やはり叛意はないのか?


「ライオット?」

「…なんでもない。少し滅入っておるだけじゃ。」


 ライオットは、心配そうなセイクリッドに目も合わせず、頭を振る。


 不安は尽きないが、思考の迷路に陥るのは望ましくない。

 迷宮のストレスと大気に満ちる黒の魔力が不快にさせているだけだ。

 今やるべきことは、この迷宮の攻略だ。

 花嫁を取り戻すまでは、それが最優先だった。


 ライオットにはこの階層のマップが見えている。

 下階へ降りる階段への最短ルートを案内するのが彼女の役割(・・・・・)である。

 そろそろ通路が分岐しているが、左へ進めば行き止まりだ。

 ライオットは不安をおくびにも出さず、それを皆に伝えた。


◆◆◆

 花嫁は、迷宮の最下層にいた。


 ダンジョンの立体図が空中に描き出され、ドラゴン達の現在地を示している。

 どうやら監視用の術式は破壊されていないようだ。


 術式を破壊されることで発動する罠をいくつか仕掛けておいたが、発動したのは最初の一つだけだ。

 念のため二階に降りる階段を、魔力で発動する昇降機(エレベーター)に代えておいた。


「あー、やっぱ四人で来たのう。最悪じゃ。」


 マーリンが呑気にぼやく。おいおい。


「お前、勝算があって裏切ったんじゃないのか?」


「あるぞ?一つ、儂が裏切ったのじゃ。

 アイツら、また誰かが裏切るかも知れんと思っとる。」


「二つ。お前さんが5色の魔力を操れるとは、奴らも思っとらん。

 儂と一緒におる以上、黄金竜で固定されとると思っとる。

 意表を突ければゾーハンは楽勝じゃ。奴はそれくらい白金竜に弱い。」


 マジで!?


「尤も、シャイアが厄介なんじゃ。アイツは迷宮の罠で倒したいのじゃがのう…」


 見た目だけ美女のババアはやっぱり呑気に呟くのだった。

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