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卒業  作者: 希恵和
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2高校時代つらかったことは知り合いがいないことです。

 

 

 冬の風がさあっとなびく。

「先輩……」

 何言ってんだか、分かりません。


 あ、中二病かな。

 かっこつけようとして駄目なやつ。私なんか四文字熟語が作れなくて乗っかれなかったブーム。なんかルビ振るやつだ。スターダークとか。うん。やっぱりよくわかんない。あの先輩は何が言いたいのだろう。


 先輩の去る姿を見送りながら、何故か吹きだすくらい大笑いをした。

 こんな面白い日常に二度と会えないかもしれないと思うと少し寂しいかな。今のうちに楽しんでおこう。


 青春が終わる気がした。

 でも、まだ何も終われない。

 せめてボーリング大会をするまでは。



 廊下をしばらく歩いていると、あるものに会いました。親友でもなく部活の後輩でも顧問でもなく、そう、会ったのは人間ではありませんでしたとさ。


――猫だったのです。


「かわいいー」

 思わず声をあげてしまいました。にゃにゃーっと鳴く子猫がああかわいい! 持って帰りたいくらいには!

「にゃー」

もしかしたら仲間だと思ってくれるのではないかと一抹の期待を持ち、猫の物まねをしてみる私。


「――にゃー」


 そこに猫でも私でもない鳴き声が聞こえました。


「かわいいですね。先輩」

 背後から不審な声がしました。いや、分かってます。

あの憎たらしいあいつしかいませんよ。


「――聞いてた?」

 それはなんと後輩1でした……って驚かないからね。後輩1くらいだよ。こんな時に遊ぶやつは……。って私もだけど。

「ええ、先輩が高3にもなってかわいらしいことをしているのを、横目でばっかみたいって、ほくそ笑んでました」

「思っていた以上にひどかった!」

 先輩に対して敬意が無いにも程がある!


「で、先輩はどうしてここに? クラス会は」

 聞かれたくないことを聞かれた。

「なくなったのよ。一身上の都合により」

 クラス幹事の脱走により。

「そうですか。先輩は最後まで散々ですねえ」


 最後までって……まるで私の高校生活全てを見透かしたように言うな。

 全く、この後輩は私をおちょくるのがスキらしい。別に私にはたいした自尊心もないからいいけど。



「――先輩。答辞の言葉、覚えてます?」

「ああ、あの魔法使いや奇跡がどうって話? あれ、予行では別のこと言ってたらしいよ。本番になって変えたとかどうとか」

 どうやら答辞は綿密な事前練習の上で行われていたらしい。そのときは会長は当たり障りの無い言葉を述べていたらしいが。

 なぜ本番で変えたのか。理由は定かではない。

「それで、言ってましたよね。『生きていることは価値で死ぬことは責任転嫁』ってそれだと病死した子や事故で死んだ子が悪いのかってことになりません? 彼らは命をむさぼったわけでなく、自らの使命を全うしようとした可能性のほうが大きいのに」

 まあ、確かに。そう思うと変かも。後輩1が至極真面目なこと言ってるよ。天変地異起きそう。

「会長は馬鹿です。あれじゃたった一人のことしか指してないじゃないですか」

 え、その一人って誰さ?


 ――というか、それはどういう意味なんだ。


 もしかして会長の周りで誰かが死んだ?

 そして後輩はそれを知っている。後輩1は生徒会と関わりがあったのだろうか。

 後輩はそんな私の気持ちも露知らずに続ける。


「私、高校生になって怖かったんですよ。同じ中学からここに進学したのは私一人。ひとりぼっちで。だから先輩にあえたのはラッキーでした。今の私がいるのは先輩のおかげです」

「私のおかげなんかじゃないよ。現にあんた今は友達いっぱいいるし。ゆずきちゃんも友達でしょ」

 ゆずきは後輩2のこと。私には先輩が一人。後輩が二人いる。

 皆優しくてかっこいい素敵な人たち。ってベタ褒めしすぎか。


 それくらい大事な人達だ。離れ難い。そんな人達。


「いいえ、先輩のおかげなんです。皆生きているけれど、先輩だけは違うんです。先輩の生は先輩からしてみればただの物語だけど、私達からすれば救いだったんです」

「はい? いやいや何それ」

 あれ、感動的なネタフリだったのに。ちょっと……この人何いってんの。もしかしてお前も中二病?


「分からないですよね。でもいいんです。ありがとうだけ言わせてください。私……尾野仄香(おのほのか)にとって、先輩は最高の先輩でした。本当にありがとうございました」



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