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卒業  作者: 希恵和
21/28

20学校の個人情報保護は意外と厳しい。

 

「中野さん。どうしたの」

 先輩と会ったその日に私は菊池さんの家を訪ねた。


 上がっていいよ。といわれ、すぐ菊池さんの部屋らしき場所に通された。


 しかしそこには尾野くんがいた。

 リアル尾野くんか。

 あの後付き合い始めたのか……早くない?


「紅茶かコーヒーどっちがいい?」

「あ、お構いなく。名簿みせてもらったらすぐ帰りますから」

 目的果たしたら早く帰ろう。

 長時間リア充と同じ空間はいろいろきついから……。



 名簿とは何か。『クラス名簿』である。


 昨今の個人情報保護が厳しいのはご存知だろうか。

 もちろん学校もそう。クラスの電話番号どころか名前さえも表にして配るとかないない。

 回覧板制度の廃止されたため学校業界である。


 そのために最近では『田中の下の名前がわかんね』と思っても、保護により名簿は一切公表されないので、本人と親しくないと分からない。


 そんな世知辛い世の中になりました。


 

 そんなクラス名簿だが、クラス会や同窓会をするとだけ言えば一時的に貸し出しさせてもらえる。

 そしてこの前のクラス会の幹事は菊池さんだ。彼女なら持っている。


「名簿。どこいったか分からないの。ちょっと探してくるからまってて」

 そういう菊池さん。


 あ、いい忘れていた。

 もうひとつの用事を。


 私は菊池さんに告げる。


「――菊池さん。『魔法使い』は『魔法使い』を特定した人の記憶だけ消してるから。心配しなくていいよ。あなたの記憶は何があっても消えないよ」

 

 そういうと菊池さんは知ってるとだけ言った。


 ――知ってる? 

 誰が教えたんだろう。


「俺だよ。俺」

 尾野くんがそういった。

「中野も分かったんだ」


 いきなり呼び捨てか。てめえ。というか、君はなんでそう上から目線に物を言うんだ。

 まあ、しゃーないから乗っかる。


「っていうことは尾野も」

 あああ、『くん』を消してしまった。生意気に聞こえるじゃないか。

 彼女さんに聞かれてないといいけど。


「俺は妹がな。後、親父からきいたこともあった」


 親父も知ってるんだ。案外皆結構知ってるんじゃんか。

 ああ、でも妹?


「妹って名前何さ」

「お前の後輩だよ」

 ああ、なんか察した。

 

「ああ、了解」


 結論、意外に私のまわりって関係者多かったわ。それじゃ分かるのすぐじゃん。

 どおりで記憶消去されている部分が多いと思った。


 すると、尾野くんは小さくため息をついた。

 すこし呆れてる? 

 私に対してか? 



「――俺は紀式の答辞を聞いたとき、お前が『魔法使い』、紀式が『最初の人間』だと思ってた」

 

 私、死んでないんですけど。

 というかなんで私ばっかり殺すんですか。またつっこみたくなった。


 つまりあれか。

 尾野君は紀式会長と同じ勘違いをしていた。


「卒業式の後な。クラス会の時間に紀式から相談受けてた。お前についてな。ついでに魔法使いの消し方を知ってるかって聞かれたがそれは黙っておいた」

 

 ああ、それでクラス会に来なかったんだ。納得。

 後、会長が一時行方不明だった理由も発覚した。


「『魔法使いの消し方』って……あの紀式会長じゃ出来ないもんね」

「あいつには一番似合わないからな」

 尾野君はそういってわらった。

 私的に馬鹿三人衆の中で一番顔が整っているのは尾野君だと思う。


「ああ、でもなんで会長は尾野くんに」

「俺、元々クラス幹事だったろ? つまりは同窓会の役員だから。生徒会の傘下に入ってるんだよ」

 つまり、生徒会関係の人だったのか……ああ、納得。



 そこで尾野君は話を変える。


「でも、お前は記憶を消された方の人間だったわけだ。じゃあ『最初の人間』がお前か?」

「それも違うんだ。でも、大体分かった。私は『魔法使い』にも『最初の人間』にももっと前に会ってた」


 その時だ、菊池さんが名簿を見せてくれた。

 名簿はただの一枚ペラの紙だった。あんだけ厳重な管理をしているからもっとすごいものだと思ってた。

 

 本文を読んだ。

 そこには人の名前が40人分載ってある。

 担任も入れると41人分。


「ああ、うん」 

 私が言う。

「貸し出しは出来ないんだけど」

「うん、見るだけ」


 というか、もう見終わった。

 確認するのは一部分だから。


「これでいいの? 雪柳さんも載ってるんだけど」

 

 うん、だから40人分の名前が並んでるんでしょ。

 分かってるよ。


「うん分かったから。ありがとう」

 分かったって。

 そこでもう嫌気が差していた。もちろん菊池さんは悪くない。

 でも、私は少しいらついていた。


 

 ――もううんざりするくらい分かったって。

 



 ――時は少し前に戻る。


 先日、私と会長と安藤。その三人が対峙したあの公園まで。


「――安藤、あんたに質問がある」

「何だよ」

「あんたもしかして『転校生』なの?」

「ん? そうだけど」

 

 んな、あっさり。

 そっかこいつにとっては当たり前だったんだよね……。


 

 案の定、会長は安藤の方をみてとんでも無い顔をしているけれど。

 間違って小鳥でも飲み込んだ時のような顔をしている……可愛いお顔が台無しです。


「はっ? 安藤は一年のころからいたし……大体六月の選挙には立候補していたよな?」

 

 ええ、会長。そうですとも。

 こいつは一年のころから会長の対抗馬として活躍していました。毎回負けてたけど。


「ええ、こいつは四月からいました。ただこいつは合格発表後に転入手続きをした転入生なんです。

 だから、入試直後の学校説明会とオリエンテーションには行ってないんです。ね、安藤。あんたが入学式の時、体育館の場所が分からなくてうろうろしてたの私は覚えてるし」


 普通はおかしいよね。

 入学前の説明会、体操服のサイズ合わせ、身体測定、入学前授業オリエンテーリングとか。

 全部体育館でやったのだ。

 それで分からなければよほどの方向音痴だ。


 安藤は目をぱちくりさせる。

「え、そんなに変か? 転入なんて誰でも出来るだろ」

 こういうやつだ。

 特に考えていなかったみたいだ。


「それが何になるっていうんだ」

 安藤がそう言った。


 そうだ。普通ならそうなるんだ。

 ただ今回は話が違った。



 私は会長に向かってこう尋ねた。

「あなたは三年一組が何人いるかご存知ですか」

 

「からかってるのか」

「答えてください」

 私は真剣だ。


「そんなの、りんごがいなくなって39人になったんだ」


 それは公式の設定だ。

 書面上の設定だ。


「それは違います。40人なんです」


「はあ」あきれ返る会長。


「嘘じゃないです。今、うちのクラス人口は40人なんです。りんごさんが一人抜けて40人。元々一人多かったんです」

 

 つまりうちのクラスだけ元の人数は41人。

 

 うちの高校のクラス定員は本来40人だ。クラスは9クラスと数が決まっている。

 うちの高校はあくまで公立高校だ。定員オーバーの合格者は出さない。


 転入者以外は。

 

「この安藤が入ったために私達の学年は定員360人を超えて361人だったんです。その後、中途退学や転校が無かったとしても。元々一人多いんです]

 

 最初の前提が間違ってた。

 全部最初からだった。


 そして、私が異変に気が付いたのは卒業式の後だった。

 そうだ、あの時からだ。


「でも、最初の四月から、クラス発表のあったあの入学式の時。1クラス40名だったことを覚えてます。そして、41人のクラスはなかった。そうですよね会長」

 皆で言ってたんだ。

 

 定員のある公立高校はやっぱりどのクラスも人数一緒だねって。皆が分かっていた。


 1人多いクラスは聞いたことが無い。

 けれども、安藤が入った分、多いはずの1人。

 

 そいつはどこに行ったっていうんだ?

「私たちは入学式の時にはもう360人でした」

 40✕9は360人。

 1人は4月以前にもう居なかった。


「入学式以前に、合格通知を受け取りながらも入らなかった人間がいるんです。安藤のようにどこかに転校したわけじゃなくて、死んじゃった子。それも悔いの残る死に方をした子なんです」

 

 ――たぶん、事故死だ。


『――サトルくんごめんね』

 あの時、背の高い女の人が言っていたことはそういうことだったんだ。


「たぶん、そういうことなんです。うちの高校には最初から死人がいたんです。公式にはいないはずの、一部の人にしか見えない生徒がいたんです」

 そして私が人間であることを説明する。


「私は誰にだって知られてる。安藤にも会長にも誰にだって見えててわかるもの。『魔法使い』は何人かにしか見えない。認識されないんです」


 それだけいうと会長は聞いてきた。

「じゃあ魔法使いは誰だ」


 その人は、

「その人の名前は」


口に出した瞬間、私は何故か涙を流した。


 私は、あの人を何者だと思っていたのかと思うと、胸が痛かった。


 


 ――時間は名簿を見てから、菊池さんの家から出てすぐのところまで早送る。

 

 私はある人に対してメールを送った。

 

『アンタに伝えなきゃいけないことがある』


 それだけの本文。メールで場所も添付しておいた。


 何が合っているかは分からないよ。

 でも、菊池さんに見せてもらった名簿の中身が真実だ。知らなくてよかった情報。思い出の崩壊。それを意味していた。

 


『三年一組 担任 松永仁

  青木、芦屋、井上、上田。江崎、尾野、柿生、

  菊池、久米、小柴、小島、坂口、坂田、島田、

  島崎、瀬川、曽野、田中、津島、津田、手島、

  豊原、中野、中島、林、原田、樋口、広末、福田、

  福部、星野、松田、松本、美濃、村上、村山、米良、

  森田、雪柳。吉田、総勢四十名』



 ――――あいつの名前だけが無かった。

 



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