手袋
十二月二十四日、クリスマスイブの夜。恋人たちが幸せな時間を過ごす日。
街は色とりどりの装飾に彩られ、そこら中に光の粒が不規則に並ぶ。
そんなクリスマスの雰囲気にあてられた男女が二人。
「今日も寒いねー」
「そうだなー」
ベージュのコートを着た少年と白いコートを着た少女。
少年はコートのポケットに手をつっこみながら、気だるげに返事をする。
「街も綺麗になってるよ。あ! ほらみて! サンタさんがケーキ売ってるよ」
「そうだなー」
「もう、さっきから『そうだなー』しか言ってない!」
「そうだなー」
「むー……」
少女は不満げに声をもらす。
「こっち向きなさい!」
「ぐぇ」
少女が青年の顔を掴み、無理やりに向かせる。
少年の首が変に曲がったが少女は気付かず、あるいは気付いていないフリをして言い募る。
「もう! せっかくのイブなんだよ!? もっと楽しもうよ!」
「ちゃんと楽しんでるって」
少年はそう答えた。少女はその答えにまだまだ不満がありそうだったが、諦めたように溜め息をついた。
「あ! そうそう、渡したいものがあるんだよ」
ゴソゴソと、肩から下げたかばんから何かを取り出す少女。
「じゃーん、クリスマスプレゼント! はいどうぞ!」
少年は包みを受け取り、封を開ける。
中にはひどく不格好な手袋が入っていた。
「えへへ、ごめんね。私不器用だからあんまりうまく出来なくて……。あ! でもその代わり想いはいっぱい込めてあるから大丈夫!」
何が大丈夫なのかはわからないが、とにかく頑張って編んだようだ。
少年は手袋を包みに戻し、自分のかばんにしまう。
「あれ? つけないの? もしかして気に入らなかった……?」
不安そうな声で少女が聞く。
「それがいい」
「え?」
少年は少女の手を指さし、そう答える。
意味がわからないようで、少女は戸惑った反応をみせる。
少年は少女の手を掴み、それごとポケットの中に手を入れた。
「こっちの方があったかい」
一瞬驚いた後、すぐに顔をほころばせて嬉しそうにする少女。
今日はクリスマスイブ。恋人たちが幸せな時間を過ごす日。。