前付:ある小悪党の――
俺はある盗賊団の一員。
どこぞの傭兵団みたいに名前は知られてないが、分は弁えてたもんだから憲兵の御厄介にもならず、盗んだ宝や攫った女で酒池肉林の贅沢三昧。長い事楽しくやってきた。
俺も含めて、逃げ足と命乞いの話術だけは超一流。プライド? んなもんドンブリに乗っけて食えもしねえだろうがよ。
だがまあ、そんな俺達にも年貢の納め時ってやつがきたのかねえ。たしか半年前位だったか、突然変な奴がアジトに乗り込んできて一団ごとメタクソにやられちまった。ぜってえ敵わねえって思ったから、泣いて謝ったさモチノロンで。盗んだお宝は全てお返しします、もう二度と悪さはしませんって慣れない敬語まで使って。
ったく、ウソに決まってんだろバァァァカ。ああいうお節介な連中は、一度改心させたと満足したら二回目は無いんだわ。「次は容赦しない」とか形だけ言っておきながらな。正義の味方ってのは所詮、自己満足の塊だ。
で、そいつのどこが変だったかって話なんだけどな。スライムがくっついてたんだよ。……いや、笑い取ろうとして滑ったとかじゃなくてマジな話。
ぷよぷよのゼリーっぽい体に丸い核が透けて見える、弱い、トロい、脆いの三拍子揃ったキングオブザコモンスター。素人のガキでも殴り勝てるような奴。
何がしたかったのかサッパリ分からんが、とにかくずっとそいつ……アジトをブッ潰した奴の背中に張り付いてた。ペットにでもしてたのか、と後になって思ったもんだ。
紛れも無く、俺の目の前に居るのはあの時のスライムだった。
何で分かるかって、そいつが自分でそう名乗ったから。いや、スライムが喋るなんて有り得ないってことくらい分かってる。
でも、もうそんなことどうでもいい。とっくにわけが分からないことになってんだ。仲間が全員殺されて、生き残ってるのが俺一人。それが全部このスライム一匹の仕業?
冗談ならつまらな過ぎて笑えない。だが、今は冗談だと思いたかった。あの時は何もしなかったこいつが、こんなに強かったなんて知らない。
もう、俺の身代わりになってくれる奴は誰もいない。
もう十分すぎるくらいトラウマだ、悪いことをしようとしたら絶対にお前の事を思い出す。だからしたくても出来ない、だから今度こそ悪いことはしない、だから殺さないでくれ。
いつもなら口をついて出た命乞いの言葉は、今日に限って出てくれなかった。
あっという間も無くそいつの、弱そうにしか見えない姿が消える。見逃してくれた? そうか、殺す価値も無いと思ってくれたんだな。
あれ?
くび、冷た
【前付:ある小悪党の走馬灯】