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クズ

「おお、二人とも。もう大丈夫なのかね」

「おかげさまで」

半ば呆れ気味に呟くイリーナ。その傍らにヒツユがおり、会話している相手に怖い、といったような視線を投げかけている。

「さて五十嵐。一体どういうことか説明していただきましょーか」

「何がだ?」

二人は五十嵐のデスクにいた。小さな、それでいてこの世の全ての情報でも揃っているのかというほど、小型のコンピュータがあちこちに置いてある。それに加えて何かの書類も山積みになっており、五十嵐の多忙さが伺える。

だが、イリーナはそんな彼の机を力一杯叩きつける。

「話に聞くと、アンタはヒツユの『先生』だったらしいじゃない? それに加えて、アンタはアタシをロボットに仕立て上げた人物よ。何か秘めてるモンがあんじゃないかしらと思ったのよ」

「そ、それに……」

ゆっくりと、ヒツユは口を開く。

「イチカを……イチカを何処へやったんですか?」

どうやら生徒と先生という関係によっているらしく、ヒツユは無意識に敬語で話す。

「――――――そうか。そっちも気になるかね、霧島君」

それに答えたのはヒツユではなく、イリーナ。

「ったり前じゃない。あんだけアタシがボロボロにしちゃったんだし、しかも急に回収なんて言いやがる。アンタは一体何を企んでるのよ?」

「……別に大した事じゃない。この上下社会に属している限り、上に登り詰めたいというのは誰だって考える事だろう?」

「……アンタね、こんだけやって『上にのし上がる為』とか言ったらブン殴るわよ」

「じゃあブン殴られるな私は」

「……そうなのね……」

呆れた様子で溜め息をつくイリーナ。

だがそんな彼女に五十嵐は告げる。

「まあ、考えているのは『人類の安息』、そして『カルネイジの掃討』だよ。私だって仮にも『カルネイジ掃討兵器開発主任』だ。それが第一に決まっているだろう」

「アンタはそれを地位を上げる『手段』にしてるから気に食わないのよ」

そう。

五十嵐の望みは、純粋な地位の向上。

この『空中庭園』では資源が限られている為、結果的に地位が上の者と下の者で貧富がハッキリしている。いい生活をするには、より上の地位を目指す必要があるのだ。

「――――――なんて、」

だが、イリーナは告げる。



「くだらないキャラを作るのはやめなさい、五十嵐。大体察しはついてんのよ。アンタの目的は、『全空中庭園の制圧』――――――でしょう?」



眼鏡を直しながら、くく、と笑う五十嵐。

「先……生?」

ヒツユが怯えた顔で呟く。その手はしっかりと、イリーナに繋がれている。

「イチカを『最終兵器』にし、アタシやヒツユを『駒』として扱い、ここも含めて世界に五つある『空中庭園』を、全て支配しようって魂胆なんでしょう?」

「……そうだな、その通りだ」

ニヤリと笑う五十嵐。

「ここ『日本国空中庭園』は、現在カルネイジに対する迎撃技術に関しては群を抜いている。何しろ子供の身体能力を引き上げる『武器』という代物を持っているのだからね。霧島君はあのバスターソードを既に無くしてしまったようだが……」

「……先生、ごめんなさい」

「いや、いいのだ。無くしたのなら製造すればいい。それに、既に君は私の想像以上の力を手に入れている。もう部下に、君専用の更に高度なバスターソードの製造を言い付けてある」

「――――――ちか、ら?」

「ああ。君がイリーナとの戦闘で見せた『神化』の事だ。まさかあんな芸当が出来るようになるなど、君を地上に下ろした時には気付かなかったがね」

ヒツユは複雑な表情で俯く。


――――――『神化』。


ヒツユの持つ『(カタストロフィ)』の素質を最大限に引き上げた結果現れる姿。カルネイジの肉体を集め、自らの武器として使用する能力だ。

「あれはどの距離まで集められる? それさえ分かれば、そもそも戦う必要など無くなるのだが……」

「――――――半径十キロ。それが限界、です。あと、量も限られてきます。あまりに集め過ぎると、制御出来ずに集めた肉片が暴走して一つのカルネイジになってしまうかもしれません」

「……ほう。なら、集めてカルネイジにして撃破を繰り返せば、半径十キロのカルネイジを全て一層出来る、と。これはこれは……実に興味深いな」

「五十嵐。分かってるとは思うけど、ヒツユに無理でもさせたら、アンタはアタシがぶっ殺すからね」

「おお、怖い。――――――分かっている。霧島君は人類にとって非常に重要になる存在だ。丁重に扱うさ」

五十嵐は小さく笑って、

「ところで二人とも。少々話はズレるが、『武器』を握った人間の身体能力を上げるというシステムが、どういうものか、理解はしているかな?」

「かなりズラしたわね」

イリーナはつまらなそうに言う。

「……正直、ロボットのアタシやヒツユには関係のない話だから全く考えてなかったわ」

「おっと、イリーナ。これは霧島君には大いに関係あるのだよ」

「え?」

「私、に?」

二人はキョトンとした表情を浮かべる。

「そうだ。そもそもあれは、カルネイジ細胞を埋め込んだ金属なのだよ」

カルネイジ細胞の特性。

それは、再生するだけではなく、加工次第でどんな物質にも組み込める事だ。

「そして組み込まれたカルネイジ細胞は触れている者の身体能力に大きく影響を及ぼす、というわけだ」

「――――――待って。その加工するカルネイジ細胞はどこから集めてきたのよ。『空中庭園』に帰還する人間なんているかいないかレベルじゃない。しかもカルネイジの肉体を持ってくる奴なんているはずがないわ」

そうだ。

カルネイジ細胞はカルネイジからしか得ることは出来ない。そして地上へ飛び立つ若者は、毎回何百人単位で存在する。それら全員に与える量なんて――――――。

「……『武器』に埋め込むカルネイジ細胞はほんの僅かでいい。後は勝手に再生を繰り返し、やがて『武器』の金属全てをカルネイジ細胞で侵食する。イリーナ、君の肉体もその金属で出来ているのだ。さしづめ、『カルネイジ金属』とでも呼ぼうか」

「だからなんだってのよ」

「――――――過去、我々はとある『実験台』から大量のカルネイジ細胞を得る事に成功している。多少強引な手ではあったがね。それは――――――」



「やめてッッ‼︎‼︎」



「っ⁉︎」

イリーナはいきなりの叫び声にギョッとする。

それもそのはず、いきなりヒツユが声を荒げて制止を促したのだ。

「……先生……それ以上は、やめてください……!」

「おお、悪かった。未だにトラウマみたいだな、霧島君」

五十嵐はからかうような口調で言う。

「もう……思い出したくないんです。『あの頃』の事だけは、本当に……」

「……ヒ、ツユ?」

何も知らないイリーナは、問い掛ける。

だが。

今のヒツユには、光が無い。

「それに、早く教えてください。イチカはどうなったんですか!」

「彼女は――――――『兵器』として研究している最中だ。君が知ったところで、どうしようもない情報だがね」

「兵……器?」

「ああ、私達の『最終兵器』だ」

しれっと、彼はそんなことを言う。

彼女にだって。

カルネイジを世に蔓延らせた犯罪者である彼女にだって、人権はあるはずだ。

なのになんで。

この男は。

イチカの事も。

イリーナの事も。

ヒツユの事も。

「……なんで……」

苦しい声で呟く。

「なんで! 先生はそうやって! 私やイリーナはイチカを! まるで『兵器』の様に扱うんですか! 私だってみんなだって……ただの、人間なのに……!」

「それは違うな」

「ッ!」

眼鏡の位置を直し、五十嵐は説明する。

「君達は人間の範疇を超えた力を手に入れている。そうである以上、その力は制御されなければならない。自我を失った力など、得になった試しが無いのだから」

「ちょっと五十嵐、アンタねぇ……!」

イリーナが、慌てて五十嵐を黙らせようとする。

だが。

「わ、たしは……そんな……、そんな……ッ‼︎‼︎」

振り向き、彼のデスクから出ていくヒツユ。

イリーナはそれを引き留められず、置いていかれる。

「……追いかけなくていいのか?」

「――――――アンタ、よくそんな平然としてられるわね」

答えず、笑う五十嵐。


「やっぱり――――――アンタは、最低のクズ野郎よ」


そう吐き捨てると、イリーナはヒツユを追い掛ける。

五十嵐は吐き捨てられた言葉に耳も貸さず、ただ不気味に笑うだけだった。

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