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五対一

ヘリコプターで遥か彼方に飛び去った五十嵐。

後部座席には戦闘でボロボロになったイチカが横たわっており、特に何か処置をするわけでもなかった。

「……ったく、イリーナも言いたいことを言うようになったものだ。私の目的が小さいだと……?」

彼はニヤリと笑う。

「そんな事はない。私はこいつを使って最強の兵器を創り出し、まずは空中庭園の軍事力を握る。そしてこいつを利用して、私は日本空中庭園の長になる。そして最強の兵器の力を行使して、やがて全ての空中庭園を統べる」

それは、全てを想定した、その中の行動の一つであった。

そして、五十嵐は高笑いをする。

「既にこいつを糧とした最強の兵器の製造は済んでいる。後は核であるこいつを組み込むだけだ……!」

ヘリコプターの中で笑う五十嵐には、しかし見えていなかった。

彼の下に存在する、かつての生徒の真の姿を。

それが。

途方も無い力を秘めた四体を統べる、神のような存在である事も、知るハズがなかった。

それを体験しているのは、イリーナだった。

「くっ……⁉︎」

彼女はブースターを噴かし、空中を自由自在に駆け巡る。しかしそれは、単なる回避行動という一点に尽きていた。

(何なのよ……こいつら……!)

玄武の背から生えている蛇が、イリーナを襲う。彼女はその毒牙を回避する為に、空中へと逃げた。何匹もの蛇が、彼女を喰らう為に交差する。

だが、いくら身体の一部といっても、玄武型デストロイが蛇を伸ばすのには限界がある。イリーナはそれが届かなくなるまで、つまり玄武型の攻撃範囲外に逃げたのだ。

だが。

「ッ⁉︎」

目の前から、青龍型デストロイが突進してきた。空中での自由度を利用し、直接的な勝負に出たのである。

イリーナは再びブースターを使用、回避行動に移る。その突進は難なく回避するが、次の瞬間、何らかの肉片の様なものが飛んでくる。雨あられのように発射されるそれを、イリーナは合計六基あるシールドピットで防いだ。

ガガガガガッ‼︎‼︎ と、まるで銃弾が盾に弾かれるような音がする。肉片は唯の肉片ではなく、まるで銃弾のように硬化されていた。

「……クソッタレがァッ‼︎‼︎‼︎」

イリーナはシールドピットを解除、展開し、再び『全方位射撃(オールディレクション・シューテング)』の構えに入る。二丁のロングライフルを構え、ピットを全て前面に移動させる。

そして、

「消え失せろッ‼︎‼︎」

発射。

多くのレーザーが集まり、まるで一本の極太レーザーの様に発射されていく。それは途中のデストロイ達を全て無視して、そのままヒツユの方へと向かう。

あわや、彼女に直撃しようというところで、

「……無駄だよ」

グロテスクな肉が集まり、盾の様になったそれは、極太レーザーの一撃を分散して消滅させた。

「今の私はこの力を自由に操れる。集めたカルネイジの肉体の形状を変化させる事も、その材質を変えることも」

先程の硬化した肉片のシャワーも、今の肉の盾も、全て『(カタストロフィ)』の力によるものだったのだ。彼女は四体のデストロイ以外の周囲1キロ程のカルネイジを全て集め、武器として扱っている。力に操られるのではく、力を操る事によって、こんな調節も利くようになったのだ。

「くッ……そがァッ‼︎‼︎」

イリーナは全てのピットを分散、そしてヒツユの周囲へと散らせる。

そして、絶えずビームを打ち続ける。

「ッ……‼︎」

ヒツユは周囲360度に肉片を設置し、まるで自分を包む殻の様にする。ビームは通らず、跳ね返しながら地面に突き刺さる。

「あははははははははははははははッ‼︎ こうでもしてしまえば、アンタは何も出来ない‼︎ 精々その気持ち悪い殻に篭ってなさい‼︎」

イリーナは意地悪そうに高笑いをすると、

「その間にアタシは……お前らを殺す‼︎」

すかさず二つのロングライフルを結合、そのまま体当たりしてくる青龍に向かって放つ。

青味を帯びた光線は一瞬のうちに、青龍の脳天を貫く。青龍はじたばたとしていたが、やがて何も出来ずに墜落する。

「ッ……ははははははッ‼︎ こんなバケモノ、アタシに掛かればこんなもんよ‼︎‼︎」

「イリーナ……ッ!」

その瞬間、今までレーザーに耐えていたヒツユが動き出す。身体を覆う肉片を、時雨(しぐれ)の様に弾き飛ばしたのだ。

それにより、ピットは半数が破壊。

だが。

「……ッ、あ!」

その肩、脚の二箇所をビームを貫通する。致命傷ではないものの、とてつもない痛みを感じる。歯を食いしばり、ヒツユはその脚で地面を蹴る。

それと同時に、ヒツユは空へと舞った。原理など知る由もないが、それでも彼女は浮き上がったのだ。

「この……バケモノがッ‼︎」

イリーナは再びロングライフルを結合、ビームを発射する。だが、ヒツユは難なくそれをかわす。

苛立ちを露わにするイリーナが連続で射撃するが、それらは当たらない。まるで空を踊っているかの様に、ヒツユは肩から出ているその羽衣の様な何かをはためかせ、イリーナの元へと接近する。

「イリーナァッ‼︎‼︎」

「ぐっ……来るな、バケモノォッ‼︎‼︎」

再びライフルを構える。しかし今度は結合させず、それぞれ別々に構える。しかも、残ったピットとシールドピットを全て横に並べる。

そして。

それらが発射された。今までとは違い、一発一発に狙いを定めず、ばらける様に撃つ。それを連射し、ヒツユが近付けない様にする。

が。

「……ハッ⁉︎」

あまりに感情が高ぶり過ぎていた。

そのせいで、注意力が散漫になっていた。

彼女は。

イリーナは気付けなかった。

全てのピットをヒツユにつぎ込んでいる間に、背後に朱雀が現れていた事に。

そして。

その(くちばし)が、イリーナの心臓を狙っている事に。

「クッ……ソォォォッ‼︎‼︎」

イリーナは慌てて回避する。そしてすれ違い様に、そのレーザーソードで斬りつけた。

イリーナのレーザーソードは出力調整で長さを変更することができ、彼女はそれを、朱雀の身体を両断出来る程に伸ばしていた。

つまり。

朱雀の身体は、真ん中から真っ直ぐ両断されていった。

「くッ、クヒヒッ」

イリーナの高笑いが洩れる。

勝ち誇った笑みを浮かべる。

だが。

「――――――‼︎」

「イリーナァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ‼︎‼︎‼︎」

ヒツユがいることを、忘れていた。

彼女は、朱雀の攻撃を命中させるための囮などではない。

むしろ、真打ち。

二重の囮だったのである。

「う、そ」

イリーナの声は、しかし遮られた。

急接近したヒツユの腕によって、その首が掴まれたからである。

「……がッ、」

「動かないで。私だって、イリーナを殺したくなんかない」

イリーナの命運は、ヒツユの右手に掛かっていた。

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