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豪腕の獣と赤き戦闘兵器

『クリムゾン』は動き出す。

大剣さえあれば何の事は無い相手だが、何しろそれは防護壁の上に置いてきてしまった。今から取りに行くのなら、目の前のゴリラ型カルネイジにやられてしまうだろう。

(肉弾戦だって……出来る!)

鋼鉄の拳を前に突き出す。ブースターも噴かした、重みを込めた一撃だ。これならば、いけるかもしれない。

が。

ゴリラ型は、まるで振り払うように。

その腕を『クリムゾン』に叩き付けた。

「ぐっ……⁉︎」

予想以上の衝撃を受けた『クリムゾン』は、地面に足を叩き付け、ブースターを前に噴かしてリカバリーする。

「こ、のォッッ‼︎」

攻撃後の隙を突いた、一瞬の攻撃。

それはゴリラ型の胸を貫き、カルネイジは弾き飛ばされる。

――――――ハズだが。

「……な、に……⁉︎」



ゴリラ型カルネイジは、ビクともしない。



アルマは、必死に思考を働かせる。

なぜ、ここまで攻撃力が高い?

なぜ、ここまで打たれ強い?

こちらはロボット。しかもブースターなどを噴かせ、万全の体制で戦闘に臨んでいるというのに。

この差はなんだ。

いとも容易くこちらに対抗できる、その差は。

一つしか考えられない。

(カルネイジには……ロボットと渡り合える潜在能力もあるってこと⁉︎)

カルネイジは基本、破壊された部位は何分かで修復される。ただし、脳や心臓は別。それらは再生のために必要な部位であり、そこを失われればカルネイジは絶命してしまう。

所詮は生物、当然の結果だろう。

だが。

目の前のこいつは、傷すら付かないという正真正銘の化け物だ。

(対抗策は……何か……!)

しかし。

思いつく前に、ゴリラ型の反撃が繰り出される。

その、腕に比べて細いとはいえ、カルネイジ細胞の影響で多少は強化されている脚。それは地面を蹴り、ゴリラ型の有利な範囲まで移動する。

そう。

その巨大な腕が届く範囲まで。

(くっ……⁉︎)

アルマは歯噛みし、『クリムゾン』に後退の命を出す。ジェットパックを逆方向に噴射し、急な動きで攻撃を回避する。

「わぁぁぁぁッッ⁉︎」

突然の回避行動。その余波で振動するコクピットの中で、アミは驚いた声を上げる。

「うるさい」

アルマは僅かに焦りながらも、その一言でアミを一蹴する。

そんな事もつゆしらず、ゴリラ型は更に前進してくる。後退のブーストより少し遅いくらいだが、その異常に発達した腕のリーチでカバーする。

その巨大な掌は『クリムゾン』の頭部を鷲掴みにし、その恐ろしい握力で砕こうとしてくる。

だが、いつまでも攻勢で出ないわけではないアルマ。

「……調子に乗るなよ、こいつッ‼︎」

『クリムゾン』はその瞬間、赤い拳をゴリラ型の顎に喰らわせる。

それだけではない。

あまりに強大な拳はカルネイジの身体を宙に浮かせ。

そこに、アルマは。

赤き鋼鉄の拳を、シャワーのように浴びせる。

「うるぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ‼︎‼︎‼︎」

それにはカルネイジも耐え切れず、力無く重力に従い下に落ちる。そこを、

「死ねやぁぁぁああああああああああああああッッ‼︎‼︎」

二つのジェットパックで勢いを付けた、その赤い鉄の脚で打ち付ける。まるで、チャンスボールを弾き飛ばすサッカー選手のように。

結果、何十メートルもの距離を、ゴリラ型カルネイジは弾け飛ぶ。地面に幾度か叩きつけられ、二転三転と回転しながら。

「やった!」

アミはモニターを見ながら、嬉しそうに拳を突き上げる。

「レオ、倒したよ! 起きて!」

「……いや、まだ」

アルマは重苦しい声で呟く。

「え?」

アミはモニターを二度見する。

そこには、傷付きながらも起き上がるゴリラ型カルネイジの姿があった。その傷すらも、次の瞬間には再生を始める。その紅い瞳をギラギラと輝かせながら、ゴリラ型は雄叫びを上げた。

「う、そ……⁉︎」

「チッ……」

アミは悲観的な表情を見せ、アルマは苛立たしげに舌打ちをする。その脅威的な打たれ強さと再生能力には、思わず畏怖を覚えてしまう。

だがアルマは諦めない。

再びジェットを噴かし、カルネイジに急接近する。

あと一発。

頭部にあと一発入れれば、恐らく耐え切れないだろう。

全く無理なわけではないのだ。

そう、着実にダメージは入っている。

あと一発。

あと一発さえ入れば、恐らく――――――



刹那、『クリムゾン』の頭部が弾き飛ばされた。



「ッ⁉︎」

一瞬、アミの見ているモニター、そしてアルマと同調(リンク)した視界が真っ暗になる。だがアルマは慌てず、すぐに胸部のカメラを起動した。

一秒と待たずに映し出されるカルネイジ。それは、先程まで見ていたカルネイジと何ら変わらない。

ただし。

そのフォームは、明らかに何かを投げたような形だった。

(っ……真っ直ぐ進んでくる事を予測して、岩石を投げてきた……!)

そう。

焦って安易に直進してしまった『クリムゾン』にチャンスを感じたゴリラ型は、即座に地面に拳を叩きつけ、割れて出来上がった岩石を掴み、『クリムゾン』に向かって投げ飛ばしたのだ。その間は何秒とも無い。

結果、アルマは慌ててしまっていた為に、回避行動が取れず、顔面に直撃されてしまった。カルネイジが顔面を狙ったのは、きっと他の生物が頭を失えば死ぬことを学習しているからだろう。

だが『クリムゾン』などのロボットには関係無い。

アルマは再びブースターを噴かせ、ゴリラ型に急接近する。今度は引っかからない。左右に細かく動きながら、猛スピードで拳を構えた。

すると、ゴリラ型はゆっくりと岩を持ち上げ始めた。やろうとすれば、何秒と掛からずに投げ付けられるハズなのに。

だが、アルマはすぐに気付く。

それは『クリムゾン』へと岩を叩きつける為に。

最初はゆっくりとした動作を見せ、そして。

(死ね――――――!)

『クリムゾン』の拳が、ゴリラ型に届く範囲内になった瞬間に。

その行動は、刹那を感じる程に速度を増す。

「なっ⁉︎」

だがアルマは判断を間違えない。

岩が叩きつけられるその瞬間、『クリムゾン』は急旋回を見せ付ける。これ以上痛手を受けまいと、アルマは必死だった。

ところが、それさえもゴリラ型カルネイジの予測の内。

岩を持ったカルネイジは、まるで残像だったかのように視界から消え、『クリムゾン』の側面に現れる。

そして。

その拳が、『クリムゾン』の腹部へとヒットする。

この真紅の機体を、いともたやすくかちあげるように。

「う、そ――――――」

反撃。

同じ攻撃を、同じ分だけ。

そうだ。

空中に浮いた『クリムゾン』を。

それと同じ様に。

真紅のラッシュと同じ様に、獣の拳を何十発も浴びせかけてきたのだ。カルネイジとしての怪力をその拳一発一発に込め、まるで一発に全力を込めているかのように重く。

「ぐぅぅうううううううッッ⁉︎」

アルマ達のいるコントロールルームは常に足元が下に向くように出来ている為、彼女達が重力に引かれる事はない。だが、その拳の衝撃は痛いほど伝わってくる。

「うわッ⁉︎ やばいやばいってこれ!」

「う、るさいアミ! 黙ってて!」

恐怖に胸を縛り付けられそうなアミ。

そして焦りで平常心を保てないアルマ。

そんな彼女らを更に追い詰める様に、最後の一発が。

今までの全てを凝縮したような、そんな一撃が。



叩きつけられる。



「「が、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ‼︎‼︎⁉︎」」

二人は断末魔のような声を上げる。

重いアッパーカットが、彼女らと『クリムゾン』を襲う。真紅の機体はそれが何トンとある鉄の塊だということを感じさせない程に高く、弾き飛ばされた。

(どうする⁉︎ 考えなきゃ……考えなきゃ……!)

と、その時。

アルマの視界に、とんでもない光景が映る。

ゴリラ型カルネイジが、宙に浮かんだ『クリムゾン』に向かい、跳んできたのだ。

(…………!)

「わぁぁぁあああああああッッ‼︎⁉︎ もうダメだよ、やられるよー‼︎」

「……いや。案外いけるかも」

アルマはニヤリと笑い、身構える。

勝利の為の、その衝撃に。

と。

ゴリラ型カルネイジの攻撃が始まる。

空中に弾けた『クリムゾン』の頭上へと現れたカルネイジ。その巨大な腕を組み、二つ重ねて叩きつけようとそれを上に上げる。

これを喰らえば、死ぬ。

いくらロボットである『クリムゾン』でも、カルネイジの最大威力と重力が合わされば砕けてしまうだろう。

『クリムゾン』は破壊され。

アルマ、アミ、レオ。三人の生涯は幕を閉じる。

「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッ‼︎⁉︎」

アミは、ついに叫び出す。

予想外の死に、覚悟がついてこないのだ。

だが。

「ナイス。アミ」

アルマはまるでそれを起点とするかのように。

笑みを、零す。

アルマは、脳内で操作する。

『クリムゾン』ではない。もっと原始的な部分。

そう、いつも外に語り掛ける時に使用するスピーカーだ。

音量は最大。

つまりそれは、まるで音響爆弾のように、辺りに響き渡る。

『きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッ‼︎⁉︎』

それ自体は何の威力もない。

精々、相手に『うるさい』と思わせる程度だろう。

ただ、スピーカーで増大させたそれは、そしてこの瞬間ならば。


――――――一瞬の隙を、作る事が出来る。


(少しだけ。少しだけ隙を作れれば……!)

それは、成功した。

突然の大音量に驚いたカルネイジには、一瞬の隙が生まれた。

たった一瞬。

刹那と同義。

だが、それさえあれば良かった。

『クリムゾン』は、ゴリラ型カルネイジの顎にアッパーを喰らわす。少なくとも、気絶するに値する威力を込める事は出来たハズ。

そして、空中で姿勢を組み替える。もちろん『クリムゾン』が上、カルネイジは下。

これだけ。

これだけの条件が揃えば、それだけでよかった。

あとは。



「死、ねぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッッッッッ‼︎‼︎‼︎‼︎」



鋼鉄の紅き拳を、カルネイジへと叩きつける。

ありったけのブースターを使用する。

それだけで充分。

あとは重力とブースターの勢いさえあれば。

まるで流星のような軌道を描き、地面に叩きつけられるのだ。

カルネイジも、抗う事が出来なかった。

『クリムゾン』の一撃により、抗おうとする前に気絶させられていたからだ。

後は何も出来ずに。

『クリムゾン』も。

カルネイジも。

これまで経験したことのないような速度で、地面に墜落する。

しかし勝敗は決した。

ただの力任せのカルネイジに勝利したのは。

――――――智略も兼ね備えた、一人の機械少女だった。

誰かを守る。

それが彼女に課せられた、一生の使命。

それを、ここで自覚する。

(守り……きった……!)

そんなやりきった想いを胸に。

二体の巨大なそれは。

大地に、叩きつけられた。

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