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空中庭園からの使者

「ッ⁉︎」

レオは突然の事態に驚き、慌ててイリーナを抱き留めた。

「イリーナさん⁉︎ どうしたんですか⁉︎」

反応は無い。

瞳はどっち付かずの方向を向き、光がない。

そして。

彼女からは、鼓動も、脈拍も、何一つ感じられない。

ただ一つ分かるのは。

彼女の頭の中から微かに聞こえる、妙な雑音。まるでFAXで紙に文字を焼き付けているかのような、そんな異音。

「……どう、いう……⁉︎」

「アルマちゃん! こっち来て!」

アミは落ち着いた、しかしどこか不安げな声でアルマを呼ぶ。彼女は『クリムゾン』の掌に腰掛けていたのだが、その不安げな声を聞き、駆けつけて来た。

「そんな気安く呼ばない。なんか腹立つ」

「んなこと言ってないで、早く! イリーナさんが倒れちゃったの!」

「……⁉︎」

アルマは露骨に焦った表情をする。イリーナの横に膝を付くと、彼女の前髪を上げ、表情を確認する。

「……スリープモード、してる? いや、でもイリーナはアルさん達とは仕組みが違うハズ……」

アルマは考え込む。

しかし、彼女のデータベースにはイリーナの情報など入っているわけがない。彼女にとってイリーナとは、未知のロボットなのだ。

「ごめん、分からない。このままは危険。とりあえず『クリムゾン』に入れる」

アルマはイリーナを抱きかかえると、『クリムゾン』へと向かう。

だが。

「……何の、音?」

アルマの一言に、他の二人も注意を色んな方向へと向かう。しかし、その数秒後には、音の向きが分かる。

「う、上……?」

呟くレオ。そして三人は上を向く。

その音は、やけにうるさかった。何かを回転させているような、そんな音。合間には、なんだかパタパタという、粗めの空気を叩く音が聞こえる。

それは、つまり。

「あれって……ヘリ⁉︎」

そう。

三人の頭上に、黒いヘリコプターが一機、降りて来たのだ。

「……一体誰が乗って……⁉︎」

発電塔跡地の壁は相当分厚い。ヘリコプターが一機着陸するくらいのスペースは、確保されていた。

アルマやレオ、アミは、それが着陸するのを黙って見守るしかなかった。

そして。

回ったままのプロペラをそのままに、一人の男が降りてくる。

白衣を着た、若くもなければ老いてもいない中年男性だった。眼鏡をかけ、短めの茶髪を風に揺らしている。



「……やっと見つけたよ、イリーナ君」



彼は、そう呟いた。

「見つけた……⁉︎」

レオは食い気味に疑問する。

「初めましてだな。私は空中庭園武器研究部長の五十嵐(いがらし)というものだ。よろしく」

男は、そう名乗った。

「……空中庭園のお偉いさん。何の用?」

忌々しげに舌打ちをするアルマ。彼女は人間であること+地上を捨てた者であるとして、空中庭園の人間に対して好意的な対応を取れずにいた。

「そんな恐い顔をしなくてもいいじゃないか。シスコンの発電塔防衛システム君?」

「ッ……! なん、だと……!」

「まぁ、そんな挨拶はどうでもいい。君に頼みがあってね」

五十嵐は全くアルマには興味無しといった様子で、それでも気に掛けて願いを言う。

「そこの紫髪の女、イリーナ・マルティエヴナ・アレンスカヤの身柄を引き取らせてはくれないか?」

「な、に……⁉︎」

アルマは驚愕する。それは、レオとアミも同様。

ということは、イリーナの突然の昏睡も彼の仕業か。

何故。

何故彼女は、身柄を回収されるのだろうか。

いや、しかし。

「嫌って……言った――――――」

「嫌ならいい」

食い気味に返され、そして。



アルマの身体は、遥か遠くへと吹き飛んだ。



「――――――力づくで頂くまでだ」

その表情は、冷たかった。

「アルマさんッッッ‼︎‼︎」

「アルマちゃんッッッ‼︎‼︎」

突然の事態に、叫ぶしか出来ないレオとアミ。

それに反して、アルマの身体は吹き飛び、そして『クリムゾン』に衝突する。

ゴンッッッ‼︎‼︎ という破砕音が伝わる。

そのあとに、バチバチと電気が漏れる音がした。

「……が……ぁ……⁉︎」

アルマは何とか身体を起こす。イリーナの身体は宙に舞い、そして黒い次世代的な装備を施した兵士に回収される。その装備は、アルマの身体を包むそれをベースにしたようなものだった。

「ぐ……っ!」

どうやら左目、言ってしまえば左カメラをやられてしまったわけだ。それも、アルマの目にめり込む形で。

(並大抵の弾なんて……効かないハズなのに……⁉︎)

「君は思っただろう。何故、こんなに重い銃弾なのか、と。普通の弾なんて効かないハズなのに、と」

得意げに五十嵐は語る。その背後には、先程の黒装備の男が五、六人佇んでいる。

「これはイリーナからの情報によるものだ」

「なっ……⁉︎」

「と言ってもイリーナの意思は関係ないがね。予め、イリーナのカメラアイには見た景色を空中庭園に送信してもらう仕組みを組み込んでいた。そしてそれから君たちの、いやアルマ。君の材質を分析し、最も有効な銃弾を開発させてもらった。今、この黒装備の彼が君に撃ち込んだのはそれだ」

「そんな……!」

五十嵐は、気持ちの悪い笑みを浮かべる。

「元々、イリーナを地上に降ろした目的は、地上の様子を偵察させるため。飛行機などの航空写真ではわからない事も多々あってね。そして、先程君達はここら一帯のカルネイジを殲滅してくれた。これで私達は、この地下に眠ったロボット達の文化、発明、科学を吸収出来るというわけだ」

そう言って五十嵐は高笑いする。

「しかも、このイリーナは使い捨てではない。こいつは私が手掛けた最高の機械人形だ。これからここのロボットの科学を彼女に取り入れ、最強のカルネイジ殲滅マシンに仕立て上げる」

イリーナは、黒装備の男達によってヘリコプターへと運び込まれる。アルマは、それを黙って見ているしかなかった。アルマには戦闘能力があるが、それは『クリムゾン』に乗らなければ発揮されない。今の状態では、ただの丸腰なのだ。

となれば、今動けるのは。

「こ――――――のォッッ‼︎‼︎‼︎」

一瞬だった。

五十嵐の目の前に、レオが拳を抱えて現れる。

が。

黒装備の男は、そんなレオをいとも簡単に蹴り飛ばす。

「が……ッ⁉︎」

「甘い」

五十嵐は、呟く。

「よくも……レオをッッッ‼︎‼︎」

次の刹那、アミの黒い尻尾が五十嵐を襲う。

だが――――――これも無効。

なんと、黒装備の男一人が身を(てい)して盾になり、アミの攻撃を無効化したのだ。

「甘い甘い……ダメだこれでは」

そして。

アミの身体が、吹き飛ぶ。

別の黒装備の男が、一瞬にしてアミの後ろに回ったのだ。

結果、アルマやレオ、アミは全て地に伏してしまう。

「覚えておけ」

眼鏡を直し、五十嵐は言う。

「所詮、生物は機械には勝てない。速度、判断力、単純な力。どれも全て、機械の前では劣ってしまうのだ」

五十嵐はにやけながら、盾となっていった黒装備の男を蹴飛ばす。

その男からは、一切の血が飛び出すことはなかった。

代わりに、少しばかりの漏電、そして内部機構が外に晒されただけだった。

「私が守るものは人だ。邪魔をしなければ少年、君達を殺すことなんて万に一つもしない。だが……」

舌舐めずり。

「邪魔をするのなら、一人や二人の犠牲、私は仕方ないと考えるようにしているよ。それが将来、全人類を救うことになるのなら、ね」

そう言いながら、彼はヘリコプターに乗り込む。

「あ、そうそう。アルマとかいうロボット、お前は別だ。人間に牙を向くかもしれない存在である自我を持ったロボット、そんな危険因子はここで排除せねばな」

五十嵐はアルマの方など見向きもせず、他の黒装備のロボット達に命じる。

「やれ」

そして、五十嵐とイリーナを乗せたヘリコプターは、空中庭園へと消えた。

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