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機械の少女と獣の姉弟

彼らは、姉弟らしかった。

弟の名前は神崎(かんざき)玲王(れお)。猫の耳と尻尾を生やした、人懐っこい笑顔を浮かべる少年。大体ヒツユと同い年くらい、中学一、二年生くらいか。あまり人に意見を押し付けたりはできないような、一言で言えば気弱なタイプらしい。

そして、姉の名前は神崎(かんざき)亜美(あみ)。こちらは黒い狐の耳と尻尾を生やしている。この少女はイリーナよりは年下。高校二年生くらいだろうか。のらりくらりとしたような掴めない性格で、良く言えばマイペース、と言ったところだ。

彼女はその片目が隠れる程長い黒髪を弄りながら、

「よろしくね、イリーナさん」

そう、挨拶してきた。

「よ、よ、よろしくお願いしみゃすっ!」

(噛んだよこの子……)

なんだかヒツユとは別の意味で疲れそうな男の子だな、と思ったイリーナだった。彼は真っ赤な顔をしながら、チラチラとこちらを見たり目を背けたりしている。そのうち耐え切れなくなったのか、姉であるアミの後ろに引っ込んでしまった。

「もー、レオったら人見知りなんだから」

「ご、ごめんなさい……」

「アミに謝ってどーすんの」

「いいわよ別に。ちょっと聞きたい事があるだけだから」

そう言って、イリーナは笑いかける。その笑顔に、レオは少し安心したらしかった。

「アンタたち、ヒツユと一緒にいたわよね。あの子とはどういう関係なの?」

「ヒツユちゃんを知ってるんですか?」

レオは、質問を質問で返した。

「そんなに深くは知らないけどね。あの子は『空中庭園』からアタシと一緒に地上に降りてきて、んで一緒に戦ってたのよ。けど急に消えちゃってね。ついでに探してたの」

「そ、そうですか。じゃあ、僕達はそのはぐれた後にヒツユちゃんと出会ったんだ……」

「そういうことになるわね」

レオの隣に座り、イリーナは胡座(あぐら)をかく。

「……ヒツユちゃんは最初死にかけてて、身体もボロボロで、欠けていた場所もたくさんありました。助けられないかなって思ったけど、徐々に身体が再生してることに気付いたんです。それで……僕と同じ……って思って……」

「同じ?」

イリーナは聞き返す。

「はい。ヒツユちゃんが、怪我したところが再生する体質を持ってるのは知っていますか?」

「まぁ……ね」

実際に再生するところを見たワケではない。欠けていた腕が、気付いたら再生していた、という感じである。

「僕も同じなんです。きっと……お姉ちゃんも」

そう言って、レオは指の先を犬歯で噛み切る。血が軽く滴るが、すぐに傷が塞がる。小規模ではあるが、イリーナはそれを初めて目の当たりにした。

「……これ、最初は嫌だなって思ってたんです。化け物みたいで……。実際にこれはカルネイジに殺されかけた時に身に付けた力ですから、本当に化け物からの力なんですけど」

でも、レオは区切る。

「でもこれがなかったら、僕はヒツユちゃんを助ける事が出来なかった。そもそも、見捨てていたかも。共通点を見出したのが一種の要因みたいなものでしたから」

レオは、心底嬉しそうな顔をする。

「だから……今はこの力に感謝してます。あんなに優しくて、楽しい子に出会えて。ヒツユちゃんは素直で、可愛くて、強いんです。僕には無い強さを持ってて……」

そこまでは、楽しそうに話していた。

が。

「なのに、居なくなっちゃって……。怪物みたいな姿になって、気が付いたら消えてて。正直、僕にはあの子が分からないです……ヒツユちゃんに比べたら、僕なんてちっぽけなのかなって思っちゃって……」

途端に曇ったレオの表情。

その優しそうな、柔和な顔に、涙が現れる。

「……力になれなくて……死なないでよって……言ったのに……僕は……守れなくて……」

「レオ……」

アミがレオの背中に触れる。

「抱え込まなくてもいいんだよ、レオ。まだ死んだと決まったワケじゃないし、きっと生きてるよ」

そうだ。

彼らが見ていたのは、ヒツユが暴走によって爆発のような、衝撃波のようなものを放ったところまで。死んだところを見たわけでは無い。

だが、それが気休めだということも、分かっていた。

「……でも……」

「でもじゃない。生きてるって想い続けてないと、レオが持たないよ?」

「……!」

それは。

無意識に被っただけなのかもしれない。

――――――大丈夫って想い続けてないと……きっと君が持たないからだよ。

ヒツユに掛けた、自分自身の言葉。

それに。

レオは思った。結局、生きていたのだから。

あの時、ヒツユはイリーナが生きているかを心配していた。それを勇気付けるために、レオは先の言葉を放った。

そして、その女性は目の前にいる。

だから。

レオが生きてると思えば、ヒツユは生きている。

「……あり、がとう……信じるよ……ヒツユちゃんは生きてるって」

「そうだね……それがいいよ」

「ごめんなさい、イリーナさん」

「……別にいいわよ。こんな状況下だし、ネガティブになるのも仕方ないわ」

イリーナは、ポジティブに考える事でストレスを消化するタイプの人間だ。

だが、それは全ての人には当てはまらない。

(化け物なんて……そんなことない)

こうやって、人間らしい弱さを持っている少年。

そして支えられる事で、立ち直れる心。

どこからどう見ても、人間だ。

冷たいのは、イリーナの方なのかもしれない。

脳だけ人間のままでも。

これまでの経験のせいで、思考まで機械的になっているのかもしれない。

だとしたら。

――――――だとしたら。

「……イリーナさん?」

「えっ? あ、いや、な、なんでもないわ」

レオは不思議そうな表情を浮かべる。涙を拭った後が、目尻から下がるように付いている。

「……ていうかレオ。結局ヒツユちゃんとの関係については答えてないじゃん」

「えっ⁉︎ いや、えと……」

「言っちゃいなよ。さっきお姉ちゃんに教えてくれたじゃん」

「〜〜〜!」

すると、レオは急に赤面した。

「ど、どうしたの?」

イリーナは心配になって詰め寄る。

「…………ょ、で……」

「へ?」

聞こえない。耳を澄ませる。

「か……じ…、……す」

「もう一回いい?」

催促し、更に耳を近付ける。

「か、」

「ん?」



「彼女ですッッ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」



「‼︎‼︎⁉︎⁉︎⁉︎」

鼓膜が破れるほど(ロボットのイリーナにそんなものは無いが)の大声。

思わず顔をしかめる。

それを見て、アミは可笑しそうに笑う。

「あ、す、すいません! えと、その……」

「……うん、伝えたい事は痛いほど伝わったわ。ていうか本当に痛いけど」

「ほ、本当にすいません!」

「あー、いいわよいいわよ」

必死に謝るレオの額を押さえ、イリーナは何とか意識を復活させる。

「まぁヒツユも確か14歳くらいだし、いいカップルじゃないの? 頑張んなさい」

「……でも、ヒツユちゃんは……」

「馬鹿。だから探すんでしょ?」

「え?」

レオが意外そうな表情を浮かべる。

イリーナは少し照れ臭そうに、

「一緒にヒツユを探しましょう。アタシもあの子に言ってやりたい事があるしね」

「ホント⁉︎」

「ホントよホント」

本当に嬉しそうな顔をするレオを、優しい眼差しで見つめるイリーナ。その純粋さに、思わず笑みが零れた。

――――――だが。



刹那、意識が消滅する。



(……え?)

視界が揺らぐ。身体が重い。

(な……に……⁉︎ こ、れ……⁉︎)

そして。

耐えられず、イリーナは倒れる。

抗うことも出来ないまま。

レオに、倒れ掛かるように。

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