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所詮、そんな存在

次に目覚めたのは、暗い場所。

妙に揺れる。

ここはどこ? そう意識を巡らせる前に、叫び声が響いた。

「ちくしょオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ‼︎‼︎」

「⁉︎」

朦朧としていた意識に、彼女の声が突き刺さる。

そう、それは電子の声。

しかし、明らかに怒りの感情がこもっている。

その主は。

「アル……マ……?」

「……‼︎ イリーナ、起きた? ちょうどいい、手伝って。今、カルネイジの掃除してる」

その言葉の言う通り、彼女の搭乗している『クリムゾン』はその赤い大剣を振り回していた。

寄るのは蟻型カルネイジ。その巨大な図体に、鋼鉄の如き体表、そして顎。何より数。その数は数え切れない程多かった。

「オラァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ‼︎‼︎」

その雄叫びと共に、大剣が蟻型の一匹を襲う。その剣の重さに体表は砕け、蟻型の身体全てが崩壊する。

「蟻型のような甲虫系のカルネイジ、その体表で身体を支えてる。それさえ砕けば、こっちのもの」

次々と蟻型を砕いていく。横に大剣を振るい、全方位の蟻型に等しい、重い破壊力を加える。

「…………」

イリーナは驚いた。

それと同時に、劣等感を抱いた。

こんな、こんな少女でも戦えている。

発電塔が破壊され、バッテリーが残り少ない状態であるにも関わらず。

それなのに、何体ものカルネイジを破壊し尽くしている。

それに比べて、彼女は。

(アタシは……無力)

「イリーナ?」

「……ごめん、無理……アタシなんかじゃ……」

「どうして?」

「だって……」

「みんな、戦ってる」

「みん、な?」

イリーナは画面モニターを覗き込む。

そこには。



「うおおおおおおおおおおおおおおおおおアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ‼︎‼︎」



慣れないビームソード片手に戦う猫耳少年と。



「甘い甘い。そんなんじゃアミには勝てないかな」



九つの尾を巧みに操りながら笑う、黒い長髪の狐耳少女が居た。



「レオ、大丈夫?」

「大丈夫! だって、お姉ちゃんと一緒だもん!」

その言葉を掻き消すように、沢山の蟻型が頭上から二人に飛び掛かる。

だが。

「下任せたよ、レオ」

「了解!」

軽快な掛け声と共に、アミは腕を組む。一歩も動かない、不敵な笑みだ。

しかし、彼女の笑みにはちゃんと理由がある。

その九本の黒き尾を槍の様に尖らせ、まるで深淵の針千本とでも言う様にそれらを突き出す。瞬時に突き出しては抜き、次の目標へと繰り出す。彼女の胸より上の全ての角度は、アミの攻撃範囲である。

「ほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらァッッ‼︎‼︎ 避けてみなよォッ‼︎‼︎」

音速の弾丸。

そんな風にも見える攻撃が、幾重にも重なって繰り広げられる。アミの頭上に現れるカルネイジは全て風穴を空けられ、バラバラの黒い殻と化してしまう。

そして。

その攻撃範囲より更に下は、猫の瞬発力を兼ね備えたレオが守る。

「やらせないッ‼︎」

体力が無いかわりに瞬発力で補う猫型を体内に帯びた彼は、そのシューズが擦り切れる程の勢いで、アミの周囲を駆け巡り。

その光の刃を、体表に突き刺していく。

「次ッ!」

一体を倒し、そして一瞬の内に次の目標へと辿り着き、その刃を突き立てる。そんな動作の繰り返しを、何百回と行う。

そして。

「レオッ!」

「分かった!」

レオはその一言で動きを作る。

地面に足を着け、筋肉に力を込める。そしてその紅い瞳を更に紅く染めると、逆手でそのビームソードを握り締める。

そして。

次の瞬間。

一秒にも満たない程の時間で、アミの周りを一周した。

それこそ、まるで音速で低空飛行しているかとでも思ってしまうかのように。

それによって、懲りずに寄ってきていた蟻型カルネイジは一層される。

その後、アミとレオはその場から一瞬にして離れる。彼女らが居た場所に、アミが風穴を空けた蟻型の死骸が無数に落ちた。

「……う、そ……」

イリーナは愕然とした。

彼女らはどちらも、自分より幼い少年少女。

なのに、自分より強い。

あんなこと、あんな量のカルネイジを殺すなんて、イリーナには到底出来るはずがない。

十分対応できている。

自分の出る幕なんて、ない。

「イリーナ、手伝っ――――――」

「……無理。アタシには……無理」

「…………まぁ、いい。人手は足りてる。イリーナが戦いたくなければ、無理にとは言わない」

そう言って、アルマは意識を戦闘へと向ける。

そうだ。

イリーナは、所詮そんな存在だ。

居れば戦いに参加させるが、居なくても別段問題はない存在。

一体何なのだろう。

自分の存在する意味とは、何なのだろうか。

体育座りで、コントロールルームの端に座り込む。

駆動する『クリムゾン』に揺られながら。

イリーナは、瞳を閉じた。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



次に目を覚ましたのは、月が辺りを儚く照らす時間帯。

つまり夜だ。

「……ん、ぁ……」

「目、覚ました?」

突然、目の前に赤い少女が現れる。

「わっ、びっくりした」

「戦闘、終わった。圧勝。今は壁の上で休んでる」

「壁って……発電塔の防護壁?」

イリーナが聞くと、赤い少女アルマは軽く頷く。そういえば、と後ろを振り返ると、そこには残骸となった発電塔があった。

塔は根元付近がヒツユの爆発のエネルギーによって欠け、そのままイリーナ達がいる場所とは反対方向に倒れている。そして倒れた場所の壁は半壊しており、そして倒れた衝撃からか、発電塔はそこから先がポッキリと折れていた。何千メートルもあろうかという太陽光パネルで造られた塔が倒れている様は、幾日かしか経っていないのに、まるで古代文明の遺跡のような雰囲気すら帯びている。

「……そうか。……ロボットの街は、滅びたのね……」

「……うん。ナツキも姉さんも、みんな居なくなった。アルさんも、後一ヶ月くらいでエネルギーが切れる」

「そう、なんだ……」

軽々しく、そんな事実を聞かされる。

対して、アルマは大して重く考えてもいないようだった。

「死ぬ……のよ? 怖くないの?」

「別に。怖いなんて感情、アルさんは知らない。それに、どうせこのままバッテリーが続いていても意味が無いし、目標だって無い。だったら止まっていた方が、効率的」

「……そっか。そうよね」

そうだ。

あくまでも、彼女はロボット。課せられた使命を果たす為に生まれた、ただの機械なのだ。

彼女の使命は、発電塔の死守。それが達せられず、最愛の姉も居なくなった彼女は、生きている方が酷なのかもしれない。

「でも。イリーナはバッテリーのシステムが違う。発電塔無くても、動いていられる」

「……そうよ」

「だから。あの二人は、イリーナが守って」

「え?」

そう言って、アルマは指を差した。

そこに居るのは、二人の男女。ただし、二人ともただの人間ではない。一人は猫耳と長い尻尾を身に付け、もう一人は狐耳と狐の尾を生やしていた。

しかし。

彼らは一端の人間と同じ様に、楽しげに会話をしていた。

「……そういえば、あの二人は誰? どんな関係なの?」

「知らない。どうせ知ってもアルさんに関係ないし。イリーナが聞けばいい」

「ま、そりゃそうよね」

当たり前だろう、と割り切った彼女は立ち上がった。そして、その二人へと近付いていった。

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