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再喪失

聞く者を戦慄させるような声を上げながら、兜虫型カルネイジはその角を振り回す。

狙いは兎型カルネイジと化したネロ。

ネロの意志を継いだカルネイジ。カルネイジとなりながらもネロの強い意識が染み込んだ怪物は。

その拳を。



兜虫型カルネイジへと、向ける。



砕けるような音。

いわゆる破壊音。

次の瞬間、兜虫型の身体が揺らぐ。そう思うと、その巨体は機械の街へ吹き飛ばされていく。

「……ネロ、ちゃん」

それに呼応するように、兎型は雄叫びを上げる。まるで、その呟きに答えたかのように。

本来、兎に声帯は無い。雄叫びはおろか、声を上げる事すら出来ないハズなのだ。

しかし、兎型はそんな事を気にしていないのか、はたまたカルネイジだから関係無いのか、えらく攻撃的な声を上げる。

が。

その声は、掻き消される。

何故か。兜虫型カルネイジが、低空飛行で突進してきたからだ。

兎型はその突進をスレスレでかわし、その巨体を掴み上げる。相当なスピードが出ていたハズなのに、それをやすやすと。

「ネロが……助けてくれてる……?」

ヒツユが掠れるような声で囁く。

「……あいつ、無茶しやがって」

カノンはチッと舌打ちするが、その顔は確かに感謝に満ち溢れた顔だった。

「レオ! ヒツユ! あいつの助けを無駄にしちゃいけねえ‼︎ここから逃げるぞ‼︎」

「でも‼︎」

「レオ、お前が居たってネロの邪魔になるだけだ。あの戦いにお前が割って入れば、ネロはお前を守りながら戦わなくちゃならない。そしたら、あいつを死なせる事になるかもしれねえんだぞ‼︎」

カノンは切羽詰まったような表情で叫ぶ。が、その言葉には、確かに説得力があった。

だが、これでいいのか。

助けられるのではないか。

自分に宿った、この力で。

彼女を、救う事が出来るのでは。

――――――だが。

「……ごめん、ネロちゃん」

そう言って。

レオは。

彼女に、背を向けた。

今のレオに、戦う力は無い。

武器もない。

素手であの怪物に挑む?

無理に決まっている。

だから。

――――――逃げたのだ。

それは、ヒツユも同じ気持ちだった。

自分には戦う為の、戦うしか脳のない力があるはずなのに。

なのに。

目の前の戦いは、あまりにスケールが違い過ぎる。

単純に大きさの問題で、ヒツユ達には手に負えない。

何の為にこの力があるんだ。

自らを傷付けてまで手に入ったこの力は。

こんな事態の時に、役に立つのではないのか?

「……ぐ……!」

一瞬。

彼女の周りの空気が、熱を帯びた気がした。

(ヒツユちゃん……⁉︎)

レオはそんな彼女を見逃さなかったが、声を掛ける事など出来なかった。

人間だったものを、一人犠牲にしているのだから。

そんな彼らを横目で見ながら。

兎の化物は、微かに笑っていた。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「っ……ぐあぁッッッ⁉︎」

アルマが悲鳴を上げる。

『クリムゾン』が、尾の一撃によって大きく弾かれた。それは簡単に宙を舞い、ロボットの街へと叩きつけられる。

機械の営みが。

機械が創り上げた世界が。

いとも簡単に、滅びてしまう。

ビルは倒壊し、次世代の空中道路は跡形も無く崩れ落ちている。辺りには死んだようなロボット、その数多の残骸が転がっており、まるで機械で再現した地獄絵図のような有様だ。

しかし、アルマはそんな現状に目を向けてはいない。

そんな余裕がない。

刹那、ギギギギギギッッッ‼︎‼︎‼︎ という擦れ合う音が響き渡る。

九尾型デストロイの尾と『クリムゾン』の刀が擦れ合っている。

倒れて態勢を崩したところに、振り下ろすような一撃を入れる九尾型。その行動は俊敏かつ、全てを破壊するようなパワーに満ちていた。

『アルマ‼︎』

通信に悲鳴のような声が入る。軽く発狂しているような、そんな震えた声だ。

無理もない。あの一撃以来、未だに身体に攻撃を掛ける事が出来ていないのだから。

そんな意味合いのこもった悲鳴から放たれる一撃は。

あっけなく、消える。

『アルビノ』が放った尾を刈り取るような回転を掛けた刃は。

「――――――ッ⁉︎ 姉さ……‼︎』



九尾型がコクピットを貫く事により。



無力化された。

『――――――え』

一瞬、クラルは理解出来てなかったようだった。

自身の背後に迫る、ドリルのような九本目の尾に。

自身が貫かれる、なんて。

中心部を貫かれた『アルビノ』は、まるで痙攣しているかのようにガタガタと震え、そして。

――――――停止した。

「……あ?」

呻くアルマ。

その目の前には、まるで貼り付けにされた罪人のように力無く垂れ下がる機械の腕。

その手から、刀が落ちた時。

「……あ……あ……あ、」

真紅の機械は。

まるで、貫いた怪物と変わらないような挙動を見せる。

その中に収められた少女の機械は。

発狂し。

泣きはらし。

号哭を、響かせる。



「……あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああアアアアアッッッッッッ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」



瞬間。

『クリムゾン』の関節部やその他、装甲と装甲の間が白く発光する。ギギギ、と嫌な音を掻き鳴らし、その真紅のロボットは再び動き出す。

アルマの怒りを、原動力として。

ギャギャギャッッッ‼︎ と。

足元のローラーを異常回転させ、身体のブースターをも最大出力で噴出させる。そして、刀は身体と同じような光を帯びて展開し、長さを得る。

全て。

全て、アルマを糧として。

後先考えない、怒りに任せた一点集中。

何処から出たのか、まるで野獣のような咆哮を上げた『クリムゾン』は。

その勢いのまま、九尾型の身体を



瞬間、『クリムゾン』の右腕を、九尾型の尾が刈り取る。



「……ッッッ⁉︎」

その時、九尾型は。

確かに、笑っていた。

まるで、自我を失うタイミングを狙っていたかとでも言うように。

その時気付いた。

このカルネイジは特殊だ。

戦略を考える事が出来る。そこらの雑魚とは違う。

が、気付いた時には遅かった。

目の前に、八本の尾が襲って来ている。

(姉さん……ごめん、なさい)

もはや、諦めていた。回避できるワケがない。

(アルさん……駄目だった……)

その瞳を、閉じた。



「アルマァァァァッッッ‼︎‼︎‼︎」



「ッ⁉︎」

信じられなかった。

先程まで全くの無言だったイリーナが。

コクピットの横から割り込み。

その腕で。

彼女には理解出来ないであろう、非常用のコントロールパッドを。

操作し始めたのだ。

結果。

『クリムゾン』は、再び動き出す。

一本目の尾。

ブースターを利用し、回転するように回避する。

二本目。

『クリムゾン』自身に跳躍行動をさせ、その尾をかわす。

三、四、五本目。

空中の『クリムゾン』を狙った三本。最初の一本をブースターを噴かせてかわし、それに手を乗せる。二本目は手だけの着地から放し、更に跳躍することで回避。三本目は、上手く尾の背面に脚をつけ、ブースターの力とローラーの急速回転で移動していく。

六、七本目。

交差するような二本は、回避が難しくない。一度跳躍するだけで、二本とも避けることが出来た。

そして、最後の八本目。

「アルマ。叫びたいのは、アンタだけじゃないのよ」

「っ……‼︎」

「あの機体にはナツキだって乗ってた‼︎ けどコクピットごと貫かれれば、生き残れるワケがない。……『失った』のは、アンタだけじゃない。ましてやアタシはこれで二回目。もう悲しいを通り越して呆れてるわよ」

本当にそうなのかは分からない。

アルマの位置からは、イリーナの表情が把握出来ない。

ただ。

そのコントロールパッドに、何かが落ちた気がした。

「だけど、そんなこと言ったって仕方ない。それにアンタが壊れたって、死んだって、クラルが許してくれるワケがない‼︎」

「でも……」

アルマの心が揺らぐ。

それに呼応するように、『クリムゾン』のブースターが出力を失う。

八本目の尾をほぼ横倒しの状態で掛けていた『クリムゾン』は、そのまま虚空へと落ちる。

「アンタ……クラルの仇を取りたくないの⁉︎ ここで死んでもいいなんて、そんなこと思ってるの⁉︎ そんなんなら……アンタだけで死になさいよ‼︎」

「なっ……⁉︎」

「アタシはナツキの仇を取る。ナツキだけじゃない、カイトのだって。その為には、この地上のカルネイジを全て滅ぼす為には……こんなとこで死んでられないのよォォオオオオオオオオオオオオオオッッッ‼︎‼︎」

復讐に燃える彼女は。

完全に沈黙し、疲れ切った機械に対して。

心無い、辛辣な言葉を述べた。

だが、それは返ってよかったのかもしれない。

(姉さん……)

そうだ。

この心に、機械の心に燻る復讐心は。

こんなところで潰えていいハズがない。

(アルさんは……アルさん、は……)

死んだ姉の為にも。

こんなところで。

消えたくはない。

(……あいつを、姉さんを殺したカルネイジ全てを――――――殺す‼︎)

復讐心は。

もしかしたら、一番力を発揮出来る感情なのかもしれない。

だって。

精密機械の塊であるこの『クリムゾン』を、その復讐心だけで動かしているのだから。

「イリーナ……」

「……?」

「アルさんも、こんなところで……死ねない……‼︎」

「……‼︎」

小さく驚いたような表情を浮かべるイリーナ。しかしその表情に、すぐさま笑みが重ねられる。

そして。

アルマは、その顔に僅かな笑みを貼り付けた。獰猛な、猛獣のような笑みを。

コントロールポッドのチェア、その肘掛け部分に掌を強く押し付ける。

その憎しみに反応するかのように。



『クリムゾン』は、空中にて制御を取り戻す。



ブースターは再起動。噴出によって姿勢制御が働き、降下するだけの鉄の塊ではなくなる。

緩んでいた鉄の右手は力を取り戻し、朱色の刀を強く握り直す。その重量を無視した、ただ『力』だけを追い求めた大剣は。

九尾型デストロイの遥か上空で。

赤い。

紅い。

朱い――――――牙を剥く。

もちろん、九尾型も黙ってはいない。

避けられた九本の尾を全て使いこなし、『クリムゾン』を叩き潰すかのようにそれを覆う。

が。

「「このクソ汚ない野狐(のぎつね)が……」」

九尾型は察する。

その赤い、しかし九尾型からすれば塵にも等しい機械人形から。

いや、その内部から発する。

彼女らの、決意を。

復讐を果たすために、牙を剥くアルマ。

極めて馬鹿にしたような笑みを浮かべるイリーナ。

そんな彼女らがロボットだったからか、同じ機械を操っていたからか。

思考、主に言葉の部分で。

――――――同期した。



「「地獄に落ちろォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ‼︎‼︎」」



雄叫びは。

きっと、機械の装甲を越えて。

九尾型の耳に、届いていたのだろう。

何故なら。

その怪物は。

どこか余裕げな顔をしていた。



が。



その首は、『クリムゾン』の大剣によって斬り落とされた。




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