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赤き鋼鉄の人形

ゴドンッッッ‼︎ という音で、彼女は目覚めた。

「っ……? あ、れ」

「やっと起きた。遅すぎ」

「あ、アルマ……?」

目覚めたイリーナは、こちらへ背中を向けて座っているアルマを視界に収めた。

イリーナに声を掛けた彼女はいつもより少しだけ饒舌で、感情が現れていた。

「こ、ここは……」

「非常用人型戦闘ロボット『クリムゾン』のコントロールルーム。ホントはアルさんしか入れない。でも危なかったからお前助けた」

「戦闘……ロボット……?」

イリーナは辺りを見回す。

意外と窮屈な部屋で、大きさで言えば飛行機の操縦室を少し小さくした感じ。中心にアルマが座る操縦席、そして辺りにはイリーナが見てもちんぷんかんぷんな機材が大量に設置されていた。

そして。

『イリーナさん、大丈夫ですか?』

「クラル! 何処から?」

『今あなたが乗っている「クリムゾン」の兄弟機である「アルビノ」からです。こちらにはナツキも回収していますよ」

「そ、そうなの……よかった……」

音声だけの通信であるため不安感が拭えないが、とりあえずは大丈夫なのだろう。イリーナは安堵する。

するとアルマが、

「危ない。どっか捕まってて」

「へ? ってきゃあああああああああああッッッ⁉︎」

突如、コントロールルームが振動する。それ自体が傾き、イリーナは色々なところに身体を打ちつける。

「な、何すんのよ‼︎」

「今戦ってる最中。コントロールルーム揺れて当たり前。用意してないお前が悪い」

「くっ……」

イリーナには分からないが、実際には五メートル近いロボットが戦っているのだ。そして彼女はそれの中で、身体を固定すらしていない。当たり前と言われれば当たり前なのである。

彼女らが搭乗している『クリムゾン』は、案外古典的な方法で戦闘をするマシンである。

フォルムは、猫背気味の上半身に逆脚の下半身。全身は赤く塗装されている。

そして左腕に丸い盾、右腕にはロボットの大きさと同じ程の大剣。

脚部にはローラー、身体のあちこちには姿勢制御も兼ねたジェットパックも装備してある。これにより、『クリムゾン』はまるで地面を滑るような動きが可能になるのだ。

そして。

そんな戦闘兵器である『クリムゾン』は、現在カルネイジと戦闘していた。

相手は巨大な蜘蛛クモ型カルネイジ。見るものを刺激するようなカラーリングの身体に、特徴的な四対の脚。大きさは『クリムゾン』と比べて少し小さいくらいだ。しかし動きはすばしっこく、中々攻撃を加えることが出来ない。

「くそっ‼︎」

苛立ちを露わにしたアルマは、『クリムゾン』の脚部のローラーを急速に回転させる。結果物凄い速度で加速した『クリムゾン』は、一瞬にして蜘蛛型の後ろへと回り込む。そしてその手にある巨大な剣を持ち上げると、蜘蛛型の反応を待たずに振り下ろす。

が、蜘蛛型も蜘蛛型でみすみすやられる訳が無い。口から糸を吐き、そこらの建物へとくくりつけると、それを縮めて大剣の一撃を回避する。

しかしそれだけでは『クリムゾン』の攻撃は終わらない。

彼女はまたもやローラーを急速回転させると、一気にカルネイジとの距離を詰める。カルネイジがいるのはビルのような巨大な建物の壁。だが、ここからならば大剣の一撃で充分届く。何しろ、大剣を真っ直ぐ伸ばせば10メートル程の高さまで届くのだから。

「死ねッッ‼︎」

アルマがそう叫ぶと、呼応するように大剣が叩きつけられる。

その、蜘蛛型カルネイジの身体に。

蜘蛛型の方も急には反応できなかったようだ。大剣を叩きつけられたそれの身体は爆散し、内臓や汚い体液がブチまけられる。

「……っ……」

アルマは忌々しげな顔を浮かべる。彼女の思った通りに動く『クリムゾン』は、その真紅のボディに付着した蜘蛛型の成れの果てを振り払う。

「気持ち悪い。こんなのいなくなればいいのに」

「相変わらず性格悪いわねアンタ……」

「うるさい。助けてやったんだから感謝する」

「うっ……」

色々と言いたい事はあるが、助けてもらったのは紛れもない事実だ。そこに対してどうこう言う権限など、イリーナは持ち合わせていない。

「クラル、状況を教えて」

『はい。このロボット街に九つの尾を持つ巨大な狐型カルネイジが現れました。更に他のカルネイジも多数現れており、街は大パニックです。現在掃討作業が出来ているのはアルマとあなたが乗っている『クリムゾン』、そして私とナツキの乗っている『アルビノ』だけです』

「二体だけ? 少なくない?」

『そもそもここにカルネイジなんて出て来るわけ無かったんですから当然です! この街に出入りするにも地上と繋がっている通路を抜けなければならないハズなので、そんな巨大なカルネイジなど現れるワケがなかったのですが……!』

「じゃああのクソデカいカルネイジはどうやってここに……?」

イリーナは考えを巡らせるが、状況を満足に把握出来ていない彼女に答えが分かるハズがない。結局、今の彼女に出来る事など無いのだ。

「ねぇ、アルマ」

「何」

「なんで今回は中途半端なテンションなのよ。アンタ今まで1か100のどちらかだったのに」

イリーナが聞くと、アルマは脳内で『クリムゾン』の操作をしながら答える。次に襲ってきたのは蟷螂カマキリ型カルネイジだ。大きさは『クリムゾン』と同じくらい。

「今まではあの操縦室でアルさん戦ってた。あの場所なら戦闘以外にも制御を回しながら戦えた。でも今回は違う。スパコンに制御を半分任せてる。だから今こうして戦えてる」

そう言いながら、彼女は戦う。蟷螂型カルネイジの鎌を回避し、もう片方からの鎌を大剣で防ぐ。

「だから半分のテンション。それに、制御が追いつかないし、この『クリムゾン』自体のエネルギーを削減するために、レーザーとかの遠距離兵器も使えなくしてる」

『クリムゾン』はジェットパックを噴出させる。その勢いで身体を回転させ、遠心力をかけて大剣を横に振るう。しかし蟷螂型は全く同じ動き、正確に言えば180度回転させた動きで相殺する。

「もしエネルギーが無くなったら再補充に時間が掛かる。だからなるべく節約しなくちゃダメ。だからこんな古典的な攻撃方法に頼ってる」

縦に振り下ろされる鎌。『クリムゾン』はそれを盾で受け流し、その勢いのまま大剣を突き出す。

それは蟷螂型の心臓を一発で貫き、葬る。『クリムゾン』が大剣を振り払うと、死体となった蟷螂型カルネイジはそこらへ投げ飛ばされた。

「これで分かった? 目標はあの狐型。あいつはカルネイジの全軍を統率してる。どんな力を使ってるか知らないけど、倒せば指揮系統は乱れ、掃討が楽になる」

『クリムゾン』が大剣を向けた先には、九つの尾を持つ巨大な狐型のカルネイジがいた。より正確には、カルネイジを統率する者――――――デストロイ、なのだが。

「あらかた邪魔なカルネイジはアルさんと姉さんで倒した。後はあいつ倒すだけ」

そういうアルマの顔は、僅かだが憎悪の色に染まっていた。大切な平和が失われ、それを悔やんでいるかのように。

そんな時、イリーナはふと考えた。

「アンタ、さっきから随分派手に戦ってるけど……街の被害とかは大丈夫なの?」

「さっきスパコンである『-arma-』から情報一斉受信の信号を送った。今スパコンの中には、この街の住人全ての情報と個体識別番号がバックアップされてる。だからもし街を荒らしてロボットを破壊したとしても、また製造し直してデータを再受信させれば大丈夫」

「……ま、ロボットらしいっちゃロボットらしいわね」

「それより今はあいつ。早く倒す」

その時、クラルの声がコントロールルームに木霊こだました。その声が情報を伝えるべき相手は、アルマだ。

『……行くわよアルマ。早いことあの化け物を倒して、みんなを助けるのよ』

「分かってる。あいつ倒したら……褒めてくれる?」

『もちろん。だから、ね?』

「うん。アルさん、頑張る‼︎」

同じタイミングで、『クリムゾン』の隣に『アルビノ』が現れた。見た目も武装も殆ど同じ。だが真紅に染められている『クリムゾン』とは違って、『アルビノ』のボディはどこまでも白かった。

まるで、クラル自身を強調するかのように。



血のように赤く染まった『クリムゾン』。



雪のように白く染まった『アルビノ』。



二体の戦闘用ロボットが、一体の巨大デストロイへと向かっていった。

この街の平穏を、取り戻す為に。

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