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逃走する少年少女

「うっさ……! なんやねんこれェッ⁉︎」

直前まで掻き鳴らしていたギターさえも落とし、ネロは若干怒り気味で叫ぶ。

レオやヒツユも耐え切れず耳を塞ぎ、カノンはその音で目覚める。

そんな中、レオが怖がりながら言う。

「さっき崩れるような音もしたし……まさか施設が崩落したとか⁉︎」

「それはないやろ。こんだけカルネイジから狙われても崩れない施設や。そんなのが簡単に崩れるわけあらへん。大体、ここの整備はロボットがやってんねやろ?」

「じ、じゃあこれは……?」

半ばパニックになりながら呟くレオ。その脚はまるで仔鹿のように震え、まともに立つこともままならない。

それはそうだ。この数ヶ月、彼女らは平和に暮らしてこれたし、武器を振るうような事態になど遭遇しなかった。

だから、最初は気付かなかった。

しかし、ヒツユはいち早くその脅威に気付いてしまう。



「……カルネイジだ……」



「「「ッ⁉︎」」」

他の三人が血走った目でヒツユを見る。

思い出したくなかったその名。

全てを蹂躙する、人類の敵。

慈悲の無い、存在だけで脅威となってしまう怪物。

それが今、彼女らを襲おうとしているのだ。

一番に否定したのは、カノンだった。

「そ、そんなハズないべや‼︎ だって、今まで一度も侵入してきたことないんだろ⁉︎ ……だよな?」

「そのハズや。過去に人間の抗争は何度かあったみたいやけど、それもすぐに鎮圧されてたらしいし、今更そんなことあるわけ……痛ッ⁉︎」

次の瞬間、ネロが腕を抑えながら呻きだした。かなり辛そうにする彼女に、レオが慌てて駆け寄る。

「ど、どうしたの⁉︎ 大丈夫⁉︎」

「だ、大丈夫や。なんか手が急に……」

「それ、カルネイジに噛まれたって言ってたとこじゃ……」

「大丈夫や。それより、これからどうするん? 今のウチらは丸腰や。何か武器さえあれば何とかなりそうやけど……」

その言葉を聞いた瞬間、ヒツユとレオは顔を見合わせる。何やら気持ち悪い汗を流しながら、二人はゆっくりと口を開く。


「そ、そういえば……」

「武器って……どこにやったっけ……?」


そう、彼女らはここに匿われた時、武器を回収してもらったハズだ。いや、というよりそもそも回収されたかどうかも微妙なのである。

何せ、彼女らは回収時気絶していた。そもそもどんな方法で回収されたかもわかっていない。

「「ど、どうしよ……?」」

「ウチらに聞くなや……」

「俺達が知ってるわけねーだろ……」

ハァ、と四人が溜息をつく。現状では、彼女らには何も出来ない。

だが、そんなことをあの怪物達が考慮するハズもない。

ドゴォッッ‼︎‼︎ という轟音と共に、ネロ達がいた大部屋の壁が破壊される。

「くっ……嘘だろッ⁉︎」

カノンが小さく呻く。そこからは数百を超える量のカルネイジがなだれ込んで来た。

その中の一体、巨大な熊のようなカルネイジが、カノンに攻撃を繰り出す。その鋭い鉤爪で、彼を引き裂こうとしてくる。

「うそ――――――」

「危ないッッッ‼︎」

その鉤爪に対して、レオは身体を飛び込ませる。爪は彼の脇腹辺りに深く食い込み、鮮血が噴き出す。

「――――――がッ‼︎」

「レオッッッ‼︎」

カノンが叫ぶが、手を出すことも出来ない。すると、ヒツユが熊型カルネイジに向かっていき、その頭部を蹴り飛ばした。

その力強い蹴りに耐え切れず、熊型の頭部は宙を舞う。力を失った鉤爪にレオを拘束できるわけもなく、彼は貫かれた爪を無理やりに引き抜いた。

「あッ……が、はッ‼︎」

「レオ‼︎」

カノンとネロが慌てて駆け寄る。しかしレオは彼らを片手で静止し、無理やりに立ち上がる。

「だ、大丈夫……僕は、大丈夫ですから……」

「んなわけねぇだろ‼︎ 早く介抱しないと――――――」

その時だ。

レオの欠けた脇腹から肉が盛り上がり、骨と筋肉が現れ、元の肉体を構成する。ものの何秒かで、彼の身体は再生してしまった。

「お、お前……なんで……」

「っ……今は関係ありません‼︎ 早く逃げましょう‼︎ ヒツユちゃんも早く‼︎」

「うん‼︎」

ヒツユは熊型カルネイジの死体を持ち上げ、他のカルネイジに投げ飛ばす。まるでドミノ倒しのように、次々と倒していた。

カルネイジには強大な力があり、壁を壊すなど容易い。が、この施設は彼女らが思っていたより強固だった。結果カルネイジ達は通路を馬鹿正直に通るしか出来ない。ヒツユはそれを見越して、熊型カルネイジを投げ飛ばした。

あの狭い通路なら、避けることも出来ないのだから。

(……きっと足止めは出来たハズ。早く逃げなきゃ……‼︎)

ヒツユは三人に駆け寄る。レオと視線を合わせ頷くと、ヒツユはネロ、レオはカノンを背中に背負って走りだした。

「しっかり掴まっててよ‼︎」

「え、あ……ってわああああああああッッッ⁉︎」

「行きますよカノンさん‼︎」

「待て、あれをやるのかうおあああああああッッッ⁉︎」

搭乗者二人の悲鳴が施設内に響き渡るが、ヒツユ達には気にする余裕すら無かった。そのまま全速力で、施設を駆け抜ける。

しかし、その内ヒツユは思い出す。

(……アミ‼︎)

と、その時。

劈くような轟音と共に、彼女達の後ろの壁が崩れていった。

「「「「ッ⁉︎」」」」

四人は目を見開く。

あれだけ強固だと思っていた壁が、いとも簡単に崩れていったのだ。

厚さで言えばまだ少ししか壊されていないが、それでもこれではすぐに破壊されてしまうだろう。

だが、彼女らが驚いたのはそれだけではなかった。

何故なら。

目の前の壁を壊したのは、何もカルネイジ達による物量ではなかった。

一本。

そう、たった一本の腕に、破壊されたのだ。

「……あ……」

ヒツユが思わず呻く。

そこには。



――――――九本の赤い尾をなびかせた、巨大な狐がいた。



信じられなかった。

思わず二度見してしまうほどの巨体。全長だけで何百メートルは軽く超えており、高さは五階建てのマンションくらいある。以前戦った狼型カルネイジを軽く超える巨大な身体に、ヒツユは戦慄する。

「こ、こんなの……‼︎」

勝てるわけがない。

逃げられるわけがない。

だって、あの紅い目に狙われたら。

あの巨大な腕を振るわれたら。

間違いなく、彼女らは絶命する。

「ひ、ヒツユちゃん‼︎ 早く逃げなきゃ‼︎」

レオが傍らで叫ぶ。

ヒツユはその声にハッと我に帰る。再びネロを背負い、半壊しかけた通路を駆け抜ける。

しかしヒツユは気付く。

ネロのしがみつく力が、明らかに強くなっている。背負っているため顔は見えないが、きっと怖いのだろう。

仕方ないだろう。あれだけ絶対的な怪物を見せ付けられて、物怖じしない方がおかしい。

少し心配しながらも、ヒツユは前を見る。幸い前からカルネイジは襲ってこないが、それも時間の問題だろう。

その時、カノンが思い付いた様に声を上げる。

「……地下だ」

「え?」

ヒツユはそれに聞き耳を立てる。

「この地下にロボットの街があるのは知ってるだろ? 流石にカルネイジも地下には気付かないハズだ。だからそこに逃げ込めば……」

「で、でもアミは⁉︎」

そう。アミはまだ、あの部屋に取り残されているかもしれないのだ。

しかし、レオは首を振る。

「……ヒツユちゃん。残念だけど……今お姉ちゃんを助ける余裕は、僕達にはないよ。ここから階層を上がっていって、お姉ちゃんを助けてまた無事に戻ってくるなんて、僕達でも無理だ」

そうだ。いつかここにもカルネイジが溢れかえる。それを全て掻い潜り、しかも誰一人欠ける事なく戻ってくるなど、無理に決まっている。

しかし、ヒツユは首を横に振る。

「それってアミを見捨てるってこと⁉︎ なんで⁉︎ 君はアミの肉親なんでしょ⁉︎ なのになんでそんなこと言えるの⁉︎」

「僕だって助けたいよ‼︎ ……でも、それでみんな死んじゃったら元も子もないじゃないか‼︎」

「っ……‼︎」

ヒツユは納得出来ずに歯噛みする。

しかし、ここでアミが死んでしまっては死んだレンに申し訳が立たない。

何より。

ヒツユは、アミに死んで欲しくはなかった。

(……私を慰めてくれたのはアミだった。一番早く受け入れてくれたのもアミだった。……なのに私はまだ、アミに何もしてあげられてない‼︎)

アミの過去なんて知らない。

アミがどんな人間だったかもわからない。

でも。

それでも彼女は、ヒツユに一番近い人間の一人だ。

仲間とも友達とも呼べる、少ない中の一人だ。

だから助けに行きたい。

もう一度、あの笑顔を見たい。

なのに。

「……ごめん、アミ」

歩を進める。

ヒツユが向かいたい方向とは逆の道を。

レオと、ネロやカノンと同じ向きに。

震える脚で、駆け出してしまった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



収縮する。

五階建てのマンション程もある巨体は、人型になるように縮んでいく。

やがてそれは、見慣れたようで違う存在へと化していく。

「……あはっ。人間共はあらかたカルネイジ化しちゃったしなぁ〜どうしよ〜」

狐の尾が生えた人間。狐の耳が生えた人間。

ただ、元の主の姿とはまた違う。

その長い髪は真っ白に染まり、黒かった瞳は真紅へと変わっていた。

そんな『神崎亜美だったそれ』は、バウムクーヘン状の施設の何処かで囁く。

「次は下も攻めてみますか♪」

一瞬にして彼女の姿は消える。

次に現れたのは、中心にある塔の前だった。

そう、『発電塔』と呼ばれる巨大な太陽光発電塔である。雲を突き抜ける程の巨大な塔の根元には、透明なドアがあった。が、もちろん侵入者を入れない為、簡単に開く事はない。

この扉はロボットの街に住んでいるロボットに標準装備されたセンサーに反応して開くようになっており、彼女に開けられる訳がなかった。

――――――ハズなのだが。



鋭い一撃が、ドアの真ん中に突き刺さった。



「うわ、脆いなー」

それは彼女から出た尻尾だった。ただし先は鋼鉄の様に硬くなっている。

そして、ただの一本だったそれに亀裂が入り、九つに分かれていく。こじ開ける様に広がっていったそれは、ついにドア自体を破壊してしまった。

揺らぐ尾を再び一つにまとめ、九尾型カルネイジであるアミは笑う。

「人間だけじゃ物足りないからね」

そして、彼女は進む。

機械が全てと化した地下の世界へと。

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