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変わった展開

――――――ある日。

カイトは、頬に青あざを抱えたまま登校してきた。

「いつつ……」

「あ、アンタどうしたのよ。階段から転げ落ちたりしたの?」

「あ、ちょっとね。ま、あんまり対した事無いよ」

「ふーん……」

イリーナは興味無さげに頬杖をつき、携帯をいじりだす。

「そろそろ先生来るから仕舞った方がいいんじゃない?」

「いーのよ別に。あいついっつも遅いし」

「……それにしても、イリーナはずいぶん変わったなぁ」

「ん?」

「いや、だってここに来てすぐはなんかするのにも緊張してたし、そもそもカタコトだったしさ」

「慣れたって事よ。いい事じゃない」

「悪い方向に慣れてしまったのか……」

カイトはヤレヤレと溜息をつき、顔にてのひらをかざす。どうやら彼女のキャラ改変ぶりに呆れているようだった。

「てか、そういやアンタ」

「ん?」

「携帯とか持ってないの? アンタが使ってるトコ見たこと無いんだけど」

「あー、持ってないんだ俺。あんまり使わないだろうからね」

「そういやアンタぼっちだもんね。そりゃお金の無駄だわ」

「言い様が酷い……」

コホン、一つ咳払いを入れ、カイトは反論する。

「いいかい? 俺は君や他の人みたいに暇じゃないんだ。日々家計を支える為に……」

「何言ってんのよまともに勉強もしないクセして偉そうに」

「だから勉強する間も惜しんで働いて……」

「そんなんだから友達付き合いも悪くなってぼっちになるのよ。程々なくらいはしときなさいよ」

「……イリーナに言われたくないなぁ……」

カイトはジト目でイリーナを流し見る。

「うっ」

「君、クラスの女子に相当嫌われてるみたいじゃないか。男子からは人気みたいだけど」

「ううっ」

「しかも男子からもスタイル良いとは言われてるけど性格は最悪っていう噂じゃないか」

「……だ、男子って身体しか見ないから最悪よね」

「話逸らさない。そんな君が僕を馬鹿にするのは少々許せないんですが」

いつになく強気なカイトに、イリーナは少々戸惑う。しかし、

「うっさいわね黙んなさいよこの馬鹿」

「……すいません」

所詮小心者である。イリーナが少し強く言うと、彼は不服そうに負けを認めた。

「……誰とメールしてんの?」

「ん? あー、バイトの店長。結構仲良いのよ」

「中学なのにバイト……?」

「店長とご近所さんなのよ。ゴミ捨てとかで仲良くなって、なんか仕事ないかって聞いたら、手伝いでいいからやってくれたら給料くれるって言ってくれてね」

「ふーん」

「なんか人手が足りないらしいのよね。スーパーみたいなとこなんだけど、地域の高齢者とかの行きつけらしいのよ。ちょうど労働力が欲しかったらしいわね」

「……そこで働こうかな……」

「⁉︎」

めずらしく真剣な顔付きになったカイトは、本気っぽいトーンでそんな事を口走る。

「な、あ、アンタなんか要らないわよ!」

「いや俺、前に親戚の仕事手伝ってお金貰ってたんだけど、そこが潰れちゃったんだよ。今はアテもないし、そこで働かせてもらえるとスゴくありがたいんだけど……」

両掌を合わせ、済まなそうに頼み込むカイト。イリーナは少し考え込み、やがて大きな溜息と共に決断する。

「……しゃーないわね、店長に聞いといてやるわよ。でもあんまりアテにしないでよ?」

「ありがとう! やっぱイリーナは優しいなぁ!」

「んなっ、そ、そんなお世辞で釣ろうったって……」

しかし彼女の意思とは裏腹に、頬が緩んでしまうイリーナ。どこかでカイトと一緒に働けるかもしれない事を、期待していたのかもしれない。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「いいよ! 全然オッケー!」

「ありゃりゃ」

店長の思いがけない承諾に苦笑いのイリーナ。一方店長は手駒が増えるとでも言わんばかりの黒い笑顔を浮かべている。

「給料も大丈夫、ちゃーんと払うよ。実際イリーナちゃんには正社員と変わらないくらい働いてもらってるし。その……カイト君だっけ? も、ちゃんと働いてくれれば給料は心配しなくてよろしい」

「……ま、あいつがちゃんと働くかどうかは微妙ですけどね」

「なんで? ゲッ、まさかモンスター新人社員とか連れてくるつもりじゃ……」

「それはないでしょうけど……」

イリーナは軽く苦笑いを浮かべる。

(それにしても、この人若いのにこんな……)

目の前で笑みを浮かべる店長は、20代後半くらいの女性だった。おっとりとした、優しそうな雰囲気を醸し出している。が、仕事の時は誰よりもスピーディーなのを、イリーナは知っている。

前に聞いた話では、このスーパーを経営していた祖母が病気で倒れた際、その後を継いだのだとか。この若さでは色々とやりたい事もあっただろうに、彼女はこのスーパーに密着する事を選んだのだ。

「イリーナちゃん、でさでさ」

「はい?」

イリーナが不思議そうに相槌を打つと、店長はニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべながら、小指を上げ、

「そのカイト君とはコレなの?」

「ばっ、ち、違いますよ‼︎ んなわけないじゃないですか‼︎」

「へぇ〜、怪しいなぁ〜」

にやけながら肘をぶつけてくる店長。イリーナは少しムキになりながら、彼女から距離を取る。

「イリーナちゃんがモテないワケがないんだよなー、これだけナイスバディなのに」

「性格悪いからじゃないですか?」

「またまた〜、そんな謙遜しちゃって〜」

興味が無いように取り繕うイリーナだったが、店長にはバレバレであった。しかし客がやってくると、彼女らは話す暇も無く、仕事に追われるのだった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



そして何週間か経った頃。

「あ〜疲れた〜」

「だらしないわねー。アンタそれでも男?」

「うるさいなぁ」

時刻は7時頃。体裁上は手伝い扱いの彼女らは、正社員とは違い早く切り上げさせられる。中学生を夜遅くまで拘束するわけにもいかないのだ。

というわけで、現在イリーナとカイトはスーパーからの帰路についていた。学校から直接行っていた為、彼女らは制服を身に着けていた。

「店長さん良い人だから良かったよ。ちゃんと役に立ってたかな?」

「ま、そこそこ役に立ってたんじゃないの」

「そこそこって……」

とはいえ、カイトの働きぶりはイリーナの予想を超えていた。普段の勉強だって真面目に出来ないのだから、どうせこの手伝いだってすぐに音を上げるだろうと思っていたのだ。

しかし、彼は普段とは別人の様に身を粉にして働き、店長からの信頼もうなぎ登りだった。とても初めてとは思えない手際の良さを見せ付け、イリーナも少し張り合って頑張っていた。

レジを担当していた時、たまに客から、『あそこの彼とは仲が良いの?』と散々聞かれたが、イリーナは断固否定した。しかし、そんな時にカイトは遠くからこちらに小さく手を振り、そしてそこはかとなく微笑むため、帰路の女性には確実にあらぬ誤解をされたであろう。

イリーナがそれを思い出して悶絶していると、カイトから声が掛かった。

「それじゃ、俺はこっちだから。じゃあね」

「あ、あ……バイバイ」

そう言って彼は、三叉路からイリーナと違う方面へと去っていく。イリーナはぎこちなく手を振ると、自らのアパートへと歩き出す。

――――――が。

(……そういや、あいつん家ってどんな感じなのかしら。よっぽどじゃない限り、中学生でバイトなんかやらないわよね)

彼女は何故か、カイトの家庭環境が気になってしまっていた。

まぁ、普通はバイトなど中学生のやることではない。その為、それをおこなっているカイトについて知りたくなるのは当然の流れなのかもしれない。

そんなわけで、

(別に心配とかそんなんじゃないわ……そうよ、気になるだけよ)

イリーナは、カイトの尾行を開始した。

他の生徒と違って、彼女は一人暮らしだ。よって、帰りが遅くなっても特に不都合はない。少し乗り気の状態でイリーナはコソコソと彼の後をつけていった。

途中で何度かバレそうになるも、なんとかイリーナは尾行に成功する。

10分程歩いたところで、彼は小さめのアパートに入っていった。恐らく、ここが彼の家なのだろう。

(少なくとも裕福には見えないわね)

玄関に入るところまで尾行する。カイトが中に入り、鍵を閉めてから、イリーナは深く溜息をつく。

「……アタシ何やってんのかしら」

と。

そう呟く。

馬鹿な事で時間を潰したな、と変な後悔をしたところで、



『おらぁッ‼︎ お前こんな時間まで何処ほっつき歩いてたッ‼︎』



「ひぃッ⁉︎」

思わず悲鳴が零れた。

『だから‼︎ 今日の夜はバイトがあるって言ったじゃないか‼︎』

『あぁん⁉︎ 知らねぇよこのクソガキ‼︎ 門限守れねぇヤツは出てけ‼︎』

「な、なんか騒々しいわね……」

ドア一つ隔てた向こうから、親子が喧嘩する声が聞こえる。片方はもちろんカイトだ。もう片方は、喋り方からして酔っ払っている様だ。

親子仲が悪いのだろうか、と考えてみるが、それにしたって物々しすぎる。それに、恐らく父親であろう方の言っていることは、一貫性が無い。酒の勢いで騒いでいるような感じだ。

と。

『いいよ‼︎ 俺は今日は帰らないさ‼︎』

『あぁ出てけ出てけ‼︎ お前みたいな馬鹿息子、出てっていなくなっちまえ‼︎』

「あれ、これってまさか……」

イリーナは、なんとなくこの後の展開に危機感を覚える。

が、彼女が何かする前に、事は進んだ。



カイトが、物凄い勢いでドアから飛び出して来たのだ。



すると、当然。

「……あれ?」

カイトの目に、同級生の姿が映る。

イリーナは引きつった笑みを浮かべながら、

「……こ、こんばんは」

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