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戻る事の出来ない自分、破った約束

その頃。

ネロ達がいる発電塔防壁の遥か下では。

――――――負けられない戦いが、繰り広げられていた。

片方はガチガチに武装し、見たこともないような銃火器を幾つもぶら下げている。それを差し引いてもその筋骨隆々としたボディは、見るものを圧倒する。

対してもう片方は、忍者のような格好をしていた。と言っても時代劇に出るような古風なモノではなく、まるでサイボーグのような感じ。顔は近未来的な仮面で隠されており、腰には小刀が一対収められていた。

そんな二人が、それぞれの力量を最大限に発揮して競い合っていた。

先にサイボーグ忍者が飛び出した。

対となっている小刀を逆手で持ち、武装した男に襲い掛かる。あわやその刀が男の首を掻き切るか、という所で、男は背中から巨大な太刀を抜刀。小刀は弾き飛ばされるが、忍者は男の腹を蹴り、大きく後ろにバク宙する。

再び距離が離れたところで、今度は武装した男が攻撃に転ずる。

彼は太刀を納刀すると、背中からアタッシュケースのようなモノを取り出す。それを開いた瞬間、まるで飛び出す絵本のように巨大なガトリングガンが現れる。

瞬間、全長が二メートル程もある巨大な銃火器が火を吹いた。空薬莢がバラバラと地面に落ちていき、それと比例して弾丸が忍者の方へと向かっていく。

しかし忍者も動じない。突如、彼の身体中の装甲が僅かにスライドし、小さな隙間を作ったかと思うと。

そこから溢れんばかりの光が漏れ出した。

それからの彼は別人のようだった。

飛んでくる銃弾を全て回避する。しかもそこから一切移動せず、身体を柔軟に捻じり、曲げ、スレスレで避けているのだ。

激昂した武装男は、武装の中から片手銃をニ丁取り出し、さらに発砲を繰り返す。しかし忍者には当たらず、ついに彼は最終手段に出る。

ポーチから赤いラインの入った球体を幾つも取り出す。数十個は軽く超えているだろうその球体は、男に投げられた後、重力に逆らって宙に浮く。

男はニヤリと笑うと、腕を軽く振ってサインをする。

その瞬間。


球体の大群が一斉に忍者を包囲し、レーザーを放っていった。


所謂いわゆるレーザーピットというヤツである。使用者の指示に従い、自動的に対象を一斉射撃するシステムだ。

忍者は射撃をかわしていくが、なにぶん数十個にも及ぶ兵器に包囲されているのだ。大きな身動きは出来ない。

そして武装男は隙を狙い、ロケットランチャーを放つ。すぐさま発射されたそれの狙いは忍者ではなく、その足元だった。

つまり、直撃を狙うのではなく、爆発による四散を狙う。

それは忍者に避けられるわけもない。

――――――刹那。


忍者の居た所が、ピットもろとも大爆発を起こした。


武装男はガッツボーズを決め、銃火器を収納する。

未だ煙は晴れない。が、既に勝利は確定だろう。

しかし。


突如武装男の首に、小刀が押し当てられる。

男は微動だに出来なかった。

何か動作を行う前に。

小刀が――――――牙を向いた。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「あーッ‼︎ また負けたーッ‼︎」

悔しそうな悲鳴が上がる。

半透明な画面には先程の忍者がアップで映っており、その横では忍者よりやや小さく表示された武装男が、悔しそうに足踏みしている。

そう、今の戦いはゲームだったのだ。

「あら弱いわねー。アタシこれ始めたの昨日なんだけど」

1勝19敗。

それが今日のクラルの対戦成績である。

「イリーナさんが飲み込み早すぎるんですよーっ‼︎」

「いやそれにしてもクラルは弱いわよ」

「うん同意」

「ナツキは黙ってなさいッ‼︎」

「すいません」

現在、集まっているのは四人。イリーナ、クラル、アルマ、ナツキである。

彼女らはクラル宅の居間で、浮かび上がる半透明の画面に向かって大盛り上がりしているところだった。

彼女らがやっているのは、今この街のロボット達に大人気な対戦型3Dアクションゲーム、『ワールドウォーズ』だ。元あった世界各国から代表選手が出場し、命知らずの殺し合いをするという設定。元世界各国の文化を色々な意味で履き違えている(とイリーナは思っている)ゲームであり、なんと脳内の電気信号を介して、まるで自分が本当に戦っているように感じられるのだ。

「ちなみにイリーナさん、さっきはどうやって?」

「アンタ『変わり身の術』って知ってる?」

「いえ」

何も知らないクラルの為に、イリーナが説明に入る。

「『変わり身の術』ってのは、他の物と自分を入れ換えさせられる術なの。ジャパニーズニンポーってヤツよ。で、アタシはあらかじめ、アンタの太刀と打ち合った時にもう片方の小刀をアンタの後ろに投げといたのよ」

「で、私がロケットランチャーを撃った瞬間、イリーナさんは私の後ろの小刀と入れ替わったと。さすがですね、イリーナさん」

「伊達に日本に留学してたわけじゃないのよ」

自慢気な顔で腕を組むイリーナ。

クラルは目をキラキラさせながら、更にイリーナへと近寄る。彼女は自分が知らない事を知ることに対して貪欲だ。イリーナがそれに気付いたのは、ここで暮らして二ヶ月くらい経った頃だった。

ナツキとも頻繁に出会うようになり、アルマも合わせて四人で集まる事が多くなった。ただ、未だにアルマとの心の距離は縮まっていない。

と、ナツキが不意に口を開く。

「そういえばイリーナ」

「ん?」

迫り来るクラルを顔面を押さえ付けて留め、アルマから痛い視線をぶつけられながらも、イリーナは気楽な顔で答える。



「もう、地上には戻らないの? ほら、前に地上から来たとか……」



刹那。

ナツキの身体が、部屋の端へと引き寄せられる。

「……(な、なにするんですかクラルさん)」

「……(君馬鹿なの⁉︎ せっかくイリーナさんを引きとめようとしているのに、そんなこと言ったらまた『地上に戻る』とか言い出すから……‼︎)」

ナツキを強引に引っ張ったのはクラル。イリーナの前では地上の話は厳禁の為、これ以上の失言は許せないのだ。

「……はは。いいのよ、もう」

が。

予想に反して、その声は軽かった。

クラルは一瞬彼女が何を言っているのか分からず、首を傾げる。その隙にナツキはクラルから離れ、そろそろと移動する。しかし途中でアルマに上着の襟を掴まれてしまい、結局逃げる事が出来ずに座り込む。

クラルは、ゆっくりと話を続ける。

「い、イリーナさん。いい……っていうのは……?」

「戻る気が無くなった、って事よ」

驚く程サバサバとした調子で、彼女は言う。まるで今までの未練を捨て去ったかのように。

「だって……地上に行っても何も無い。カルネイジがそこらを闊歩してるだけ。仮に『空中庭園』に戻れたとしたって、まだ独りぼっち。ヒツユがいるワケでも無い。だったら、ここにいる方が幸せじゃないかしら?」

多少の苦笑いと共に、彼女は淡々と説明する。それは確かに理にかなっているし、間違っているワケが無い。むしろ彼女の身の危険を考えれば、それが一番に違いないのだ。

が。

クラルやナツキには、どうしても気になる事があった。

ナツキが、それを口に出す。

「でもイリーナ、君は前からすごく地上に出たがってたじゃないか。それがいきなりこうなって……どうしてなの?」

そう。二人はまだ知らない。

イリーナが何の為に、ここまで戦いに執着していたのか。どうやら彼女の過去に関係している、という大まかな所しか分からないのだ。

「……あいつには悪いんだけどね。アタシ、どうしても恐くなっちゃって……結局、ここに落ち着く事を選んじゃったのよ」

「恐くなった? カルネイジが、ですか?」

クラルが聞き返す。

「それもあるけど……もっと根本的な部分で、ね。少なくとも、地上には……もう出たくないわ」

イリーナは微かに怯えた様子で呟く。ナツキはそれを見て、彼女の手に触れる。怯えた彼女を落ち着かせようと、それだけで。

「イリーナ、大丈夫?」

「なっ、あ、アンタいきなり何すんのよ⁉︎」

イリーナは明らかに驚いており、慌ててその手を引き剥がし、彼と距離を取る。

「ちょ、ひどいよ……」

「こここ、こんなになったのもアンタが原因なのよ! やすやすと手なんか握らせるモンですか‼︎」

「俺が? 原因?」

「そうよ‼︎」

彼女は眉をピクピクさせながら、憤慨している。

ただ。

その顔は真っ赤に染まり、怒っているようで時々にやけたりと、ナツキでなければ一発で分かるような特徴に満ち溢れていた。

(恋……か。フッ)

もちろんクラルはそれに瞬間的に気付く。だがナツキは鈍感さに拍車が掛かったように何も気付いておらず、アルマに至ってはもはや興味すら抱いていないという始末である。クラルはそんな現状に溜息をつくも、苦笑する。

(ま、私は関係ありませんし。陰から応援、といった形で、ナツキが気付くのを気長に待つとしましょうか)



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「おやすみなさい」

「おやすみ」

その日の夜。

いつものように三人共ベッドに寝転び、各々睡眠(そう呼んでいいのかは分からないが)をとっていた。

アルマとクラルはスリープモードに切り替わり、イリーナは普段通り瞳を閉じて眠ろうとする。

しかし、今日の彼女はなかなか寝付けなかった。昼間の事が気になっていたからだ。

「地上……か。思えば、何だってあんな必死になってたのかしら」

クラル達は既にスリープモードに入っている為、イリーナの独り言を聴く事は出来ない。

「命張って化け物倒して、そのくせ見返りなんてないのに。アタシは、ただアンタの為だけに戦ってたのよ」

誰にも聴こえてない確信がありながらも、イリーナは囁く。

「ねえカイト。今更アンタのコピーみたいなのが出て来て、それでそいつを好きになっちゃって……。アンタはさ、こんなアタシをどう思う?」

もちろん、返事など返ってくるハズもない。彼は、既に故人なのだから。

「分かってるわよ。……結局、アタシは今でもアンタに会いたいのよね。でも無理だから、代わりにコピーを好きになった……」

はぁ、と溜息を一つ。

「ホント、馬鹿よアタシは。アンタのマネキンに恋してるようなモンよね」

誰でもいい、というワケではない。

彼女はカイトが大好きだ。

だからこそ。

素材が違っても、心を寄せてしまうのだ。

例え無機質から生まれたとしても。それがまごうことなきカイトだとしたら。

イリーナは、それを変わらずに愛してしまう。

「……今日のアレは、別にアンタがどうでもよくなったワケじゃないわよ。恐くなったのよ、また失う事が」

アレ。

それは、地上に出るのを捨て、ロボット達とここでの生活を享受すること。

「コピーとはいえ、アンタを取り戻したのよ? 大好きだったアンタを。それをまた失うなんて……耐えられない。地上うえには、目的も、幸せも、何一つありゃしない。それなのに戻るなんて、無理よ」

それとも。

「……単に、ここに慣れちゃったのかもね。ここは楽しい事が多すぎて、地上うえが極端に怖くなりすぎちゃったのかもしれないわ」

生唾を一つ飲み込むと、彼女は言う。



「ごめんなさい、カイト。約束、守れそうにない」



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