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少年達の会話、少女達の会話

「あー美味しい美味しいっ!! いやぁ美味しいですねカノンさんっ!! あはははははっ!!」

「もうあいつら居ないから大丈夫だっての……騒がしいから静かにしろよ」

先程、係員から手渡されたパンを頬張りながら、レオは無我夢中で喚き続ける。そしてカノンに諭され、安堵の溜め息をついた。

彼らは、自分達の部屋に戻る途中である。満員電車も裸足で逃げ出すレベルで混み合うエレベーターから飛び出した二人は、自らの部屋の前で口を開く。

「……す、すいません……なんかこういうのって慣れなくて……」

「こっちからしたら羨ましい限りだけどな。俺はもうお前を殴りたくて仕方がねえよ」

僅かに拳をプルプルさせながら、カノンはひきつった笑いを浮かべる。が、レオが一瞬ビクリと肩を震わせると、カノンは溜め息をつきながらその手を降ろす。

「お前の部屋ってここか? 俺らの部屋の隣じゃねえか」

「そ、そうなんですか。 よろしくお願いします……」

部屋には番号が振られており、レオ達三人の部屋は『D-0156』、カノンとネロの部屋が『D-0155』だった。レオはその不可解な表記に首を傾ける。

「この番号ってどういう基準で付いているんですか? 頭の『D』とかのアルファベットは?」

「……ま、色々話さなきゃいけないし、とりあえず俺の部屋入れや。お前らの部屋と対して変わんねえけどな」

そう言ってカノンは部屋のドアを開く。半ば無理矢理にレオの身体を押し、自らも中に入る。

彼の言う通り、そこはレオ達の部屋とあまり変わらなかった。ベッド、机が二つずつ。スカスカの本棚が一つ、天井に蛍光灯が一つという感じだ。

特に説明する部分もないような、普通の部屋である。

レオはそこの床にちょこんと胡座(あぐら)をかきながら座る。カノンは恐らく彼のであろうベッドに腰掛けた。

「さて、と……どこから話したらいいんだろな……えっと……」

「じ、じゃあ……さっきの番号の話から……」

「おう、わかった」

レオがおどおどしながら言うと、彼は柔らかな物腰で説明し始めた。

「俺の部屋番は『D-0155』なんだけど、頭の『D』っていうのは、ブロック分けの目安だ」

「目安?」

「あぁ。そもそもこの居住施設はクッソ広い。真ん中にある発電搭をぐるっと一周囲っているからな。で、それの一つ一つに部屋番を振ってたらややこしくなって訳が分からなくなる。だから大まかに東西南北で四つのブロックに分けて、分かりやすくしてるのさ」

「へえ~……」

「んでもって、下の数字はそれぞれのブロックでの振り分け、ってわけだ。まぁ、実際ここは広すぎて人がスッカスカなんだけどな」

「あんだけ人が居てスッカスカ、ですか……」

「ありゃあここの廊下が狭いからだよ。実際、Dブロックの部屋は半分も埋まってないしな」

カノンはペットボトルの水を口に含むと、一気に飲み干す。ちなみに、この水も支給されたものだ。

「……でも、これ以上人はそうそう増えないと思うぜ? ……大体の生き残りはここに収容されてる。他の奴らは死んだか、ここに来る前に飢え死にしてんだろうな」

「…………」

レオが少し俯いたのを見て、カノンはばつの悪そうな顔をする。

と、彼は何か思い付いたようにレオの顔を覗き込む。

「あー、悪い悪い! 何か、今嫌な奴だったな、俺。よぅし、ここはお前にとって新しいお家になるわけだし、色々と紹介してやるよ!」

「え?」

「朝風呂だ朝風呂! おら行くぞー!!」

「え、ちょ、待ってくださいよ~!」

カノンは勢いよくレオの手を握ると、部屋の外に連れ出した。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「レオた~ん!!」

そして数分後、ネロはレオ達の部屋である『D-0156』室のドアを元気よく開いた。

が、誰もいない。

「あれ……何で居らへんの?」

「おい、なんで人の部屋のドア開けてんの」

後ろから凄みを利かせたヒツユの声が響くが、ネロは気にしない様子で振り向く。

「レオたんが居らへんねん。どこ行ったんやろ?」

「そんなの私に聞いてどうすんの……あなたの方がここに詳しいんじゃないの?」

「カノン君も居ないね」

アミが隣のドアを開いて言う。欠伸(あくび)をしながら、自らの部屋の中に入る。

「なんか眠いからもう一回寝る~。お休み~」

「アカンで、飯食った後すぐに寝る奴は太るで」

「アミのいつもの生活リズムだも~ん」

「くっ……そんな不衛生極まりない生活であのナイスバディ……神に愛されし女やな」

ネロが悔しそうに言うと、ヒツユは呆れたように、

「何ワケわかんない事言ってんの。どうせトイレとかじゃないの?」

「ま、そうやな。気にすることちゃうか」

しかし、そこでネロはふと考え出す。

(いや待てよ……? カノンも居ないってことは、一緒に行動しとる可能性が高いな……)

そう、トイレをするなら一人で行けばいいのだ。場所が分からないとしても、ここからなら口頭で説明すれば辿り着ける距離だ。

(連れションとか面倒臭がりそうな感じやもんな、カノンは……)

そして考える。

(そうや、レオたんは他人に引っ張られやすい性格や。だとすると、カノンに連れ回されてる可能性も高い。カノンはいつもこの時間は……ハッ!!)

そこで解答の糸口を見つけ出したネロ。彼女は目をパッと輝かせ、両手を叩く。

(風呂!! 朝風呂や!! カノンの日課は朝風呂やから、それに連れ回されてるに違いないで!!)

ネロは気付く。これは、彼女にとってまたとない一大イベントなのだと。

「風呂イベントッッッッッ!!!!!」

思わず声に出してしまう。

「わっ、何? 風呂がどうしたの?」

「レオたんは風呂や!!」

そこでネロは自慢気に語り出す。余計な事だとは気付かずに。

「カノンはこの時間毎日風呂に入っとんねん!! 二人揃って居ないってことは、レオたんも一緒の確率が高い!! よってウチの行き先は、風……呂……」

と、そこでネロは自分の愚かさに気付く。目の前のヒツユが唖然とした表情でネロを見つめている。

「……なわけないわな。きっとトイレや、トイレに決まっと」


「チャンスッッッッッ!!!!!」


ヒツユは、しめたといった顔で廊下を全力疾走する。

「あー!!! 抜け駆けはアカンでー!!!」

だが、その叫び声は虚しく廊下に響く。ヒツユ特有の化け物のような脚力は、こんな場面でも有効活用されていた。

「なんちゅうスピードや……!! ウチも負けてられへん!!」

ネロも走り出す。ヒツユに追い付くことが出来ないと分かってはいても、その足を止めることはない。

(大丈夫や。奴は風呂の場所は知らへん。ウチの方が先に決まっとる!!)

その表情に僅かな笑みを浮かべながら、ネロはまっすぐ風呂場へと走っていった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



一方その頃。

「無理ですっ!! 戻りますっ!!」

「おいおいお前それでも男かよ!! どっちみち風呂には入るんだから、今更恥ずかしがんな!!」

「いや混浴とかマジ無理死にます出血多量で死にますって!!」

レオは裸にタオルを腰に巻いたまま、脱衣場の端でうずくまっていた。同じように上裸になっているカノンが肩に手を当てながら、真剣な眼差しで語り出す。

「いいか、男の目にとって最も癒しになるのは女性の裸だ。ここはそんな欲望を叶えてくれる最高の場所なんだぞッッ!!」

「僕ホントそういうの苦手なんですって何が男の欲望ですかこの世の男代表みたいな感じで言わないでくださいよ!!」

「大丈夫だってあっちもちゃんとタオル巻いてるからさぁ早くッッ!!!」

「嫌ですッッ!!!」

朝方のこの時間はあまり利用者が多くなく、よってこの男共に変な視線を当てる者は少ない訳だが、それでもレオは後ろめたいものを感じてしまう。

(だって女の人の裸ですよ例えタオルを巻いていたとしても大事な所が隠れていたとしてもいやいや可愛いアピールだけで鼻血を噴出してしまうこの僕がそんなものを見たら文字通り浴槽が血の海と化してしまうそれだけはダメだゴメンだ)

何故レオがこんな葛藤に苛まれているのかというと、まぁそのまま混浴というシステムのせいである。

そもそもこの施設を管轄しているのはもちろんロボットであり、つまりどういう生活をするのかもロボットに決められてしまうのは当然の事だ。そして、ロボットには基本的に『風呂に入る』という習慣がない。つまりロボット側からすればどういう設備にしたらいいのか分からないのだ。

さらに、ロボット側は基本人間を下に見る傾向があり、彼らからすれば『とりあえず温水に入ることが出来ればいいのだろう』といった感じなのである。過去の住民達の要望によってシャワーの設置や脱衣所の分離などは行われてきたが、風呂場自体の分離はまだ始まっていないのである。

「聞けよレオ。ここも女性達の反発によって明日、明後日にも分離工事が行われようとしている。工事中は別ブロックの風呂を借りることになるんだけどな、ここ以外のブロックは全部分離工事が終了してるんだよ!!」

「だからなんですか!!」

「つまり……風呂で女性達を眺めながら風呂に入るのも今日か明日で最後になるかもって言ってるんだよッッ!!! お前は運がいいッ!! 分離工事開始手前のタイミングでここに来れたんだからなッ!! だからほらッ!! 共にこの幸せを享受しようぜッッッ!!!!」

「イ!! ヤ!! デ!! スッッ!!!!」

「この軟弱者がァァアアアアアアアアアアアアア!!!!」

そんな訳で言い合う二人。

――――――結局カノンの勢いに負け、レオは快楽の花園(ふろ)に入ることになってしまうのだが。


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