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寝起き

「あ、れ……」

微かな寝息。それに違和感を覚え、レオは目を覚ました。

身体を突き抜けるような痛み。身体を動かす度にズキズキと疼き、彼の意識は一瞬にして覚醒する。

そして、目の前にとんでもない光景が現れる。

「……あ、」

既に肌と肌が触れあいそうな距離。少し動いただけで接触してしまうほどに密着したこの間に。



ヒツユが、寝ていた。



(あれぇぇええええええええええええ!?)

その瞬間、レオは理性が吹き飛びそうになる。バッと目を見開き、冷静になろうと深呼吸をする。

「すー、ふぅぅ……すー、ふぅぅ……よし、だだだ大丈夫……」

(まずは状況の再確認だ。それから対抗策を考える。落ち着け、僕)

レオは全身の震えを必死に抑えながら、脳をフル回転させる。

まず、彼はベッドに寝ている。ふかふかで、とっても寝心地のいいベッド。

……などというどうでもいい事から確認しなければ、とても精神を維持できるとは思えなかった。

次に、何故かヒツユが目の前にいる。身体に多少の傷を負ってはいるものの、やはりカルネイジが埋め込まれた人間である。ほとんど全快に近い状態で、彼女は極めて健康的な寝息を立てていた。

少し手を伸ばせば、触れてしまえそうな、というより触れてしまう距離だ。数センチメートルあるかないかくらいだろう。一呼吸ごとにかかる吐息が、レオの肌をくすぐる。

(大丈夫、大丈夫。とりあえず後ろに向こう。大丈夫だから……)

ゆっくり、少しずつ彼は方向を転換する。最初は足を無理なく捻り、そのあと手を逆向きに置き、何か柔らかいものに触れたけど気にせずに今度は身体全体を回転させて――――――

(ん? 柔らかいもの?)

レオがそこで微かに違和感を覚える。とりあえず何かあるのかと思い、その辺りを探ってみる。

(なんだ、一体何が……)

その時。



「んんっ……!」



その瞬間、レオは悟ってしまった。

(アカン、これはアカン)

身体全体を回転し、視点を180度逆に向ける。そこでレオは、危機感を感じてしまう。

彼の慎重な手が。



アミの胸に、触れている。



目の前の姉は、僅かに顔を歪ませる。それはもちろん、レオの手の動きのせいである。

(やってしまった、実の姉の乳を揉んでしまった。死のう、うん)

しかも、彼女が日常茶飯事にビキニなんてとんでもないモノを着ているせいで、生で揉んだのと大して変わらない感触を得てしまった。とりあえず、ゆっくりと自らの手を離す。彼女の唇から洩れる甘い吐息が、レオの理性を攻撃する。

(ちょっと待て、僕は何を考えてるんだ。実の姉だぞ、こんなもので何揺らいでるんだ。浮気か)

そうだ、揺らいではいけない。例え、背中側にいる彼女を越える乳を蓄えていたとしても、決して血縁上の姉に手を掛けてはいけないのだ。それはなくてはならない決まりであり、というより守らなければいけないモラルであり、決してヒツユとはまた違うコンセプトにときめいたとかではないのだ。

よって、今この瞬間、レオは理性的に行動しなければならない。清純派ツルペタ彼女や包容力MAXの巨乳姉には手を出すことはおろか、触れることすら許されないのである。

(そう、そうです、そうなのです。脱出を第一に考えるのです。現時点で何故三人揃ってベッドに寝てるのかとか、何故にこんな『両手に花』とでも例えてしまうような悪意だらけの配置なのかとかは一切考えなくていいのです)

緊張のあまりどこぞの賢者のようになっているが、戸惑うわけにはいかない。レオは少し考えて、ある作戦を思い付く。

(そうだ、足元から抜けよう。ベッドの下の方に潜り込んで、そこから脱出するんだ)

枕元には仕切りがあり、少なくとも片膝をつかなければ、それをまたぐ事は出来ない。しかも、枕元は彼女達の聴覚、視覚的な神経が集まる場所である。少しでも下手な動きをすれば、確実に誤解を招くだろう。

だが、足元の方には仕切りの(たぐい)は何もない。目線を限界まで下に動かしたが、そんなものは見えなかった。つまり、下からは気付かれずに逃げられるということだ。

(くっそぉ……枕元数十センチのこんな仕切りにこんなに恨みを抱くなんて……)

少しずつ、少しずつ身体を下へとずらす。まるで慎重な芋虫のように、ちぢこまりながら脱出を謀るレオだった。

ちなみに、掛け布団の中だから暗くてヘマをする、なんて事は関係ない。

レオの中に埋め込まれたカルネイジの(タイプ)は『猫』であり、その特性は夜目が利くこと。暗いから見えない、ということなどはありえないのだ。

だが。

それが仇になるとは、彼自身思いもしなかっただろう。

(……っ!?)

もう既に頭まで掛け布団に入り込み、ベッドの半分程まで来たレオは、自身の力を恨む。

(こっ、これは……!!)

そこでレオは、新たな何かに目覚めるキッカケを目の当たりにする。

最初に彼の目に入ったのは、もぞ、と動く布団。

そして、そこでちらりと見えた、実の姉の足。

(……考えるな、常に冷静でいろ……)

生足という、男の心臓を鷲掴みにする魅力ポイント。こちらも同じく、アミが奇抜な格好をしているせいで、余計にエロく見えてしまう。

これではいけないと、レオは逆を向く。ヒツユのならば、短パンであるとしても、アミよりはエロくはならないだろう、と。

だが。

それは、間違いだった。

(ソックス……だとっ……!?)

ヒツユは普段、短パンを穿き、そして膝下くらいまでのソックスを履いている。紺色で、何処かなめかしくモゾモゾと動くそれは、レオの心をガッチリと掴んでいた。

(僕……なんかその辺のフェチでもあるのかな……)

などというくだらない妄想を振り切り、レオはようやくベッドから脱出する。掛け布団の波から抜け出すときには、既に彼の髪の毛はボサボサだった。バチバチバチ、と静電気が鳴り、その音にビクリと身体を震わせる。そんな音で二人が起きるはずはないのに、どこかで小動物のようにビクビクしていた。

(何とか気付かれずに済んだ……)

安堵の溜め息をつき、辺りを見回す。ここは小さめの個室のようで、と壁も天井も一面が薄い白色だった。床は申し訳程度のカーペットが敷いてあるが、あまり暖かさに期待は出来ないようだった。

人が住むには、あと少しだけ足りないような部屋だった。窓は無く、部屋は真っ暗だ。レオは夜目が利くため、辺りを見回すことが出来る。そんな彼は、天井に蛍光灯が一つだけあるのを発見した。

(最低限の設備……か。ていうか、ここは何処なんだろ?)

部屋のドアのようなものを見つけ、それをゆっくりと捻る。ちょこんと首だけを外に出す。

「う、わぁぁぁ……!」

そこには、何千キロメートルもあるのではないか、という程の長廊下があった。この部屋と同じ様な部屋が幾つも並んでいるらしく、ドアが無数に配置されていた。廊下自体の幅は広くもなく狭くもなく、といった感じで、学校などの廊下を想像してもらえれば大体は察せるだろう。

照明は点いているが薄暗く、幾つかは点いていないものもあるようだ。人の出入りは無く、遠くまでしんとした雰囲気だった。

と、そこに一人の男性が現れた。オールバックの髪で、無精髭を生やした男。三つ程向こうのドアから現れた彼は、眠そうな顔で廊下を横切っていく。

「あ、ちょっと……」

レオは咄嗟に飛び出し、彼の元へ駆け出した。

「ん? 見ない顔だな、坊主」

「あ、あの……すいません、ここって何処の施設ですか……? 気付いたらここに居て、何だかよく分からないんですけど……」

「あぁ、坊主もここに連れてこられたのか」

男性は気だるげな表情を浮かべると、欠伸をしてから説明する。



「ここはな、人間の収容施設だ。ロボットが運営していて、俺達を匿ってくれてるのさ」



そこで、レオは驚いたような顔をする。

(ロボットが……? ってことは僕達、辿り着いたの?)

そう、ここはレオ達が目指していた場所だ。ロボットが管理する、人間の為の収容施設。

しかしおかしい。レオ達三人は、カンガルー型カルネイジとの戦闘によって全滅させられていたはずだ。ヒツユの意識が潰え、レオの意識が潰え、最後にアミの意識が潰えた。ここに来ることなど、叶わないハズだったのに。

そういえば妙な話だ。レオ達は何故、あのような部屋に寝かされていたのだろうか。ロボット達が回収してくれたのだろうか。

(分からないことだらけだ……)

レオは少し考え込む。しかし答えは出てこず、ただ唸るばかり。

すると、男性は急かすような口調で、

「坊主、考えるのもいいが、俺の事も考えちゃくれねぇか? そもそも俺はトイレをしに来たんだ」

「あっはい、す、すいません……」

レオは慌てて謝り、足早にその場を去ろうとする。

「おい待て坊主。ちょっとこっち向きな」

「は、はい……?」

顔だけ振り向くと、その男性はレオの顔をジロジロと見る。

「な、何ですか……?」

「いや、あの娘と似てるなぁと思ってな」

「はぁ……」

「もういいぞ、じゃあな」

その言葉を聞くと、レオはそそくさと退散した。何だか意味深な彼の言葉に首を傾げながらも、レオは自身の部屋へと戻っていった。

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