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休息

「うわ、中も酷い荒れようね」

イリーナはビルの中に入るなり、そう言った。

眼前には大して広くもないロビー。ただしカルネイジに荒らされたであろう痕が幾つも残っているところを見ると、やはりここも他の建造物と変わらないのだろう。

「何もなーい。面白くなーい!」

「遊びに来たんじゃないんだからブーブー言わないの。休めるだけありがたいと思わなきゃ」

「ちぇっ」

ヒツユは唇を尖らせ、そのまま階段を登っていく。どうやら荒れ果てた一階には興味がないらしく、大振りのバスターソードを肩に乗せながら、上の階を捜索しにいった。

「カルネイジがいたら戻ってきなさいよー!!」

「リョーカーイ!!」

手を筒のような形にし、メガホンのようにして呼び掛けると、大して深く考えてもいないようなやっつけの返事が返ってきた。まぁ、どうせ彼女ならカルネイジが居ても、問答無用で倒してしまうだろう。

「あー疲れた。何か最初っから壮絶だったわね……」

自分の血塗られた右手を見つめながら、イリーナは溜め息をつく。多大な疲労感から来るそれは、彼女の全身の力を分散させ、座ることを要求する。

彼女は適当に壁に背中を当て、そのまま崩れるように床にへたりこむ。疲労による猛烈な眠気を無理やりに抑え込み、彼女はヒツユに出会うまでの事を思い起こす。


ヒツユと出会ったのは、先程の『地上掃討軍発射口』玄関ホールだ。それ以前の交流はしたことがなく、霧島(きりしま)日露(ひつゆ)の名前も待ち合わせをする前日に初めて知った。身長、体重などのデータもその時に受け取ったのだが、それ以外のことは何も知らされていない。分かっているのは翌日の待ち合わせ場所、身体の簡単なデータ、そして顔写真である。

出身、経歴などは一切ナシ。顔写真などの情報も『地上掃討軍本部』から送られてきただけだったため、他の情報を得ることは出来なかった。


程なくして、ヒツユが戻ってきた。

「イリーナ、上の階も面白そうなの無かったよぉ……ふええ」

「そう。まぁカルネイジがあらかた荒らしてるでしょうから……当然っちゃあ当然ね」

イリーナは血飛沫を浴びたタンクトップを脱ぎ、新しいモノに着替えるところだった。それを確認したヒツユはまるで面白いものを見るような目で、

「ちょっとなにそれ!? イリーナだけズルい!!」

「アンタの装備にも入ってるわよ」

「あ、そうなの」

「ホントに話聞いてなかったのね……」

ヒツユは辺りを見回す。しかし、

「あれ? 私の『カバン』は?」

「音声認識で転送させるのよ」

「あ……えっと、そうだった。えーと、『てんそう』」

その声と同時に、ヒツユの後ろから縦1メートル、横40センチ、高さ20センチ程度のアタッシュケースが現れた。見た目は銀色で、特に目立った特徴もない当たり障りのないモノだ。

「すげー!」

「今の技術じゃあこういうアタッシュケース程度が限界らしいのよね。人を転送できればわざわざ高度1000メートルから飛び降りる事もないのに」

2101年現在、物資の運搬技術はもはや物体をテレポートさせるまでに至っていた。流石に人間を送るまでは不可能らしいが。

アタッシュケースの中身は、必要な飲料水や食糧、替えの衣服や道具など、地上で生活していくためには何かと必要になってくるモノが詰まっていた。

イリーナはその中の着替えを引っ張り出し、ささっと着替えていった。大して変わらない、カラーリングが微妙に違うだけの着替えだったが、イリーナ自体にそういうこだわりは無いらしい。

「私も血やら何やらで汚れちゃったしー、洗ってから着替えよーっと」

ヒツユはアタッシュケースから飲料水のボトルを取りだし、服を着たまま、それを頭上から思い切りぶちまける。

「ちょ、水跳ぶからもうちょい離れてやりなさいよ」

「ふぃ~。あ、ごめんね」

水を流しながら、ヒツユはその茶髪から血をこそぎ落とす。顔に付着した血も洗い流し、腕や脚などの方も多少乱雑めに擦っていく。

やがて全ての汚れを落とした彼女は、水を払うように頭をブンブンと振る。だから水跳ぶって言ってるでしょうが、というイリーナの声にも即座に断りを入れ、彼女は服を脱いでから身体を拭いていった。

「……あのねぇ、ヒツユ。いくら同性だからといってもね、大事なところくらいは隠しなさいよ。人の目の前で身体拭いてくヤツ、アタシ初めて見たわよ」

「へ? 別におかしな事じゃないと思うけど」

「おかしいわよ!! 思いっきり異常だから!!」

「だってさっきイリーナも着替えてたじゃん」

「アタシゃちゃんと背中向けてたしタオルで隠してたわよ!! ていうかアタシが着替えてた時にアンタが戻ってきただけでしょ!!」

「大して変わんないじゃん」

「変わるわ!! 一緒にすんな!!」

どこかプライドがあるのか、顔を真っ赤にして反論するイリーナ。いや、この場合明らかにおかしいのはヒツユなのだが、彼女に妙な落ち着きがあるからか、イリーナの方がどこか追い詰められている感じがする。

イリーナに急かされ、ヒツユは渋々服を着替える。

「あれ、アンタ全く同じ服じゃない。替えの服も同じデザインなの?」

「うん。同じ感じの服しかくれなかったの。大体服を買うお金も持ってないし」

「……ん、そうなのね」

なんだか聞いてはいけないことを聞いてしまった気がして、イリーナは少し申し訳ない気分になった。

きっとこの子は孤児なのだろう、という予想が、イリーナの脳裏に浮かび上がる。それ自体は珍しいモノでもない。世界人口が90%減るような時代が訪れていたのだから、当然そんな子供も出てくるだろう。

だがそれを、その過去をほじくり返すことは、決して良いことではない。彼女も失くしたモノがある手前、そんなことされてはたまらないのは分かっていた。

だから、この会話は流した。

「……そういえばアンタ、これからどうするかも分かってないんでしょう? しゃーないし、一から教えてあげるわ」

「うん、ありがとう」

お互いに隣り合い、壁に背中を預けながら、彼女たちは口を開く。

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