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愛情の交差

無音のまま。

エレベーターは、降りてきた。それに乗った少女には、先程のような五月蝿(うるさ)さは無かった。

最初に出会った時と同じ。

表情の無い瞳を持ち、表情すら浮かべないような、物静かな女の子だった。

「アルマ、おかえりなさい」

クラルは、そんなロボット少女であるアルマに歩み寄った。

「頑張ったね。姉さん嬉しいわ」

「…………」

アルマは喋らない。表情も変えず、ただ無言のまま。

しかし。

ゆっくりと、クラルに抱き着いた。

クラルの胸に顔を押し付け、いとおしげに抱き締める腕を強める。

「好きなだけ姉さんに甘えていいのよ? アルマは頑張ったんだから」

「…………むふー」

表情には出さずともやはり嬉しいのか、アルマの息が荒くなる。顔を押し付けているため、変な音が外に洩れているのだ。

「可愛いもんねぇ……無駄口さえ叩かなきゃもっといいんだけど」

イリーナが溜め息をつきながら呟く。

すると、アルマは無表情のままこちらを向く。握り拳から親指を立て、そのまま下へ向けた。

(めっちゃ嫌われてる……)

「ほらアルマ、やめなさい」

「…………」

クラルに怒られたからか、彼女は嫌な仕草をやめた。

しかし次の瞬間には、イリーナへ中指を立てていた。

(酷くなってる……)

イリーナを嫌う、クラルに怒られるの循環により、彼女のイリーナに対する好感度がどんどん下がっていく。もはや好感度ゼロを超えて、マイナスまで下がっていそうな雰囲気である。

「もう! そんなことするんだったら姉さんアルマの事嫌いになるかもしれないわねー」

それが、クラルにとって最後の切り札であった。

「…………!?」

僅かに目を見開いたアルマは、再びクラルの胸に顔をうずめ、イヤイヤと首を横に振る。これだけ見ていれば、なんだか感受性は結構豊かじゃないのか、なんて思ってしまうかもしれない。

だが、実際に彼女は先程から一言も喋っていない。瞳には光という光がこもっておらず、まるでハイライトを消したかのような無感情っぷりである。

それに、戦闘中の彼女のはっちゃけっぷりというか、キャラ崩壊ぶりは目に余るものだった。それのせいで、余計に彼女が感情を消し去っているのだなというのを痛感してしまう。

すると、クラルはアルマの額に自分の額をくっつけて、

「……今日はもう疲れたでしょう? そろそろ休んだ方がいいわ。あなたの充電が切れてしまったら、ここを守る者は居なくなるワケだしね」

優しげな口調で、そう言う。

しかし、アルマは再び首を振る。

「そんな事言わないで。一緒に寝てあげるから。ね?」

「…………」

コクリ、と。

渋々、アルマは寝室へと向かう。相変わらず、クラルの胸に顔を押し付けながら。

それを見て、イリーナは思った。

(……ロボットでも、寝るのね……)

訳あって、イリーナの身体は睡眠を欲するように出来ているため、ロボットが寝る起きるという行動に、なんだか新鮮さを覚える。

イリーナはとりあえずソファーに座って、アルマが寝付くのを待つことにした。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「これからどうするの?」

ヒツユはごく自然な表情で、アミに問い掛ける。

「……ヒツユちゃん、ロボットの街って知ってる?」

「知ってる。レンさんに聞いたもん」

「全部聞いたの? 目的も?」

「うん」

こくん、と頷くヒツユ。

それを確認すると、アミは真剣な顔つきになる。

「……アミ達は変わらない。その目的に沿って行動することになる。つまり、危険は免れられないの」

「うん……」

「でもヒツユちゃん。あなたにはお友達を捜すっていう目的があるでしょ? もちろん、今からでもみんなでお友達を捜すけど、その先はあなた自身が決める事になるよ」

そう。

本来の目的を忘れてはいけない。ヒツユの目的は、イリーナ、イチカと合流する事。

それが、バタバタしていていつの間にか先伸ばしになっていただけ。

しかし、ヒツユは少し寂しげな表情を浮かべて、呟く。

「……もう、いいの」

「え?」

アミが首を傾げる。

「薄々、気付いてるの。元々、この地下街はそんなに広くはない。そんな場所で、私達は何回も戦った……」

ヒツユは、グッと両手を握り締めながら、

「なのに、イリーナ達からは何の音沙汰もない。戦闘音くらい聞こえてもいいハズなのに、それでも二人は現れない」

「ヒツユちゃん……」

アミが心配そうな表情を浮かべる。

すると、ヒツユは顔を上げた。泣くのを堪えているのか、僅かに声が震えている。



「どうせ死んでるんだ。イリーナも、イチカも。死んでないとしても、私が死んだと思って、何処かに行っちゃったんだ」



その言葉に、アミは何も言ってやることが出来なかった。

安易に『生きてるよ』、とも言えない。アミはイリーナと面識が無いため、確信の持ちようが無いのだ。

無神経に励ます事も出来ない。それが、更に彼女を傷付けてしまうかもしれないから。

「でも、大丈夫だよ。私も大事な人達を失った。……辛さを、共有できるね」

「……そんなのって……」

ここまでの状況で、なおヒツユはアミの心配をしていた。

ヒツユは、自身の仲間が死んだ。なのに、それを逆に捉えている。アミと繋がる、キッカケとしている。

「だから、もう捜すなんていいよ。私の居場所はもう、ここしかないの。……レオ君と離れるなんて、もっと嫌だしね」

最後の一言で、照れ臭そうに笑う。我慢して作り上げたかのような、虚偽の笑み。

「……我慢なんて、しなくていいんだよ?」

アミは、ヒツユにそう言い聞かせる。

「あなたは、アミよりも年下なんだから。ホントはアミなんかを守らなくてもいいし、アミに甘えてもいいんだよ?」

「……我慢なんてしてないよ。私はレオ君が大好きだし、アミの事も大好き。だから、ここにいる。他に居場所が無いことを抜きにしても、私はここが大好きなの」

「そう……それならいいけど。でも、一人だけで抱え込まないでね」

アミはヒツユを自身の膝に座らせると、その身体に自らの腕を絡ませて、言った。



「――――――あなたには、レオもアミも付いているんだから、さ」



「……うん」

その言葉、その優しさに触れてもなお、ヒツユは泣かなかった。

(強い子だね……アミも頑張らなくちゃ)

アミはその姿を見て、それを深く痛感した。

と、そろそろヒツユが小恥ずかしくなったのか、レオの事へと話題を切り替える。

「レオ君、起きないね」

「この子カルネイジ化してからは、寝付きが悪くなった代わりに、何しても起きなくなっちゃったの。見た感じ猫のカルネイジだから、若干夜行性が混ざってるのかもね」

「夜に寝られないから、寝れるときに沢山寝ちゃおうとする、ってこと?」

「ま、そんな感じだよ~」

ヒツユはアミの膝から降り、レオに覆い被さるように観察する。

(……何しても起きないのかぁ)

若干変な妄想が頭をよぎるが、すぐにそれを振り払う。

試しに、レオの頬を引っ張ってみる。

「……ほぁぁぁぁ……」

変な声を出すレオ。寝言なのか何なのか、彼女には判断出来なかった。

次に、レオの尻尾に触れてみる。最初にツンツン、と指先で触り、何も反応がないのを確認すると、軽く握りこんでみる。

「……ふにゃぁぁ……」

またもや変な声を出すレオ。ただ、あんまり良い感じではなかったようだ。若干顔がひきつっている。

(レオの尻尾を握るヒツユちゃん……なんか卑猥)

アミがあられもない事を考えていると、ヒツユは次の行動へと移った。

もしかして猫っぽい所に反応するのか、と今度は喉をさすってみる。指先を動かしながら、猫にするような仕草でレオに触れる。

「……あああぁぁぁぁぁぁぁぁおおおぉぉぅ……」

なんだかくすぐったそうににやけている。それにつられて、ヒツユもにやけてしまった。

「……可愛いー。にゃあー」

ヒツユは喉から手を伸ばすと、レオの前髪を掻き上げた。おでこを擦ったりして、反応を楽しんでいる。

ふと、アミは思った。

(……これはまさかアレじゃない? アミが背中を押したらアレしてしまうフラグじゃない?)

そういう少女漫画的シチュエーションは大好物のアミは、すぐさま行動に移す。仕方ない、これもレオの為だ、決して自分がそういうのが見たいとかそういうのではない、と自身に言い聞かせる。

「あ、手が滑ったー♪」

わざとらしく、アミはヒツユの背中を押した。

「え、ちょ――――――!」

結果、ヒツユはレオの顔へと接近してしまい、最終的には――――――



――――――その後。

そこからアミがヒツユにボコボコにされたのは言うまでもなかった。

しかしヒツユは顔を真っ赤にしながらも、どこか嬉しそうにしていた……気がする。アミからの視点では。

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